洋12-23
「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」 ![]()
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2012(平成24)年2月16日鑑賞<東映試写室>
監督・脚本:テイト・テイラー
原作:キャスリン・ストケット『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(集英社文庫刊)
スキーター(意気盛んな作家の卵)/エマ・ストーン
エイビリーン(エリザベスの家の黒人メイド)/ヴィオラ・デイヴィス
ミニー(ヒリーの家の黒人メイド、エイビリーンの親友)/オクタヴィア・スペンサー
ヒリー(同級生のリーダー格、婦人会のリーダー)/ブライス・ダラス・ハワード
シーリア(ミニーを雇った女性)/ジェシカ・チャステイン
シャーロット(スキーターの母)/アリソン・ジャネイ
ミセス・ウォルターズ(ヒリーの母)/シシー・スペイセク
コンスタンティン(スキーターの実家の黒人メイド)/シシリー・タイソン
ミス・スタイン(出版社の編集者)/メアリー・スティーンバージェン
エリザベス(スキーターの友人)/アーナ・オライリー
2011年・アメリカ映画・146分
配給/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
<2500万ドルの製作費でも大ヒット!>
近時ハリウッドでもシリーズものやリメイクものが目立つが、しっかりした問題意識を持った原作を元に、今を生きる人たちにしっかり問題提起をし、考えさせることができる映画をつくれば、低予算でも大ヒットする可能性がある。そんなことを実証したのが、2009年にアメリカで出版されてベストセラーになった新人女流作家キャスリン・ストケットの原作『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(集英社文庫刊)を、ほとんど新人に近いテイト・テイラー監督が映画化した本作。
2500万ドル(約20億円)の製作費でつくられた本作は公開直後から大ヒットし、約1億7500万ドルの興行収入を挙げたというから立派なものだ。
<時代は?舞台は?ヒロインは?>
本作の時代は1960年代前半。舞台はアメリカ南部のミシシッピ州。上流家庭の1人娘として育ったスキーター(エマ・ストーン)は大学を卒業した今、作家を夢見て新聞社への就職を目指していた。しかしこれは、良妻賢母になるのが普通だった当時の同級生の女性たちとはかなり異質な生き方だったようだ。
地元の新聞社への就職が決まったスキーターは、さっそく人気コラムニストの代わりに家事に関するコラムを代筆することになったが、もちろんスキーターはこれまで家事など全く経験なし。そこでスキーターは自分の「育ての親」とも言うべき黒人メイドのコンスタンティン(シシリー・タイソン)の助けを借りるため久しぶりに実家に戻ったが、そこにはコンスタンティンはいなかった。その理由を母親のシャーロット(アリソン・ジャネイ)に尋ねたが、その答えはあいまい。さてスキーターの「育ての親」はスキーターに何も言わないまま、一体どこへ行ってしまったの?
<問題の発端は、トイレ論争>
本作にはスキーターの同級生で、既に結婚し子供が生まれたばかりの女性がたくさん登場するが、圧倒されるのはそれぞれの家庭生活のリッチさ。大きなお屋敷に庭、大きな車、立派な家具類、豪華なホームパーティーと豪華な食べ物、そしておしゃれなドレスの数々に圧倒されると共に、家事や子育てはすべて黒人メイドの仕事、という生活ぶりにビックリ。こりゃまるで『風と共に去りぬ』(39年)で観たスカーレット・オハラの世界?日本は1964年の東京オリンピックを境に急激に経済成長したが、60年代初頭の日本とは大違いだ。
さらに驚くのは、この時代のアメリカでは既に水洗トイレが完備されているうえ、同級生のリーダー格であるヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)が真面目に各家庭に黒人メイド専用のトイレを設置させるための運動をしていること。黒人メイドに同じトイレを使用させれば悪い病気がうつる可能性があるから危険。そんな言葉を真に受けて同級生のエリザベス(アーナ・オライリー)まで黒人メイドのエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)専用のトイレをつくらせたから、こりゃちょっと異常?日本では一昨年は植村花菜が歌う『トイレの神様』が一世を風靡したが、本作では「黒人メイド専用のトイレの設置を!」というトイレ論争が問題の発端に・・・。
<ヘルプとは?ヘルプの声とは?その収集は?>
アメリカでは1960年代後半からベトナム戦争反対の声に呼応するかのようにキング牧師をリーダーとする黒人の公民権運動が高まったが、60年代初頭における「ヘルプ」とは?アメリカ南部ではそれは黒人メイドのことを意味していたらしい。ヘルプとは「お手伝いをする人」のことだから意味としてはそれでいいが、逆に、自由を抑圧され言いたいことも言えないこのヘルプこそ誰かの「ヘルプ!」を必要としていたことは明らかだ。スキーターの同級生たちはヒリーを筆頭として生まれた時から黒人差別が当たり前の家庭に育ったから、黒人メイドの「ヘルプ!」の声などまるで聞き取れなかったのは当然。
そんな状況下、作家志望のスキーターが「黒人メイドの現実を伝える本を書きたいんです」と出版社の編集者であるスタイン女史(メアリー・スティーンバージェン)に電話すると、「メイドたちの証言がとれるなら出版できる」と言われたため、まずはエリザベスのメイドであるエイビリーンから取材に着手。ところが、そんな依頼はエイビリーンにとっては大迷惑。なぜなら、取材に応じて下手に本音を喋りそれが本になって出版されたりすると、たちまち自分のクビが危うくなってしまうからだ。それはヒリー家のメイドで、エイビリーンの親友のミニー(オクタヴィア・スペンサー)だって同じ。2人にとっては時々雇い主に隠れて愚痴を言い合ったり、日曜日の教会で賛美歌を歌うのが精一杯の慰めだった。
悪い制度ながらその制度の下でそれなりの秩序が保たれていたミシシッピ州ジャクソンの町だったが、「トイレ論争」が活発になる中、ある日家族用のトイレを使ったミニーがヒリーの怒りを買ったため、即座にクビ!さあ、この「ヘルプ」を、誰がいかに「ヘルプ」するの?
<女たちの「群像劇」から、3人がノミネート!>
ストーリー展開の軸になるのは作家志望の女性スキーターだが、本作は女たちの「群像劇」だから、いろいろなタイプの女性が登場し、そのうち3人が第84回アカデミー賞の女優賞にノミネートされている。まず主演女優賞にノミネートされたのは『ダウト-あるカトリック学校で-』(08年)(『シネマルーム22』70頁参照)でも短い出番ながら助演女優賞にノミネートされたエイビリーン役のヴィオラ・デイヴィス。体重差のためかもしれない(?)が、本作でも正直言ってスキーターよりこのエイビリーンの方が存在感が大きい。その親友ミニー役のオクタヴィア・スペンサーはヴィオラ・デイヴィス以上の重量級だが、後述の「クソくらえ!」でストーリー展開の主役になるから助演女優賞ノミネートは当たり前?面白いのは、本来は本作メインの(白人)女性はスキーターとヒリーなのに、ヒリーの元カレだった男性と結婚したためヒリーから嫌われ、仲間はずれにされている女性シーリア役を演じたジェシカ・チャステインが助演女優賞にノミネートされたこと。ヒリー家のヘルプをクビにされたミニーをシーリアが雇ったから、シーリアとヒリーとの関係は余計険悪に。
一般的に男たちの群像劇はそれぞれが競い合っていく姿が楽しいが、女たちの群像劇はどうも嫉妬や妬みが渦巻くうっとうしいものになりがち・・・?さて、本作にみる女たちの群像劇の展開は?
<バクロ本が出版されたら取材源は?その「保険」は?>
ローマ時代の抑圧され、虐げられていた奴隷たちの不満が爆発したのが紀元前73年の「スパルタクスの反乱」だが、それはどんな契機で起こったの?それと同じように、エイビリーンとミニーはスキーターへの取材への協力を頑なに拒んでいたのに、ある日を境になぜ協力することに?それは、公民権運動の拡大を恐れる南部で黒人への暴力が激化する中である日に起きたある事件のためだ。
これによって堪忍袋の緒が切れた多くのヘルプ=黒人メイドたちは次々と重い口を開き、自分たちの苦しい生活実態をスキーターに告白したから、たちまちスキーターの取材ノートはいっぱいに。これだけ生々しいネタが収集できれば、黒人メイドの現実を示す本の出版は十分可能!スキーターはそう確信しながら執筆を進めたが、そんな「バクロ本」が出版されたら、たとえ仮名であってもこれは〇〇の家の話これは△△の家の話だとわかり、そうなれば雇い主の怒りを買ったヘルプはたちまちクビにされてしまうのでは?そんな心配の中でミニーがおもむろに語ったのは、「保険をかけるしかないわね」ということ。しかして、その保険とは?
<中盤からのキーワードは「クソくらえ!」>
ミニーが言う「保険」すなわち「この話を書けばヒリーがこの本の内容はジャクソンの町のことではなく、どこかよその町の話だと否定してくれるはず」と前置きしてスキーターに語ってくれたのは、ヒリーに関するある衝撃のスキャンダル!2010年1月28日に亡くなったJ・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』はスラング(俗語)が多いことで有名だったし、私たちは英語でよく使われる「罵り語」としての「Fuck you」という言葉をよく知っている。日本語でも「こんちくしょう!」「クソくらえ!」などいろいろ罵倒語があるが、「クソ食らえ!」を文字どおり解釈すれば・・・?
ヒリー家のヘルプをクビにされたミニーは、今ヒリーの天敵(?)シーリアの家のヘルプになっていたが、今日はヒリーの大好物であるパイを持って詫びを入れに来たからヒリーは上機嫌。「性格は悪いがお前の料理の腕は最高。特にパイづくりときたらどうしてこんなにおいしいパイを・・・」と誉めそやしながら、「時給を下げてもいいのなら、また雇ってあげる」と勝ち誇ったように喋り続けていたが、そこでミニーの口から出た言葉が「クソくらえ!」。パイのおいしさの秘密は、どうも〇〇だったらしい。今にも吐きそうになるヒリーの様子を目撃していたのが、横暴な娘をいつも痛烈に皮肉っている母親のミセス・ウォルターズ(シシー・スペイセク)だったから、こりゃヒリーにとっては絶対誰にもバラすわけにはいかない絶対の秘密!なるほど、なるほど。たしかにこりゃミニーが言うように、立派な「保険」に・・・。
<スキーター最後の取材は?>
大河小説や歴史小説を書くのは大変だが、ちょっとした私小説ならしっかりしたテーマがあり、表現能力さえあれば誰でも書けるはず。本作におけるスキーターはもちろん原作者キャスリン・ストケット自身。自分の体験を元にストーリーを紡いでいったわけだが、ヘルプたちから多くの証言を集めたスキーターにとって、どうしても最後に取材しなければならなかったのは、自分の「育ての親」である老ヘルプのコンスタンティンがなぜ我が家のヘルプをやめたのかということ。そこにはきっと言うに言われない事情と悲しみがあったはずだ。
地元の新聞社での代役のコラム書きの仕事が認められ今やニューヨークに旅立つことが決まったスキーターは、腹をくくって母親のシャーロットに対して最後の取材を試みたが、そこでシャーロットが語った驚くべき真実とは・・・?
<この悲しみの表情をしっかりと!>
人は個人や家族だけで生きていけるわけではなく、他人や社会そしてさまざまな組織とのつながりの中で生きているから、そこには上下関係や力関係さらに日本でいう「お付き合い」や「世間体」が存在するのはやむをえない。コンスタンティンを演ずるシシリー・タイソンは出番が最初と最後に限定されているが、「黒人女優のパイオニア」と言われるだけあって、その表情には人生の機微がしっかり刻み込まれている。ヘルプをクビにされたエイビリーンが、実の母親のエリザベス以上にかわいがっていた小さな女の子と別れなければならなくなった悲しみにも心を打たれたが、コンスタンティンがクビを宣告されスキーターの家を去っていく時の表情は実に味わい深い。
なるほど、ヘルプたちのこんな心のひだに入り込んだ取材を経て完成した本なら、大ヒットまちがいなし。原稿料を気前よくヘルプたちに分け与えるスキーターの生き方に拍手を送りながら、1960年代初頭アメリカ南部の黒人問題=ヘルプ問題をしっかり頭の中に刻みつけたい。
<3人の女優賞レースの予想は?>
ちなみに、私の予想では主演女優賞はきっと『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(11年)のメリル・ストリープと『マリリン 7日間の恋』(11年)のミシェル・ウィリアムズの争いに、『ドラゴン・タトゥーの女』(12年)のルーニー・マーラが絡むレースになるだろうから、残念ながらヴィオラ・デイヴィスはつけこむ隙はなし・・・?しかし、助演女優賞のオクタヴィア・スペンサーは十分可能性があるのでは・・・。
2012(平成24)年2月18日記