洋12-1
「マイウェイ 12,000キロの真実」 ![]()
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2012(平成24)年1月5日鑑賞<東映試写室>
監督・脚本・製作:カン・ジェギュ
長谷川辰雄(陸軍大佐)/オダギリジョー
キム・ジュンシク(キム一家の息子)/チャン・ドンゴン
シュライ(中国人の女スナイパー)/范冰冰(ファン・ビンビン)
イ・ジョンテ(ジュンシクの親友)/キム・イングォン
辰雄の祖父(憲兵隊司令官)/夏八木勲
高倉(大佐)/鶴見辰吾
野田(曹長)/山本太郎
辰雄の父(医者)/佐野史郎
向井(少佐)/浜田学
キム・ウンス(キム・ジュンシクの妹)/イ・ヨニ
キム・ジュンシク(少年時代)/ト・ジハン
2011年・韓国映画・145分
配給/CJ Entertainment Japan、東映
<想像は自由に!それが映画の特権!>
99歳の新藤兼人監督最後の作品となったのが『一枚のハガキ』(11年)(『シネマルーム27』91頁参照)なら、韓国映画史上最高額の25億円という制作費を投入したカン・ジェギュ監督の本作は「1枚の写真」から始まったもの。この「1枚の写真」はアメリカ独立公文書館に保管されていたものだが、そこには1944年のノルマンディー上陸作戦後アメリカ軍に捕えられたドイツ軍捕虜の中に、1人の東洋人が写っていた。この東洋人の話によれば、彼は日本、ソ連、ドイツと3つの国の軍服を着て戦い、はるか国境を越えノルマンディーまでたどり着いた、という信じられないものだった。その話を元に、自由な想像をどんどん広げればきっと面白い映画ができる!そう考えたカン・ジェギュ監督はまず勝手に東洋人を2人に設定し、続いてその1人を当時の1つの日本人の典型像である帝国軍人に、もう1人をその家族の使用人として雇われていた朝鮮人と設定したうえ、2人をマラソンを通じた永遠のライバルという因縁で結びつけた。なるほど、自由な想像力こそ映画の特権だ。
今でこそオリンピックは「平和の祭典」だが、1936年にベルリンで開催されたオリンピックはナチスの高揚に利用されたし、1940年に開催されるはずだった東京オリンピックは幻になってしまったが、その理由は?他方、日清・日露戦争後、日本が朝鮮や中国大陸への進出を強めたことは周知の事実だが、あの当時の朝鮮人や中国人の反日感情はそりゃすごいものだった。そんな時代の、そんな2人のマラソンのライバルを主人公に据えたうえ、この2人がノモンハン、独ソ戦、ノルマンディーと3つの戦いに参加する中であくまで「マイウェイ」を捜す旅をテーマにすれば、そりゃすごいスケールのものに。フランク・シナトラが歌った「マイウェイ」はこれを朗々と自己満足気味に歌う自信家が多いからカラオケでは多くの人に嫌われる(?)が、さて、本作が描くマイウェイとは?
<京城での1928年からの10年は?>
朝鮮半島にある韓国の京城は、現在の首都ソウル。今ソウルのまちは日本の若者にも大人気だが、朝鮮を日本が統治していた時代は?本作はそんな時代である1928年に始まるが、この時本作の主人公・長谷川辰雄はまだ11歳。医師である父(佐野史郎)らと共に家族で京城にやってきた辰雄たちをお迎えしたのが、憲兵隊司令官である祖父(夏八木勲)やその使用人である朝鮮人のキム一家だが、そこには辰雄と同じ年頃の少年キム・ジュンシク(ト・ジハン)がいた。駆けっこ自慢の2人は出会った早々競争を始めたが、それから10年後の1938年における朝鮮半島の状況は?
1938年を迎えた京城では今、東京オリンピックのマラソン代表選手選考会が開催されようとしていたが、この10年の間に爆弾テロによって祖父を失った長谷川辰雄(オダギリジョー)が朝鮮人に対して強い憎悪を抱く一方、朝鮮人のキム・ジュンシク(チャン・ドンゴン)には選考会への参加すら認められない状況となっていた。しかし、ある人物のある行動によってジュンシクが選手権に出場できることになると・・・。まずは、この選考会における2人の「対決」とその結末、そしてそこから生まれる意外な展開にしっかり注目!
<なぜ、こんな頑迷な帝国軍人に?ノモンハンでは?>
辰雄の祖父は序章部であっけなく「爆殺」されてしまうから、彼が憲兵隊司令官としてどんな辣腕を振るっていたのかは全くわからない。しかし、いくら「誇り高き」憲兵隊司令官であっても、多分その任務は極悪非道なもの?しかして、子供の時から大好きだったそんな祖父を失った孫の辰雄は帝国軍人となった今、どんなタイプの軍人に?辰雄の父親(佐野史郎)は心やさしい医者になっていたが、辰雄は隔世遺伝をしたためか、大佐としてモンゴル国境地帯のノモンハンの守備隊長として赴任してきた時、どうしようもなく頑迷な帝国軍人になっていたようだ。そのため、前任者の高倉大佐(鶴見辰吾)に対して過酷な処分を命ずるとともに、圧倒的な兵力と火力を誇るソ連軍の猛攻を前にしても、「我々には後退はない。命尽きても絶対に戦場を離れない」と叫ぶばかりか、後退しようとする皇国の兵士を自らの拳銃で射殺する始末だ。1939年5月の「ノモンハン事件」における日本軍の貧弱な戦いぶりは、『人間の條件』全6部作(59年~61年)(『シネマルーム8』313頁参照)や『戦争と人間』全3部作(70年~73年)(『シネマルーム5』173頁参照)の中でリアルに描かれていたが、本作が描くノモンハンの戦いにも注目!
コトここに至って、ジュンシクは辰雄に対して「味方を皆殺しにするつもりか?くたばりたきゃ、お前1人でくたばれ!」と叫んだが、そこでソ連軍の砲弾に吹き飛ばされた2人は共にソ連軍の捕虜として軍国列車に乗せられることに。その行き先はシベリア。そこで待っている世界は、『人間の條件』全6部作や劇団四季のミュージカル『異国の丘』(『シネマルーム1』98頁参照)などで描かれた、おなじみの過酷な強制労働?
いつの時代でも、無能で頑迷な指導者をいただくと、その部下や国民は大変な迷惑を蒙ることをあらためて痛感。
<独ソの戦場風景は『スターリングラード』とそっくり?>
19世紀のナポレオンのロシア攻めはアメリカ版『戦争と平和』(56年)とソ連版『戦争と平和』全4部作(65~67年)で、またナチス・ドイツのソ連攻め、とりわけレニングラード(現サンクトペテルブルク)包囲戦(1941年9月~44年1月)は『スターリングラード』(01年)でそれぞれイメージできるが、本作中盤に見るレニングラード包囲戦の戦場風景はまさに『スターリングラード』とそっくり?もっとも、『スターリングラード』はジュード・ロウ扮する狙撃兵が主人公だったため、静かさと緊張感が特徴だった(『シネマルーム1』8頁参照)が、本作で見せつけられるのは無益な突撃のみ。
捕虜として雪と氷の中で強制労働させられるよりは、軍服と銃と食事を与えられ、ソ連軍兵士としてドイツと戦う方がまだマシ。辰雄やジュンシクを含む日本人と朝鮮人の捕虜はそう考えたかもしれないが、戦場ではかつての辰雄のような頑迷なソ連軍将校の命令の下に、捕虜部隊は無益な突撃をくり返させられていたから大変。しかして、ほとんどの兵士が死に絶えた中でかろうじて生き残ることができたジュンシクはドイツ軍人の遺体からコートを剥ぎ取り、同じく奇跡的に生き残った辰雄と共にドイツへの「亡命」を目指したが・・・。
<ノルマンディーの戦いは?2人の「マイウェイ」は?>
連合国によるノルマンディー上陸作戦を描いた最も有名な映画は、ジョン・ウェインをはじめ各国のスターが勢ぞろいした『史上最大の作戦』(62年)。その総制作費は当時の費用で約43億円というからすごい。軽快なマーチ風の主題歌「ザ・ロンゲスト・デイ」も大ヒットしたが、まさにその邦題どおりの「作戦」の遂行は迫力満点のものだった。スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98年)冒頭の戦闘シーンは、ある意味では『史上最大の作戦』の迫力を凌駕するが、『プライベート・ライアン』はその後一貫して人間ドラマを追及していくことになるから、両者の対比はあまり意味がない。しかして、本作のクライマックスとして韓国人監督カン・ジェギュが描くノルマンディーの戦いは?
もっとも、このノルマンディーの戦いはドイツの敗色が濃厚となった1944年6月のことだから、辰雄やジュンシクたちが駆り出されていた独ソ戦の戦場からは既に3年が経っていた。3年前やっと雪山を越えてある村に入った辰雄とジュンシクだったが、ソ連の軍服にドイツ軍のコートを着たジュンシクが怪しまれたのは当然。今、辰雄はさまざまな人種で構成された東方部隊の一員としてドイツの軍服を着ていたが、彼がドイツ兵として戦う大義とは一体ナニ?帝国軍人として死ぬことを望みながら、ノモンハンの敗戦以降5年近くも屈辱的な生きザマに耐えてきたのは一体なぜ?そしてまた、故郷の日本から1万2000キロも離れたノルマンディーでマラソンの練習をしているジュンシクを見つけ、奇跡的な再会を果たした辰雄が、ジュンシクと共に求めるマイウェイとは?少なくとも、それがドイツ軍兵士として連合軍の上陸を阻止するために命を捧げることでないことは明らかだが、過去の栄光ある帝国軍人として混乱に乗じて「脱走」などという選択肢はあるの?
さあ、そんな2人の「マイウェイ」の選択が見どころだが、そんな個人の選択を許さない現実がすぐ目の前に。連合軍がどこに上陸するのかは最大の軍事機密だから、辰雄やジュンシクがそれを知らないのは当然。さあ今、ノルマンディーへの史上最大の上陸作戦を開始した連合軍の猛攻の前に、ドイツ軍の抵抗は?そして、2人の運命は?
<余談ながら、この紅一点にも注目!>
本作は、①ノモンハン事件(1939年)②独ソ戦(1941~45年)③ノルマンディーの戦い(1944年)という3つの戦場を臨場感溢れる映像で描く中で、数奇な運命で結び付けられた2人のライバルの生きザマを問う大作だから、2時間を越えるのはやむをえない。しかし、2時間25分という長尺になったもう1つの理由は、紅一点として中国人の女性スナイパー、シュライという珍しいキャラを登場させたためだ。シュライを演ずる中国人女性ファン・ビンビンは、私が『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』(04年)で注目した美人女優(『シネマルーム17』108頁参照)だが、その後『墨攻』(06年)(『シネマルーム17』128ページ参照)、『新宿インシデント』(09年)、『孫文の義士団』(09年)(『シネマルーム26』143頁参照)、『ソフィーの復讐(非常完美)』(09年)(『シネマルーム23』147頁参照)、『新少林寺(新少林寺/SHAOLIN)』(09年)(『シネマルーム27』47頁参照)、『運命の子(趙氏孤児/Sacrifice)』(10年)などに次々と女優として出演し大成長している他、ウーロン茶のコマーシャルでは「中国1番の美女」として有名になっている。そんな彼女が本作では、幼い頃に目の前で日本兵に一家を惨殺され、日本軍への復讐を誓う女性役で、短い出番ながら強いインパクトを放っている。
次々と日本兵を狙撃していたシュライはジュンシクのスピードある走りによって捕らえられ、捕虜としてボロボロにされていたが、日本軍からの脱走を決意したジュンシクやジュンシクの親友イ・ジョンテ(キム・イングォン)らと行動を共にする中で次第に心を開いていくことに。しかし、脱走中にソ連軍の大急襲を目にしたジュンシクはなぜか脱走をあきらめ、再び日本軍の方へ。そして、それを追うシュライは・・・?2人のライバルがマイウェイを捜す旅のほんの一部だけの余談(?)ながら、本作ではこの紅一点にも注目!
2012(平成24)年1月13日記