弁護士坂和章平による辛口コラム(1)
   消費者は利口になろう。
−X社のユニットバス選択の経験から

 私は最近(02年8月)、家族と私のための自宅中古マンションを購入し、一部その改装工事を実施した。
 もっとも、2年前の00年9月には、4階建ての中古ビルを購入してこれを全面改装し、現在事務所として使用している。さらに過去数回にわたる自宅の移転と事務所の移転、そしてこれに伴う改装の実施があったから、素人にしては結構数多くの改装の経験があり、改装工事には手慣れているという自信があった。

 私は商品のカタログを見るのが得意だ。まずは、事務所の什器備品として使う書架・ロッカー等のスチール製品、そして机・本棚等の木製品。これらのメーカーの代表はオカムラ、コクヨ、ライオンなど。
 自宅の改装や自社ビルの改装になると、これに加えて、@床、天井、壁のためのボード、ベニヤ板、タイルカーペットやクロスの類、Aトイレ、洗面、風呂、湯沸かし等の水回り製品、Bドア、窓等のガラスやサッシ製品、C電灯、空調等の電気製品、など商品の種類が多種多様となる。
 さらに、電気、ガス、水道、電話、テレビの配線や、給水・排水設備の話になるとさらに専門的となり、図面とにらめっこしながら詳細な打合せが必要だ。

 私は弁護士としての仕事の処理についても、スピードの点では誰にも負けないという自負心がある。そしてまた、改装工事に伴う商品選びについても、いい資料さえ整理されれば、その量がいくら多くても、決して人に負けないスピードでそれを理解し、取捨選択し、決定していくことができるという自信を持っている。
 ところが、現在の日本には、この商品を選択するについて最も基本となる情報が不足している。「この情報化社会の日本でそんなことはないだろう!」、「商品のコマーシャルは、テレビやラジオそして新聞・雑誌で年がら年中流れているじゃないか!」さらに「デパートでもスーパーでもまた多種多様な量販店でも、消費者の購入意欲をかりたてる色刷りのきれいなカタログがいっぱいあるじゃないか!それもきれいな女優さんと一緒に!」・・・このような意見を述べる人がきっと多いと思う。
 しかしそれは、はっきり言えば、単に売るための宣伝や一方的な情報に操られているだけ。もっとはっきり言えば、消費者としてダマされているのだと言っても過言ではない。

 それはなぜか?それは「売らんかな!」のカタログには、その商品のプラス情報は「てんこ盛り」に盛り込まれているが、マイナス情報は決して載せられていないからだ。そこで、「商品のマイナス情報とは何か」ということをじっくりと考えてみる必要がある。これはじっくり考えれば誰でもわかることだ。例えば車。トヨタ車を例にとって考えてみよう。クラウンとカローラは値段が違う。それはなぜか?クラウンは大きくて装備も立派だが、カローラは小さくて装備もチャチだからだ。しかし、カローラのカタログには決してそんなマイナス情報は書いていない。そうではなく、コンパクトで小回りがきき、駐車しやすく、燃費も安いetc.と書いてある筈だ。さらに装備についても、CDやMDが使え、〇〇製のパネルを使用しているetc.と書いてある筈だ。もっとも車に関しては、消費者は既に一定の知識を持っているため、クラウンとカローラを比べて、「なぜクラウンがカローラと同程度の値段にならないのか!」と迫るバカな消費者はいない。しかし、トヨタのクラウンと日産のセドリックとの対比になると、消費者は全く無知だ。

 私が今回、自宅マンションの改装で、これはひどいと思ったのは、ユニットバス(UB)の改装についてのことだ。ユニットバスの市場では、TOTO、INAX、松下電工etc.をはじめとして、システムキッチンのメーカーがしのぎを削りながら自社製品を宣伝している。私は事務所ビルについては、Y社のユニットバスを入れたが、今回の自宅マンションでは、結果的にX社の商品とした。
 
 消費者にクラウンとセドリックの優劣の判断がつかないのと同様、ユニットバスについても、各メーカーの商品の優劣(もちろん価格を含めての)は、カタログをいくら詳しく検討しても容易にはわからない。しかもユニットバスの選択にはガス、電気、石油の3種類の給湯器の選択が必要だ。そうなるとガスと今はやりのオール電化との比較対照、優劣の判定が必要だが、これがまずわからない。さらにガスの商品にしても、大阪ガスの商品とリンナイ、ノーリツ等の商品がどう違い、どちらが高いのか安いのかになるとまったくわからない。そして驚くべきことに、各メーカーの商品を販売している営業マンはもちろん、モデルルームの販売員や、施工業者たちですら、これらについてのメーカー各社の商品の優劣を比較できる人はまずいない。これは、毎年メーカー各社から次々と世に送り出される新商品の数が多いため自社の商品を把握するだけで誰もが精一杯で、他社の商品と比較対照する余裕などないうえ、比較対照するデータそのものが全くないからだ。

 前述のとおり、私は職業柄、資料の読み込みは早い。従ってメーカー各社から出されている何十冊もの商品カタログに目を通し、必要な頁に付箋をつけ、同じグレード同士で各社商品を比較したり、1つのメーカーの商品でグレードによる価格の違いを理解するのは得意だ。
 今般の自宅マンションにおいては、前述のとおり、X社の商品に決定した。しかし、このX社の商品にも当然A、B、Cのランクがある。また各種オプションの選択は10項目以上ある。ABCの違いは、例えば、A商品(高級品)には2段の棚がついている、B商品(普及品)には棚が1段しかない、そしてC商品(安物)は棚がついていない、という違いだ。また各種オプションとは、入口のドアの大きさの違い、折りたたみドアか否かの違い、排水をワンタッチにするか否か、ポールを付けるか否かetc.。もちろんブローバスにするか否かもそうだ。この選択によってプラス〇〇円、マイナス〇〇円となる。A、B、Cの選択によってまず基本料金を決めたうえ、さらにオプションの選択によってプラス〇〇円、マイナス〇〇円に決まるというシステムは、わかりやすくていいシステムだ。しかし、カタログでは、オプションの選択はきわめて小さく扱われており、そこにたどり着くまでが大変だ。そして最大の問題は、A、B、Cのグレードの違いがわからないことだ。前述の私の表現のように、高級品、普及品、安物と書いてくれると誰にでもよくわかる。しかしカタログには絶対そうは書いていない。たとえば棚がついていないCグレードのカタログにはどう書いてあるか?そこでは「シンプルで、広々とした・・・」と書いてある。このカタログ記載の文章を、「棚が何もついていないということがシンプルで広々とした・・・と表現したものであり、棚がついていない分だけ安いということやな!」と理解するまでにどれだけの努力が必要か・・・!これは、視点を変えて言えば、消費者の大多数はこういう実態を理解できないまま商品を「選択」しているということだ。

 商品のマイナス情報を示さない、すべての商品についてプラス情報のみをカタログに記載して消費者にアピールするというやり方が市場を支配しているために、消費者は商品の優劣や価格の差が理解できず、混乱させられ、結果としては、メ−カ−の思うように商品を選択させられているわけだ。
 これは、今般、私が経験したX社のユニットバスだけの問題ではない。日本で販売されているすべての商品について同じだ。「この商品は〇〇しかできません」とか、「この商品は△△だから、あの商品と比べて安いのです」というカタログやコマーシャルを見たことがあるだろうか?まずお目にかかったことがない筈だ。

  こう考えてくると、「情報化社会とは一体何だろう」と考えざるを得ない。商品の情報を持つのはあくまでメーカーだ。従ってメーカーの情報の流し方についての考え方、スタンスによって、いくらでもそれは操作できる。すると消費者がそれに対抗する手段は何か?それは単純なこと。消費者が、毎日毎日くり返されるテレビのコマーシャルをうのみにせず、利口になり、自分の頭で考えることだ。たとえば、牛乳とは本来腐るものだ。それが〇日間保存可能というのは、そもそもおかしいわけだ。〇〇の水、△△のお茶、××のカレー、※※の肉などと一方的に情報を表示された食料品は、消費者が自ら口にするものだから、とりわけ注意して選別する必要がある。最近の○○牛や△△ハムの偽装表示事件を見れば、本当に恐ろしい限りだ。

 日本という国は、なぜこれほどまでにインチキがはびこるようになったのだろうか。そして本当のことを語り、本当のことを理解してもらおうという意欲が失われたのだろうか。本当のこととは、決して良い内容ばかりではない。そこには当然悪い内容もあるのだ。本当のことを伝えること、すなわちメーカーによる商品のマイナス情報の開示。これは今の日本国に存在するすべての商品について必要なことだと私は確信している。
                                                          以上
                                  2002(平成14)年8月29日 記