洋04−1

「マッハ!(MACH)」                       

                   2004(平成16)年8月1日鑑賞<道頓堀東映パラス>

原案・製作・監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ
武術指導:パンナー・リットグライ  トニー・ジャー
ティン/トニー・ジャー
ジョージ/ペットターイ・ウォンカムラオ
ムエ/プマワーリー・ヨートガモン
ドン/ワンナキット・シリプット
コム・タン/スチャオ・ポンウィライ
クロックワークス/ギャガ・ヒューマックス共同配給・2003年・タイ映画・108分

<日本では珍しいタイ映画!>
 日本のメジャーの映画館で、タイ映画が公開されるのは珍しい。これは、このタイ映画が、本国のタイにおいて数々のハリウッド大作を抑えて、記録破りの興業収入を更新したうえ、アクション映画の聖地香港でも大ヒットし、さらに全世界40カ国以上での上映が決定しているほどなので、日本でも大ヒットの予感があったから・・・。

<大ヒットの原因は?>
 この映画のうたい文句は、@CGを使いません、Aワイヤーを使いません、Bスタントマンを使いません、C早回しを使いません、D最強の格闘技ムエタイを使います。これはつまり、『マトリックス』をはじめとし、『スパイダーマン』『ロード・オブ・ザ・リング』、さらには、中国の張藝謀監督の『HERO(英雄)』(02年)にまで登場した、ワイヤーアクションとCGの多用へのアンチテーゼだ。
 アクション映画では、スタントマンを使ったり、早送り編集をしたりするのは常套手段だが、この映画はそれらを一切使わず、すべてのアクションを生身の人間の身体で演ずることを宣言し、それをうたい文句にしたわけだ。この映画が成功した原因は、まちがいなくそれ。もっとも、この映画の大ヒットだけで、ワイヤーアクションとCGの多用に、多くの人たちが飽き飽きしているとまで評価できるかどうかまではわからないが・・・。

<思い出すブルース・リーとジャッキー・チェン>
 ブルース・リーの衝撃的な登場は、1971年の『ドラゴン危機一髪』から。続く、『ドラゴン怒りの鉄拳』(72年)、『ドラゴンへの道』(72年)も空前の大ヒットとなった。ところが、このブルース・リーは、『燃えよドラゴン』(73年)を製作した直後の1973年7月死亡してしまった。そのため、製作途中となっていた『死亡遊戯』は完成しないまま、幻の名作(?)となった。
 他方、ジャッキー・チェンは、1978年の「ジャッキー・チェンの酔拳」が、日本で大ブレイクしたアクション俳優。もっとも彼のアクションは、すごみのあるブルース・リーのカンフーアクションに比べると、コミカルなもの。ジャッキー・チェンはその後、ハリウッドに進出し、アジア系俳優としては10人目となるハリウッド殿堂入りを果たしている。そして、この2人を生んだ香港映画は、アクション映画の聖地とされた。
 しかし今は、ジャッキー・チェンのアクションも、半分マンガ的(?)になっており、とても往年の迫力はない。香港映画界にブルース・リー、ジャッキー・チェンを継ぐ、本格的なアクション俳優が存在しない以上、スタントマンからこの映画の主役に大抜擢され、見事なムエタイ技を披露したトニー・ジャーは、今後、第2のブルース・リー、第2のジャッキー・チェンになる可能性大だが・・・。

<首都バンコクと田舎との格差>
 私は2002(平成14)年4月25日から4月29日まで、タイと深いつながりをもった商売をしている人の世話で、タイ旅行を楽しんだ。観光はほんの少しだけで、あとは、食べて、飲んで、遊んで・・・というホントの殿様旅行・・・?
 この旅行で思ったことの第1は、首都バンコクは美しく華やかな大都会だが、そのバンコクと田舎の村との格差の大きさ。田舎の村では、多くの若い女性(少女)たちは、身売り同然の状態で都会バンコクへ行き、そこで働いて実家に仕送りをしつつ、お金を貯めてまた田舎へ帰っていくというスタイルが定着しているが、その彼女たちの「仕事」とは・・・?
 タイ旅行で印象的だったことの第2は、タイは仏教国だということ。日本と古くから親密な商売ができている理由は、仏教国であることによる治安の安定と道徳意識の高さ。そんな仏教国タイでは、仏像は絶対的な存在。そして、この映画では、主人公のティン(トニー・ジャー)が住むノンプラドゥ村の守護仏「オンバク」の首が切り取られ、盗まれたことが物語の発端。このストーリーの理解のためにも、私のタイ旅行の経験が役立ったことは言うまでもない。

<K−1の大人気>
 1993年に第1回大会が開かれた総合格闘技のK−1は、今日本で大人気。長嶋一茂氏と藤原紀香嬢がパーソナリティをつとめるテレビ放送は、深夜の放送時間帯でも高視聴率を誇り、世界大会ともなると、日曜日のゴールデンタイムを飾るほどの人気。
 もっとも、私にとっては試合に至るまでの盛り上げ(?)に時間がかかるのが、難点(会場はもとより、多くのK−1ファンは、それも含めた雰囲気全体を楽しんでいるのかもしれないが・・・)なので、私はもっぱらビデオ録画をして、たまに家で食事をする時にそのビデオで試合だけを観賞しているが・・・。
 日本の最初のK−1スターは佐竹雅昭だったが、世界レベルでは全く通用しなかった。そして、ピーター・アーツやアンディ・フグ、アーネスト・ホーストらが次々と優勝者となり、コマーシャルにも登場した。重量級では唯一、武蔵が日本勢として奮闘しているが、1回戦突破がせいぜい・・・。ボブ・サップを最初に見た時は、そのもの凄さにびっくりしたが、曙とボブ・サップの対決は期待はずれもいいところ・・・。

<K−1中量級とムエタイ>
 最近の人気は、K−1の中量級。ここでは日本人も十分通用するらしく、魔裟斗や小比類巻貴之などの日本人選手が外国人選手と対等にわたり合っている。またこの中量級では、タイの有力なムエタイ選手も大勢登場している。
 2003年の「K−1 WORLD MAX 2003〜世界一決定トーナメント〜」では、日本人ではじめて魔裟斗が優勝。そして、2004年7月7日の「K−1 WORLD MAX 2004〜世界一決定トーナメント」では、ディフェンディングチャンピオンとして出場し、決勝戦まで駒を進めた。しかし、決勝戦に勝ち上がるまでに受けたバッティングによるダメージのため、決勝戦では、延長の末に、22歳の若きムエタイ戦士ブアカーオに敗れ、ブアカーオはK−1史上初のムエタイ出身王者となった。さらに、小比類巻貴之も準決勝で、ムエタイ戦士ブアカーオに3度のダウンを受けて敗退してしまった。
 私は、このトーナメント戦を全部ビデオで見たが、これらの試合における、1ラウンド3分間、3ラウンド勝負(延長1ラウンド)の死闘は、本当に迫力があり、面白いものだった。

<効果的な2人の共演者>
 主人公のティンは、本格的なムエタイアクションの他、バンコクのまちなかを走り回る逃走アクションや、三輪タクシー(トゥクトゥク)による逃走アクションを演じて(?)いるが、彼の役割は本来このアクションだけで、本格的な演技は期待されていない。その一方で、この映画のストーリー展開を演技面から支えているのは、同じノンプラドゥ村出身ながら僧侶になるのがイヤで村を離れ、今はバンコクでイカサマをやりながら、ヤバイ生活をしているジョージ(ペットターイ・ウォンカムラオ)。パンフレットによると、このペットターイ・ウォンカムラオは、「タイのビートたけし」と称されているマルチタレントとのことで、その演技はそりゃ達者なもの・・・。
 もう1人この映画を支えるのは、このジョージと組んで(?)、したたかに生きている孤児の女の子ムエを演ずるプマワーリー・ヨートガモン。このムエのお姉さんは、ムエの学資を稼ぐために「夜の女」となっているが、このムエは、そんな姉に意見をしながら、強く生きているすごい美少女。パンフレットによれば、タイの現役女子大生で、コマーシャル等で活躍しているとのことだから、今後の活躍が楽しみ。この2人が、このムエタイアクション映画のストーリー展開を効果的に支えている。

<悪役のパーソナリティも面白いもの!>
 この映画での悪役は、麻薬取引で稼ぎ、格闘技場を経営して違法な賭け試合で稼いでいるうえ、国宝級の仏像の首を切り落として川の中に隠し、その密売をして稼ぐという悪事を働いているコム・タン(スチャオ・ポンウィライ)。ノドに穴があいている(?)ため、声を出すことができず、人口の声でしゃべるというヘンなキャラクターだが、そのせいもあって、必要なことしかしゃべらないことが、この人物のワルぶりを一層きわ立たせていて面白い。

<アテネオリンピックをひかえて、ドーピング警報!>
 ムエを人質に取られたティンは、ムエを取り戻すために、コム・タンの用心棒サミン(チャタポン・パンタナアンクーン)と八百長試合をやらざるを得ない羽目に。この八百長試合を仕組んだのはコム・タン。ティンは仕方なくそれに従ったが、サミンはそれを知らない。
 そのためサミンは、ティンとの試合に向けて精神統一をはかるとともに、試合直前に自らの胸に注射を1本・・・。明らかにドーピング注射だ!
 さらに、最後にコム・タンの前に登場したティンを遮ったのも、このサミン。前の試合で勝ったのは、八百長だったことをここではじめて知らされたサミンは、ティンから倒されるや、今度は何と何十本ものドーピング注射をまとめて自分の胸に!そして、その結果によって、ティンとサミンとの対決は、一時は、完全に形勢逆転かと思われるほどに・・・。
 8月13日から開催される、2004年アテネオリンピックを控えて、日本経済新聞8月1日付朝刊は、「ドーピング、より巧妙に」「競技種目ごとの改造人間実現も」と解説している。ドーピングによって、この映画でのサミンのような「バカ力」を発揮されたのではかなわない。徹底したドーピング検査が要請されるところだ!
                               2004(平成16)年8月2日記