洋12-17

「SHAME -シェイム-」
    

                    2012(平成24)年2月3日鑑賞<東映試写室>

監督:スティーヴ・マックィーン
脚本:スティーヴ・マックィーン、アビ・モーガン
ブランドン(ニューヨークで働く有能な社員)/マイケル・ファスベンダー
シシー(ブランドンの妹、シンガー)/キャリー・マリガン
デイヴィッド(ブランドンの上司)/ジェームズ・バッジ・デール
地下鉄の女/ルーシー・ウォルターズ
マリアンヌ(ブランドンの同僚)/ニコル・ベーハリー
2011年・イギリス映画・90分
配給/ギャガ

<え、あの人が監督?まさか・・・>
 スティーヴ・マックィーンといえば、『大脱走』(63年)、『砲艦サンパブロ』(66年)、『パピヨン』(73年)など、私たち団塊世代では超有名なハリウッドの大スター。そんな彼がクリント・イーストウッドと同じように、今頃監督をやるようになったの?まさか、彼は既に亡くなっているはず・・・。日本でも同姓同名の人は多いが、1969年にイギリスで生まれたスティーヴ・マックィーン監督はまだ作品も少ないから、私が知らなかったのは当然。しかし、同監督は全米マスコミから「アートの先導者」「恐れ知らずの映画作家」と言われているうえ、「ある男のセックスライフ」を描いた本作は、その過激な描写により各国で最も厳しい上映規制がかかり、日本でも「R-18+」規制ですら上映が危なかったというから、「その手の映画」に関心が高い私は必見!
 もっとも、主役のブランドンを演ずるマイケル・ファスベンダーは『300 スリー・ハンドレッド』(07年)(『シネマルーム15』51頁参照)でデビューし、『イングロリアス・バスターズ』(09年)(『シネマルーム23』17頁参照)等に出演しているそうだが、私には全く馴染がない。しかし、本作には『17歳の肖像』(08年)(『シネマルーム24』19頁参照)や『わたしを離さないで』(10年)(『シネマルーム26』98頁参照)で私が注目しているイギリス人女優キャリー・マリガンが妹のシシー役で起用されているから、私はそれに注目!映画冒頭、ベッドから起き上がったブランドンがいきなり素っ裸で部屋の中を歩いてバスルームに出入りするシーンが登場するが、これはブランドンを真正面から撮影。なるほどこりゃ、最初からR-18+の雰囲気が・・・。

<セックス依存症とは?それだってカラスの勝手?>
 ブランドンは長身で細身筋肉質だし顔もハンサムだから、映画冒頭の素っ裸のシーンを見ても、ネクタイ、スーツ姿を見ても結構カッコいい。また、ニューヨークの職場では上司から信頼されているようだし、1人で住んでいるマンションも立派なものできちんと整理整頓されている。ところが、そんな彼は仕事以外の時間はすべてセックスに費やしているセックス依存症らしい。さて、セックス依存症とは?
 過去にセックス依存症の治療を受けたことを公表したのはビル・クリントン元大統領やマイケル・ダグラスらだが、クリントン元大統領の場合はホワイトハウス実習生だったモニカ・ルインスキーとの「不適切な関係」が問題になったための弁解じみた感じも・・・。また、2009年11月に発覚したタイガー・ウッズの「不倫騒動」ではセックス依存症が興味本位で取りざたされたが、これは一種の有名税?しかし、ブランドンの場合はセックス依存症であっても毎晩のように女を買ったり、AVビデオを鑑賞したりマスターベーションするだけで誰に迷惑をかけるわけでもないから、別に問題はないのでは?そんな彼にとって女はあくまで欲望の対象に過ぎないから、真面目に女性と恋に落ちることもないが、他人との接触を最小限度にして自由な1人暮らしを楽しんでいる彼にとっては、それだってまさにカラスの勝手のはずだったが・・・。

<変化は?チャレンジは?>
 そんな彼の平穏な生活に「変化」が訪れたのは、恋人に捨てられたらしい妹のシシー(キャリー・マリガン)が転がり込んできたため。いくら身内でも他人が城の中に入ってくれば、好き放題だが安定していた生活の平穏が乱される。そう考えた彼は当初妹の頼みを断っていたが、つい渋々・・・。それによる変化の第1は、珍しく上司のデイヴィッド(ジェームズ・バッジ・デール)と共にクラブ歌手をしているシシーの店に歌を聴きに行ったこと。1人でセックスに明け暮れていたらこんな煩わしい人間関係はなくていいのだが、たまたまこんなシチュエーションになると思わずシシーの歌の良さに涙が流れたり・・・。さらにシシーとデイヴィッドがすぐにベッドインすることになると、兄として(?)まともなお説教をしたり・・・。こりゃ一体どうなってるの?
 さらに面白いのは、デイヴィッドにパソコンのワイセツ画面のことを罵倒されたブランドンが、同僚のマリアンヌ(ニコル・ベーハリー)との普通のデートにチャレンジしたこと。今ドキの若い恋人たちがロクな会話を交わすことができないのはある意味仕方ないが、ブランドンはマリアンヌに対して「結婚なんて無意味だ!」と叫んでしまったから、完全にこのチャレンジは失敗?さらにその日、自宅に戻って1人マスターベーションしている姿をシシーに覗かれたから最悪・・・。シシーの出現(闖入?)によってここまで生活の平穏が破壊されると、ブランドンの精神状態は・・・?

<2人はどこまで堕ちていくの?それはあなた自身の目で>
 前述したようにシシーを演ずるイギリス人女優キャリー・マリガンの演技は折り紙つきだが、天は二物を与えるもので、シシーがクラブでむせぶように歌うジャズの名曲『ニューヨーク・ニューヨーク』は絶品!兄のブランドンは人間関係を断ちセックスに依存することによってのみ孤独な自分の生活をキープしていたが、妹のシシーはそれと正反対に常に人間とのつながりを求めていたから心が傷つくことも多かったようだ。現に今回シシーがブランドンの家に転がり込んできたのも恋人に捨てられてしまったためだから、妹としてはいくら冷たい兄貴でも当面の住まいくらいは提供してくれるだろうと期待したのはある意味当然。ところが、当初こそ仕方なくシシーとの同居を受け入れたものの、前述のような最悪の事態が続くとブランドンは「お前のせいで僕まで堕ちていく。出て行け」と言い放ったから、さあシシーは・・・?
 夜のまちのこと、セックス風俗関係のことは何でも知っていると思っていたブランドンがシシーに家から出て行く時間を与えるために踏み出した夜の世界には、実はまだまだブランドンの知らない世界があったらしい。そんな世界の中でブランドンは一体どこまで堕ちていくの?また、すべての人間関係を断ち切られ、絶望の淵に立たされたシシーの方も一体どこまで堕ちていくの?「恥を知れ!」という言葉はかなりきつい非難の言葉だが、本作のタイトル『SHAME』は決してそんな意味ではないことをしっかり押さえておきたい。それを前提として、イギリスの鬼才スティーヴ・マックィーン監督が描く究極の「SHAME」の世界は、是非あなた自身の目で。
                                  2012(平成24)年2月13日記