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ミラクル7号」 
                     

            2008(平成20)年4月14日鑑賞<ソニー・ピクチャーズ試写室>

監督・製作・脚本:周星馳(チャウ・シンチー)
ディッキー・チャウ(ティーの小学生の息子)/徐嬌(シュー・チャオ)
ティー(ディッキーの父親、実直な労働者)/周星馳(チャウ・シンチー)
ユエン先生(ディッキーの味方の女先生)/張雨綺(キティ・チャン)
カオ先生(ディッキーの担任教師)/リー・ションチン
キレやすい体育教師/フォン・ミンハン
ジョニー(イジメっ子の男の子)/ホアン・レイ
暴龍(ジョニーの用心棒をつとめるパワフルな小学生)/ヤオ・ウェンシュエ
マギー(小学校でいじめられている巨漢少女)/ハン・ヨンホア
ボス(工事現場の親方)/林子聡(ラム・ジーチョン)
2008年・中国映画・88分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

<チャウ・シンチーとは?ミラクル7号とは?>
 アジア圏で最も愛されるエンターテイナーの1人と言われている香港生まれの周星馳(チャウ・シンチー)を私がはじめて知ったのは、チャウ・シンチーが監督・製作・脚本・主演をした『カンフーハッスル(Kung Fu Hustle)』(04年)。「ありえねー」を連発する「これぞ娯楽映画!落ち込んだ時の気分転換には最適!」のカンフー映画は、香港映画史上最大のメガヒットとなったというからすごいもの(『シネマルーム6』199頁参照)。そんなチャウ・シンチーが、今度は謎の地球外生命体ミラクル7号(ナナちゃん)を登場させ、再びチャウ・シンチー独自の「ありえねー」世界を構築。
 ガキ大将ジョニー(ホアン・レイ)が自慢するおもちゃは最新のペット型ロボットミラクル1号だが、超ビンボーな小学生ディッキー・チャウ(徐嬌/シュー・チャオ)がそれに対抗して持つのが、犬のような4本足の謎の生物であるミラクル7号。これはもともと、ゴミの山の中に隠れていた緑色のゴムボールのようなものが変身した生命体で、宇宙からやってきたUFOが残していったものらしい・・・?超ビンボーながら息子に勉強させたい一心で建設現場で一生懸命働く実直な父親ティー(周星馳/チャウ・シンチー)とディッキーとの親子愛を絡ませながら、チャウ・シンチー監督はディッキー少年とミラクル7号にどんな活躍をさせていくのだろうか・・・?

<拝金主義への強烈なアンチ・メッセージも!>
 1980年代から改革開放政策が推し進められ急速に近代化した中国では、貧富の差が拡大するとともに拝金主義の蔓延が大きな社会問題になっている。チャウ・シンチーはそんな現代中国の問題点について、ビンボー親子の対話を通して大きな警鐘を鳴らしている。ティーがいつもディッキーに言うのは、「貧乏でもいい、ウソはつくな。盗みはするな。ケンカはするな」という単純だが明確なもの。自分には学がないから建設現場で働くしか能がないものの、息子には勉強をさせ、社会の役に立つ立派な人間に育てたいという父親のメッセージが再三再四くり返されるのがこの映画の特徴。もちろんチャウ・シンチー自身は大成功し、億万長者になっているが、第2期に入った胡錦濤政権が目指す和諧社会が容易に実現できず、拝金主義がますます広がっている今の中国では、チャウ・シンチーのそんなメッセージはきわめて貴重!

<キャスティングの妙にも注目!>
 私を含め観客の多くは、この映画のキャスティングにビックリするはず。まず、1万人近くから見出されたという主人公の少年ディッキーを演じたシュー・チャオは、何と1997年生まれの女の子!彼女はチャウ・シンチーのスター・オーバーシーズ社と8年間の独占契約を交わし、同社の特待生となったうえ、私生活でもチャウ・シンチーと養子縁組したことで話題となったとのこと。
 次に、時にサングラスをかけて登場するガキ大将のジョニーも、1998年生まれの女の子。さらに、撮影上の技術でゴマかしているのかと一瞬疑ってしまった巨漢の小学生マギー(ハン・ヨンホア)を演じるのは何と男性レスラーとのこと。逆に、ジョニーの用心棒となっているパワフルな小学生暴龍(ストーム・ドラゴン)を演ずるのが、実は23歳の女性ヤオ・ウェンシュエというから恐れいる。多くの観客はきっと騙されるはずだ。
 この映画は、そんなキャスティングの妙にも注目を!

<親と教師との信頼関係が大切!>
 今の日本では、病院にはモンスター・ペイシェントが、学校にはモンスター・ペアレントがわが物顔に闊歩しているが、それは社会的な大問題!
 『カンフーハッスル』における紅一点のアイス売りの女の子フォンを演じた黄聖依(ホアン・シェンイー)と同じように、『ミラクル7号』には学校で唯一人ディッキーの味方となる美女ユエン先生(張雨綺/キティ・チャン)が登場するから要注目!そして、そんなユエン先生とディッキーの父親ティーが見せる、教師と生徒の父親との関係は、固い信頼関係で結ばれた理想的なものだから、日本でも大いに参考にしなければ。もっとも、キレやすい体育の先生(フォン・ミンハン)や成績至上主義で鼻くそほじりに忙しい(?)担任教師のカオ先生(リー・ションチン)たちにまじって、ディッキーの学校にあんな清楚で美しい女教師がいることは奇跡としかいいようがないが・・・。
 キティ・チャンはチャウ・シンチーが見出した映画初出演のラッキーガールだが、彼女もスター・オーバーシーズ社と8年契約を結んでいるとのこと。また、私が3月27日に観た柴咲コウ主演の『少林少女』(08年)にも重要な役で出演している他、チャウ・シンチーの次回作『西遊記』では三蔵法師を演じるとの噂もあるから、今後の注目株だ。

<「使えねー」のオンパレードだが・・・?>
 『カンフーハッスル』は「ありえねー」がキーワードだったが、『ミラクル7号』は少なくとも前半は「使えねー」がキーワード・・・?復元力豊かだから、いくらたたいても壊れない奇妙な生きものミラクル7号ことナナちゃんは、並外れたさまざまな能力をもっていると推測させるに十分な雰囲気をもったクリーチャー。したがって、それまでジョニーたちにいじめられ、ミラクル1号のような最新鋭のおもちゃを買ってもらえなかったディッキーが、ナナちゃんの能力発揮によって彼らを見返してやろうと期待したのは当然。また、期待されても一向に上がらない成績もナナちゃんによって何とかなるサと思ったようだが、残念ながらナナちゃんは使えねーキャラ・・・?
 映画中盤は「ウンチ騒動(?)」をはじめ、そんなナナちゃんの「使えねー」ぶりをめぐる面白いシーンが続出するから、それに注目!そして、そんな「使えねー」キャラのオンパレードにキレてしまったディッキーは、ある日ナナちゃんをゴミ箱の中に捨ててしまったが・・・。

<問題はディッキーの頭の中!>
 父親ティーの教えは「ウソはつかず、ケンカせず、一生懸命に勉強すればビンボーでも尊敬される」というもの。ディッキーはその教えを日々実践しようとしていたが、そこは子供のこと。おもちゃや女の子をめぐって(?)対抗心を燃やしたり、新しい靴や扇風機を欲しがったり、また時には成績を親にごまかすことだってありうるもの。ナナちゃんが登場する以前であれば、ディッキーはそれは自分が至らないせいだとわかっていたはずだが、ついナナちゃんに過剰な期待をかけてしまうと、コトがうまく運ばないのは自分の努力不足のためではなく、ナナちゃんのせいにしてしまうことも・・・。
 ゴミ箱に捨てたナナちゃんがゴミ収集車に収集されて運ばれてしまった後、ディッキーはやっとそのことに気づいたが、既に後の祭・・・?

<「ありえねー」展開をじっくりと!>
 高所恐怖症の私は、あんな高い建設現場の上でよくもあんな危険な仕事ができるものだと心配していたが、成績を偽ったディッキーがティーから怒られてふてくされている中、心配したとおりティーの落下事故という大惨事が!口では厳しいことを言っていても、いつもティーを温かく見守っていた現場監督のボス(林子聡/ラム・ジーチョン)や、ディッキーを心配したユエン先生らが病院にかけつけてきたが、ティーは治療の甲斐もなく・・・?
 そんな現実を受け入れることができないディッキーは、一人泣きながら眠り、「朝起きたら必ず側にティーがいるさ」と強がったが、いくら強がってもムリなことはムリ!ところが、そんな常識どおりにコトを運ばせず、「ありえねー」脚本を書いてしまうのがチャウ・シンチー流・・・?今まで「使えねー」キャラだったナナちゃんは、こんな局面でさてどんな能力を・・・?
 チャウ・シンチー作品は何が飛び出してくるかわからないところが面白いのだから、本来そんな映画には私が書いているような評論は必要なく、ただスクリーンを楽しめばいいもの。したがって、ここまででも既に書き過ぎだと反省し、私の評論はここでとどめたい。そして、この後は、あなた自身の目で「ありえねー」展開をじっくりと・・・。
                               2008(平成20)年4月15日記