洋14-159

「トラッシュ! この街が輝く日まで」
    

                      2014(平成26)年11月28日鑑賞<東宝試写室>

監督:スティーヴン・ダルドリー
脚本:リチャード・カーティス
製作総指揮:フェルナンド・メイレレス
原作:アンディ・ムリガン『トラッシュ』(株式会社KADOKAWA メディアファクトリー刊)
ジュリアード神父(少年たちの保護者)/マーティン・シーン
オリヴィア(神父のもとで働き少年3人を見守る女性)/ルーニー・マーラ
ジョゼ・アンジェロ(サイフの持ち主)/ワグネル・モウラ
フェデリコ(子供たちを付け狙う警官)/セルトン・メロ
ラファエル(ごみを拾って生活しているやんちゃな少年)/リックソン・テベス
ガルド(ごみを拾って生活している頭の切れる少年)/エデュアルド・ルイス
ラット(ごみを拾って生活している心優しい少年)/ガブリエル・ウェインスタイン
マルコ/アンドレ・ハミロ
トゥルク/ヘスイタ・バルボサ
カルロス(政治家)/ホセ・デュモント
カルロスのパートナー/ダニエル・ゼッテル
ピア/マリア・エドゥアルダ
2014年・イギリス映画・114分
配給/東宝東和

<過去4作連続ノミネート監督の、5作目の賞獲りは?>
 私はスティーヴン・ダルドリー監督の最初の映画『リトル・ダンサー』(00年)は観ていないが、『めぐりあう時間たち』(02年)(『シネマルーム3』88頁参照)、『愛を読むひと』(08年)(『シネマルーム22』36頁参照)、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(11年)(『シネマルーム28』47頁参照)の3本はすべて観ている。本作を鑑賞した11月28日、囲碁の井山裕太名人は十段戦で小林覚九段に敗れたため、7冠王への夢が断たれた。将棋界では羽生善治が1996年2月14日に7冠王となり、それを168日間キープしたという「先例」があるから、井山名人にも頑張ってもらいたいものだ。
 それと同じように、韓国のキム・ギドク監督はカンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭、ベルリン映画祭の3冠を制覇するという偉業を成し遂げたが、スティーヴン・ダルドリー監督は過去4作品続けてアカデミー賞作品賞か監督賞にノミネートを果たすという偉業を成し遂げている。しかも、これまでのアカデミー賞ノミネートは合計19にものぼり、その内受賞は2つ、ニコール・キッドマンとケイト・ウィンスレットが主演女優賞を受賞しているからすごい。
 そのスティーヴン・ダルドリーの第5作目となる本作は、アンディ・ムリガンの原作『トラッシュ』を映画化したもの。原作では舞台は架空都市だったが、本作ではそれをブラジルのリオデジャネイロに設定したうえ、言語もポルトガル語を使用することに。そのため、スティーヴン・ダルドリー監督は、暴力貧困に浸食されたリオデジャネイロのスラム街に住む子供たちの日常を描き、全世界で称賛を浴びた『シティ・オブ・ゴッド』(02年)のフェルナンド・メイレレスを製作総指揮に迎えて地元ブラジルのリアリティを本作に持ち込んだらしい。さあ、そんな5作目の賞獲りは・・・?

<3人の子供たちの生活拠点はゴミの山!>
 『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)では、インドの首都ムンバイのスラム街そのものと、スラム街を駆け抜ける子供たちの爆発的なエネルギーが見モノだった(『シネマルーム22』29頁参照)が、本作でもわざわざ本作のために紙やプラスチックで作った2000㎥規模のゴミ捨て場が大きな見モノ。さらに、『西遊記~はじまりのはじまり~(西游 降魔篇)』(13年)で観たのと同じような湖(?)と、それに面したスラム街の様子が興味深い(『シネマルーム34』188頁参照)。
 冒頭に紹介される、たくさんの大人たちに混じってゴミの山から「宝もの」を拾い集めている少年が、やんちゃなラファエル(リックソン・テベス)と頭の切れるガルド(エデュアルド・ルイス)の2人。そして、この2人の少年の親友が心優しいラット(ガブリエル・ウェインスタイン)。この3人が本作の主人公になる少年たちだ。他方、そんな少年たちの保護者がジュリアード神父(マーティン・シーン)であり、神父のもとで働いている若いけれども母のような女性がオリヴィア(ルーニー・マーラ)だ。
 ある「疑い」でラファエルが警察に連行された時、ジュリアード神父は当然のように警察に掛け合いにいったが、そこに見るリオ警察はかなりひどい。そのうえ、中盤にはオリヴィアも逮捕されてしまうから大変。リオは2016年の夏季オリンピックの舞台とされているが、その準備はメチャ遅れているらしい。本作にみるゴミの山と警察の腐敗ぶりを見れば、それもなるほどと思えるが、あくまでそれは架空のお話なので、誤解のないように・・・。

<このサスペンスは?このサイフは?>
 そんな、叙情的な風景(?)の紹介と並行して、他方では何やらサスペンスめいたストーリー(?)が展開していく。すなわち、身支度を整えて出て行こうとする男ジョゼ・アンジェロ(ワグネル・モウラ)の部屋には、今まさに警察隊が強行突入しようとしていた。それに気づいたアンジェロは窓から逃げ出したが、追いつめられたアンジェロは胸ポケットからサイフを取り出し、道路に放り出したから、このサイフだけは、よほど警察に手渡したくなかったのだろう。そのサイフは偶然道路を走るゴミ収集車の荷台に入りこんだため、多くのゴミとともにあの「ゴミの山」に投げ出されることに。
 こうなると、誰でもその後のストーリーの進行が見えてくる。そう、このサイフを発見したのがラファエルだ。ラファエルは気前よくサイフに入っていたお金の半分をガルドに分けてやったが、サイフの中にはその他に、ID、ポケットカレンダー、少女の写真、アニマル・ロトのカード、そしてコインロッカーのカギが入っていた。これらは一体何を意味するの?また、コインロッカーの中には一体ナニが?そんなことを考えている中、陰険そうな顔をした(?)フェデリコ(セルトン・メロ)を中心とする警察は、多額の懸賞金を出してゴミの山からサイフを見つけ出すことに必死になったから、このサイフはよほど重要なものらしい。
 他方、スクリーン上では、警察に捕まったアンジェロが、「サイフのありかを吐け!」と残忍な拷問を受けた挙句、「アンジェロの墓」が映し出されていく。こんなドキドキするような状況設定の中、さてストーリーはどんな方向に?

<ロッカーには1通の手紙と数字の羅列されたメモが>
 ラファエルとガルドが警察にサイフを差し出し、懸賞金を受け取ってしまえば、何の問題もなかったはず。また、そもそも、本作のラストで明かされる「ひとつのサイフに隠された謎を、解き明かそうとする少年たち。スリルと興奮の中、明かされる世界がひっくり変えるような真実――」が暴露されることもなかったはずだ。しかし、フェデリコから怪しまれながらもシラを切りとおした2人は、以前駅で生活していたラットの記憶を頼りにコインロッカーを探り当てることに成功。もっとも、いくらコインロッカーのキーを持っていても、警察が厳戒態勢を敷いている中、小汚い3人の少年が駅にあるロッカーを開けるのは至難のワザだ。しかし、「三人寄れば文殊の知恵」とはよく言ったもので、本作では3人の少年の知恵と行動力のチームワークが傑出しているので、それに注目!もっとも、コインロッカーの中に大量の現金が入っていれば最高だが、そこにはコヴァ刑務所に収監されているクレメンチ宛の手紙と数字の羅列されたメモが入っているだけだったから、3人には更なる課題が・・・。
 そんな中、少年たちが隠し事をしていると見抜いたフェデリコの手によって、ラファエルが拉致されてしまったから大変。ここでもラファエルは絶対に口を割らなかったから、ラファエルには死の危機が訪れたが、何とか九死に一生を得ることに・・・。ラファエルのそんな姿を見たラットは、「もうやめよう」と言い始めたが、拉致された際に警察から漏れ聞いた、「サイフに隠された秘密」を解き明かすことが正しい道と信じたラファエルは、あくまで諦めなかった。そこでのキーワードは「カルロス」。これはどうも人の名前のようだが、ひょっとしてそれはブラジルを支配している、あのカルロスのこと・・・?
 すると、次に彼らがやるべきことは、コヴァ刑務所に収監されているクレメンチと面会することだが、それは英語をしっかりしゃべれない子供たちだけでは到底ムリ。そこで、少年たちはオリヴィアに協力を求めたが、クレメンチと縁もゆかりもない3人の子供たちとオリヴィアにそんなことは可能なの・・・?

<ガルドのキレに拍手!ここにアンジェロとの接点が!>
 中国は「法治」を目指しているが、習近平国家主席が現在唱えている「腐敗廃止」というスローガンは、逆に中国共産党や中国政府の高官に腐敗が充満していることの裏返し。悪代官と悪徳商人との賄賂による不正な癒着は、日本の時代劇でもよく描かれるテーマだが、賄賂の効用は万国共通。とりわけ、後進国ではその効き目は強いようだ。別に、ブラジルが後進国だというつもりはないが、オリヴィアとそれに同行した3人の少年が、無事コヴァ刑務所でクレメンチに面会できたのは、賄賂の効用が大きかったようだ。
 この少年たちとクレメンチとの面会シーンでビックリしたのは、ガルドの頭の良さ。刑務所内での面会には当然監視がついているから、物品の受け渡しはダメ。したがって、ロッカーの中にあった手紙をクレメンチに見せることは不可能だが、その内容を語って聞かせることは可能だ。導入部では、自分の名前や住所をベラベラとフェデリコにしゃべっていたことについて、ラファエルから「お前はバカだ」と言われていたガルドが、ここでは手紙の全文をきっちり暗唱していたからすごい。そこで見えてきたのが、クレメンチとアンジェロとの関係。そしてまた、カルロス(ホセ・デュモント)とカルロスのパートナー(ダニエル・ゼッテル)たちがやっている「ヤミの世界」での暗黙ぶりだ。
 スクリーン上では、カルロスのパートナーに仕えていたアンジェロが鮮やかな手口でヤミ組織のお屋敷からゴミ袋に入れた大量の現金と1冊の(ウラ)帳簿を持ち出すシークエンスが描かれる。なるほど、これがバレたことによってアンジェロは追いつめられてしまったわけだ。ところで、アンジェロが持ち出したこの大量の現金と(ウラ)帳簿は一体どこに?ひょっとして、あのコインロッカーの中にあった羅列された数字は、その隠し場所を記す何らかの暗号・・・?本作後半は、そんな怒涛のストーリーが展開していくので、それに注目!

<数字の羅列されたメモをどう読み解く?>
 フェデリコが現場を指揮するリオ警察は、いくら懸賞金を懸けてゴミの山を捜しても、例のサイフが発見できないことに激怒。その結果、スラム街を焼き払うとともに、3人の少年と共に「不穏な動き」をしたオリヴィアを逮捕してしまった。オリヴィアがアンジェロのような拷問を受ければ、サイフの中に入っていたものや、その意味するものはたちまち警察に把握されてしまうのでは・・・?そんな心配の中、3人の少年たちは警察の追及を逃げ続けながら、羅列された数字の意味を読み解いていったから大したものだ。
 本作では、前半にもスクリーン上に「アンジェロの墓」が登場していたが、その時にはその意味を十分把握するのは難しかった。しかし、羅列された数字のメモを読み解いた3人の少年たちが、あのサイフに導かれるかのように「アンジェロの墓」に到着すると、その中に何が入っているのかは、容易に推測することができる。さて、その後のストーリーの展開は?なお、ここでは、1人の少女が新たな登場人物となるので、それに注目したい。他方、少年たちが羅列された数字のメモを読み解いた部屋に突入したフェデリコもまた、「アンジェロの墓」に急行していたから、3人の少年プラス1人の少女の運命はいかに・・・?
 普通、刑事は2人ペアで動くものだが、ここではフェデリコが単独行動をしていたことがラッキーだった。今、フェデリコが突きつける銃の前にホールドアップ状態で「アンジェロの墓」を掘り起こされた3人の少年は、予想どおり大量の現金と1冊の帳簿を発見したが、それをこのままフェデリコに持って行かれたのでは万事休すだ。ちょうどその時、カルロスあるいはカルロスのパートナーらしき男からかかってきた電話に対し、フェデリコは「帳簿は発見できたが、現金は見つからなかった」とインチキな報告をしていたが、さてその狙いは・・・?そんな絶体絶命の危機を、3人の少年プラス1人の少女がどのように切り抜けるのかは、あなた自身の目でしっかりと。

<この帳簿が政権を揺るがすことに!彼らの勇気に拍手!>
 ゴミの山で育った小汚い3人の少年と、大量の現金。これぞアンバランスの究極の姿だが、さてクライマックスに向けて、3人の少年たちはその現金をどのように使うのだろうか?『グランド・イリュージョン』(13年)の、クライマックスでは、5億ドルの札束がニューヨークの高層ビルからまき散らされた(『シネマルーム32』241頁参照)が、それと同じようなシーンが本作にも登場する。もっとも、ゴミの山のテッペンからまき散らされた大量の現金は、またゴミの山に埋もれてしまったり、川の流れと共に湖の中に消えてしまうかもしれないから、スラム街に住む人たちは早くそれを拾い集めなくちゃ・・・。
 他方、アンジェロが命を懸けて守り抜いたあの(ウラ)帳簿には一体何が書かれていたの?日本では「ロッキード事件」によって、当時最強の政治権力を誇っていた田中角栄元総理の政治生命が絶たれてしまったが、それはなぜ?また、つい最近(10月)も将来の女性宰相候補と言われていた小渕優子経済産業大臣が、政治資金収支報告書に観劇費用が未記載とされていたことについて、政治資金規制法違反と報じられたことによって、大臣の辞任に追い込まれたが、その金額は2600万円とごく小さいもの(?)だった。しかし、この(ウラ)帳簿に書かれていたウラ金(=ヤミの贈収賄の金額)はものすごいケタのものだったから、その発見(暴露)がブラジルの政権を揺るがすほどの大事件に発展したのは当然だ。
 こんな腐敗政治よ、さようなら。そして、子供たちがゴミの山の中で働くような政治よ、さようなら。ブラジルがそんな風に生まれ変わったのは、3人の少年たちがゴミの山の中から発見したあのサイフに秘められた秘密を、どんな困難にも負けずに解明しようとしたおかげだ。さあ、本作にみるそんな希望に輝く3人の少年たちの物語は、またまたアカデミー賞その他の賞を獲得することができるだろうか?
                                  2014(平成26)年12月4日記