日07−86

「キサラギ」
                      

              2007(平成19)年4月9日鑑賞<試写会・朝日生命ホール>

監督:佐藤祐市
原作・脚本:古沢良太
家元/小栗旬
オダ・ユージ/ユースケ・サンタマリア
スネーク/小出恵介
安男/塚地武雅(ドランクドラゴン)
イチゴ娘/香川照之
東芝エンタテインメント配給・2007年・日本映画・108分

<この映画は脚本がすべての出発点・・・>
 この『キサラギ』という映画は、古沢良太が書いた脚本がすべての出発点となった。つまり、古沢良太が『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)以前から書き進めていた脚本『キサラギ』に目をつけたプロデューサーが映画化を決定し、俳優の選定から監督の選定にと進んでいったわけだ。したがって、普通プレスシートには監督のインタビューが載っているものだが、『キサラギ』では佐藤祐市監督ではなく、脚本家、古沢良太のインタビューが載っているほど・・・。
 それほど脚本が重視されたのは、『キサラギ』がアメリカの陪審映画の名作『十二人の怒れる男』(57年)やそれを日本版にアレンジした『12人の優しい日本人』(91年)と同じようなワンシチュエーション・ドラマだから。つまり、始めから終わりまで、一室に集まった登場人物たちの会話のみによってスクリーンに観客を引きつけるためには、会話だけで十分面白い脚本を練り上げなければならないわけだ。古沢良太はインタビューの中で、「僕は『十二人の怒れる男』や『12人の優しい日本人』といったワンシチュエーションの物語が好きで、脚本家ならば一度は挑戦してみたいジャンルだと思っていました」と述べているから、自分の書いた脚本がこんな個性的な役者5人をそろえて映画化できたことに大いに満足していることだろう。
 タイトルを聞き、イントロダクションを読んだだけでは、今ドキの軽薄で笑いをとるだけのチャチなドラマだろうと思っていたが、何の何の・・・。私の採点は、何と星5つ・・・。

<『キサラギ』はグラビアアイドルの名前!>
 平和な時も戦争の時も、世の中にはいつもグラビアアイドルなるものが存在し、世の男たちの心を癒す役割を担うもの・・・?そんなグラビアアイドルは、必ずしも美人でスタイルがよくかつ頭が良くなくてもオーケー・・・?なぜなら、すべてにおいてあまりにも完璧なグラビアアイドルは親しみがもてず、とりわけ自分に自信のない男たちにとってはちょっと太めであっても、また少し間の抜けた女性であっても、かえってその方がやさしく自分を受け入れてくれると感じ、どうしようもないほどかわいいと思えるもの・・・?ちなみに、ハリウッド女優ではマリリン・モンローがその典型・・・?
 そんなC級、いやD級のグラビアアイドルが、昨年の2月4日、自殺によって死んでしまった如月ミキ。そう、この映画のタイトル『キサラギ』は、そんなグラビアアイドルの名前を表したものなのだ。

<出会い系サイトには危険がいっぱい・・・>
 数日前から「オヤジ狩り」ならぬ「援交狩り」という物騒な言葉がマスコミを賑わしている。これは15歳〜19歳の不良グループの中の女の子が、ツーショットダイヤルで連絡をとっていた男とJR小倉駅で出会い、「門司港レトロ地区に行ってみたいワ・・・」と誘い、門司港レトロ地区に着くと、そこで待ち受けていた不良グループの男たちが援交男をボコボコにして、金品を奪おうとしたもの。「オヤジ狩り」のターゲットは50歳前後のスケベそうなオヤジが多かったが、この「援交狩り」は、出会い系サイトを使いこなしている男が対象だけに、被害者は28歳の男だった。このように、出会い系サイトには危険がいっぱい・・・。
 そこで今日、如月ミキの一周忌追悼会を主催した家元(小栗旬)のもとに集まってくるのはどんな人物・・・?もちろん、ネット上の名前は明らかにされているが、果たしてそれが現実にはどんな人物か、年齢はもちろん男か女かさえもわからないもの。そんな、ネット上の(架空の)人物が現実に姿を見せて集まれば、ひょっとして危険がいっぱい・・・?

<脚本の次は、俳優の個性!>
 ワンシチュエーション・ドラマの脚本がいくらすばらしくても、スクリーン上で演ずる俳優の個性が観客を引きつけなければ、映画として成功するのはムリ。同じセリフでも、誰がどんな表情でどのように語るのかによって、その価値は大きく変わるもの・・・。
 『十二人の怒れる男』が大成功したのは、主役であるヘンリー・フォンダの熱演とそれを支えた11人の男たちの個性だが、『キサラギ』は5人の男たちの出来が平等に映画の成否のカギを握っているから、5人の俳優のキャスティングが大変・・・。
 プレスシートによると、まず最初に決まったのが、オダ・ユージ役のユースケ・サンタマリアであり、次に一周忌追悼会を主催し、ストーリー全体の狂言回し的な役割を果たす家元役の小栗旬とのこと。続いて、登場人物の中で1番オチャラケているが、会話の潤滑油となるスネーク役に小出恵介が、何を考えているのかわからないクセ者イチゴ娘役に香川照之が、そして安男役に塚地武雅が決まったとのこと。
 この5人の中で、顔とスタイルだけでホントに個性的なのは、@一目見ればその顔を忘れられない太っちょのお笑い芸人、塚地武雅、Aちょっと不気味なイチゴ娘役を難なくこなす演技派の香川照之、Bコミカルな顔を隠してシリアスな役を堂々とやってのける背の高いユースケ・サンタマリアの順番。残り2人の小栗旬と小出恵介は二枚目俳優だから、あまり個性が目立たず、それがこの映画ではハンディキャップになってしまう。そのため、この2人は顔やスタイルを超えたしゃべりの演技で個性を示さなければならないが、そのしゃべりの演技力は・・・?

<主催者の狙いは・・・?参加者の狙いは・・・?>
 一周忌追悼会を主催した家元は、いかにも今ドキのオタク若者で、彼女に関するありとあらゆる情報を集めているというのが自慢のタネ。したがって今日は、如月ミキを追悼するという目的もさることながら、ネット上で知り合った4人の如月ミキファンたちに対して自慢話をしたり、自分のコレクションを見せつけたいというのが本音・・・?したがって、服装も追悼会にふさわしくなく普段着のまま・・・?
 最初に追悼会場に到着した安男はえらく遠いところから駆けつけてきたようだが、これもちょっとトレンディーすぎる(?)服装で、楽しく盛り上げた方が如月ミキの追悼会にふさわしいと考えていた様子・・・。ところが、3番目に到着したスネークは喪服だし、4番目に到着したオダ・ユージに至っては、「追悼会には追悼会の服装があるはずだ!」と厳しく言い放つちょっとヘンな奴・・・。さらに、最後にやってきたイチゴ娘に至っては、ネット上の書き込みを読めば当然若い女の子だと思っていたのに、オカマ風のヘンな中年男・・・。
 さあ、この4人の男たちは、一体何を狙って今日の追悼会に参集したのだろうか・・・?ホントに如月ミキの思い出話に花を咲かせるため・・・?そんな脚本ではプロデューサーが映画化に飛びつくはずはない。さて、主催者と4人の参加者の狙いは・・・?

<自殺ってホント?事故死かも・・・?他殺かも・・・?>
 あれほど無邪気で明るそうだったグラビアアイドルの如月ミキが、部屋に油をまきそれに火をつけて自殺したのは、「もう疲れた・・・」という遺言めいた電話をマネージャーにした直後のこと。新聞報道によれば、警察もいろいろと調べたが、実は仕事があまりパッとしないうえ、ヘアヌード写真集を出さなければならないことに悩んでいた彼女が、一瞬自殺を思い立っても不思議ではないという結論になったらしい・・・。
 如月ミキのことなら誰よりもよく知っていると自負している家元は、そんな新聞報道を単純に信じていたが、えらく厳格なモノの言い方をするオダ・ユージは、「彼女の自殺には疑問がある」という自分の推論を次々と展開していった。そして、その説得力ある説明を聞いていく中、自殺ではないとすると、事故死あるいは他殺と、話は物騒な方向に・・・。そこから開始されたのが、5人の如月ミキファン(?)による怒濤の推理。そして、ここからがこの映画の、この脚本の、そして5人の個性派俳優たちの真骨頂。

<あとはあなたの目で・・・>
 5人の男たちによる推理は、途中から「私立探偵」と自称し始めたオダ・ユージが持つ情報と彼の推論をベースに、思わぬ方向に進んでいく。したがって、「なるほど、そうか・・・」「そういう情報があればきっと○○になるはずだ」、そんな風に思い、考えをあれこれめぐらせながら、スクリーンを注視する観客も多いはず・・・。しかし、あなたがいくら頭の良さを誇っても、あるいは推理小説マニアとして犯人当てゲームに精通していても、スクリーン上であちらこちらと揺れ動く怒濤の推理に追いつけるはずはないだろう・・・?
 したがって、二転、三転、四転、五転するその推理は、すべてあなた自身の目でスクリーンを見て確認してもらう他なく、ここでその内容を一行も紹介できないのは実に残念。しかし、それがこの手の映画について遵守すべき映画評論のルール・・・。アッと驚くストーリー展開と何とも意外な人物像、そしてひと言も聞き流すことのできないたくさんのキーワード(セリフ)、そんなワンシチュエーション・ドラマの楽しさをじっくりと味わってもらいたいものだ。
 おっと、忘れてはならないのは、同じワンシチュエーション・ドラマの傑作であっても、この『キサラギ』は『十二人の怒れる男』ほどの社会性とシリアス性はないこと。したがって、あまり大上段から問題提起作と考える必要はなく、要するに楽しめばいい映画。映画の途中、頭をひねりながらも、思わずアハハと笑い出す場面がきっと2つ、3つはあるはずだヨ・・・。
                               2007(平成19)年4月10日記