洋12-14
「おとなのけんか」 ![]()
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2012(平成24)年1月30日鑑賞<GAGA試写室>
監督:ロマン・ポランスキー
原作:ヤスミナ・レザ(戯曲『God of Carnage』、日本上映タイトル『大人は、かく戦えり』)
ペネロペ・ロングストリート(被害者の少年の母、作家)/ジョディ・フォスター
ナンシー・カウアン(加害者の少年の母、投資ブローカー)/ケイト・ウィンスレット
アラン・カウアン(加害者の少年の父、弁護士)/クリストフ・ヴァルツ
マイケル・ロングストリート(被害者の少年の父、金物商)/ジョン・C・ライリー
2011年・フランス、ドイツ、ポーランド合作映画・79分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<老監督が、面白い企画に精力的に挑戦!>
ポーランドの巨匠のロマン・ポランスキー監督は、1933年生まれだから80歳間近。したがって、2002年にアカデミー賞監督賞、脚本賞、主演男優賞を受賞した『戦場のピアニスト』(02年)(『シネマルーム2』64頁参照)が最後の花道かと思っていたが、2010年には『ゴーストライター』(2011年10月8日鑑賞『シネマルーム27』143頁参照)でベルリン国際映画祭の銀熊賞などを受賞したうえ、2011年には、何とも面白い企画に挑戦!それは、演劇界のアカデミー賞にあたるオリヴィエ賞とトニー賞をダブル受賞した傑作の舞台『大人は、かく戦えり』(日本名)の映画化だ。
邦題となっている『おとなのけんか』を展開するのは2組の夫婦だが、その原因は子供のケンカ。つまり、公園内である男の子が一緒に遊んでいた男の子を棒で叩いて前歯を2本折る怪我をさせたため、その「おわび」をめぐって今度はおとなたちがケンカする物語だ。舞台は被害者イーサン・ロングストリートの両親が住むアパートの一室内だけだから、俳優のギャラは別として制作費はそんなにかからないはず。また、上映時間が1時間19分と短いのは、セリフを早口でしゃべらせたためらしいから、何かと効率的。そんな風に思っていたが、その出来は「出色!」だから、お立会い!
<4人の芸達者たちは?>
ジョディ・フォスターといえば『告発の行方』(88年)と『羊たちの沈黙』(90年)、ケイト・ウィンスレットといえば『タイタニック』(97年)に、誰でもすぐに結びつく演技派のビッグネーム。ポランスキー監督は被害者の少年イーサン・ロングストリートの母親ペネロペ・ロングストリート役にジョディ・フォスターを、加害者の少年ザッカリー・カウアンの母親ナンシー・カウアン役にケイト・ウィンスレットを起用した。初対面となる2組の夫婦の「話し合い」では、挨拶をはじめおわびや世間話のすべてについてまず話の主導権を握るのは妻だから、この人選に不足はなし!他方、ナンシーの夫で弁護士のアラン・カウアン役を演ずるのは、『イングロリアル・バスターズ』(09年)(『シネマルーム23』17頁参照)で残忍なナチス将校役が印象的だったクリストフ・ヴァルツ。また、ペネロペの夫マイケル・ロングストリート役を演ずるのは、『シカゴ』(02年)(『シネマルーム2』59頁参照)でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞候補にノミネートされたというジョン・C・ライリーだが、私はこちらはあまり馴染がない。
それはともかく、ロングストリート家では妻のペネロペがアフリカのダルフール紛争に関する本を執筆中の「作家」ということがストーリー展開のミソだし、カウアン家ではアランが製薬会社の顧問弁護士として今大変な局面を迎えている弁護士というところがミソ。それに対して、マイケルはペネロペと正反対で平凡だけがとりえの「金物商」のおっさん、ナンシーは投資ブローカーだが、この2人の「仕事」は「おとなのけんか」には直接関係しない。ところが、互いに自分の仕事にプライドを持っているペネロペとアランは「おとなのけんか」の論点が自分の仕事のことにズレてきたり広がってきたりしてくると・・・。
日本では『笑の大学』(04年)(『シネマルーム6』249頁参照)や『ステキな金縛り』(11年)(『シネマルーム27』191頁参照)をはじめとする三谷幸喜作品が演劇色の強い映画として面白かったが、本作はまさにそれ。そして、それを成立させているのが、この4人の芸達者たちだ。
<帰るチャンスは2度も、3度も・・・>
舞台はマイケル・ペネロペ夫妻のアパート。加害少年の両親としてここを訪れたアラン・ナンシー夫妻との話し合いはペネロペ特製のコブラーというケーキを食べながら和やかに進み、次には加害少年ザッカリーの気持を聞くためザッカリーを交えた話し合い「次回期日」を決め、今回はおいとましようということになったが、その度にちょっとしたタイミングの悪さ(?)で再び「話し合い」が始まることに。そして、その度に話し合いの「論点」がズレて拡散するとともに、次第に建て前論から本音に移行していくため、雰囲気は次第に険悪に。そのためアランもナンシーも何度もコートを着たり脱いだりすることになるのだが、まずはなぜ2度も3度も帰るチャンスを逸したのかというストーリー展開に注目!
弁護士のアランは今、アントリルという薬の副作用に関する訴訟のことで頭がいっぱい。したがって、4人の話し合いの最中にかかってくるケータイに、一応は「ごめんなさい」と断りながら出ていたが、生々しい状況がヒシヒシと伝わってくる会話内容は、他の3人に筒抜け。それも1度2度なら仕方ないが、3度4度、5度6度となってくると・・・。最終的にこのケータイ「公害」にキレてアランの手からケータイを奪い取り、花瓶の中に入れてしまったのはペネロペではなくナンシーになるのだが、そこに至るまでの展開に注目!これにはペネロペも拍手喝采して大喜びだが、アランの方は床にへたりこみ、立ち上がることすらできなくなったから大変。あーあ、帰るチャンスは2度も3度もあったのに・・・。
<「ゲロ吐き」から、事態は急転換・・・>
4人の「話し合い」の導入部を観ていると、顧問会社から再三かかってくるケータイに忙殺されているアランに対し、マイケル・ペネロペ夫妻はもちろん、ナンシーも不快感を覚えていたことは明らか。したがって、「今回のコトはナンシーにまかせた。俺は訴訟の対応で忙しいんだ」という本音がチラチラ見えてくると、ナンシーは本当に気分が悪くなり、吐き気を催してきたようだ。そこで、マイケル・ペネロペ夫妻やアランは「もし吐くのならトイレで」と当然の気配りを見せたのだが、ナンシーはどうにも我慢できなかったらしく、いきなり応接テーブルの上に大量のゲロ吐きをしたから大変。このゲロがペネロペが大切にしていたココシュカの画集にもかかったから、ペネロペも一瞬うろたえ、いろいろと本音が・・・。
他方、ナンシーの方もゲロ吐きによって気分的に居直ることができたのか、以降「子供たちのケンカの原因は、犯人をチクったイーサンの方にある」と新たな主張をし始めたり、マイケルがハムスターを路上に捨てた件について「ハムスター殺し!」となじり始めたから大変。また、そんなやりとりの最中に母親からかかってきた電話で母親が問題のアントリルを服用していると聞いたマイケルは、急遽攻撃のターゲットをアランに向けたが、アランはそれに対して弁護士らしく(?)理路整然と反論!このように、『タイタニック』で世界中にその美女ぶりを見せつけたケイト・ウィンスレットが見せた一世一代の「ゲロ吐き」によって、以降事態は急転換していくことに・・・。
<酒が入ると、誰が敵に?誰が味方に?>
アラン・ナンシー夫妻の間に子育てをめぐって大きなミゾがあったことは最初から明らかだが、マイケル・ペネロペ夫妻の間にも、あまりにも理想主義的な「作家」の妻に対して平凡な金物商の亭主で「話のわかる夫」を演じ続けてきたマイケルが大きな不満を持っていたことが明らかになる。そんなマイケルが話し合いの途中で酒を持ち出してきたから、話し合いは余計混乱することに。
酒は身体に対しても、場の雰囲気を和らげる意味でも「百薬の長」になりうるが、逆に酒に飲まれてしまうと大変なコトになるのは世の常だ。マイケルが出してきたスコッチを接待慣れして舌が肥えている(?)アランでさえ「こりゃうまい!」とベタぼめしながら飲み始めたうえ、夫の静止も聞かずナンシーがガブガブ飲み始めたからホントに大丈夫?マイケル・ペネロペ夫妻の家での今回の話し合いのテーマは子供のケンカの仲直りだったはずだが、酒が出ると論点はさらにズレ、かつ拡散していくことに。ケータイ問題、ハムスター問題、アントリル問題、チクリ問題等々さまざまな「論点」をめぐって「おとなのけんか」の矛先があっちこっちに向かい混乱する中、ついにアランのケータイが花瓶の中に水没する事件が発生することに!ここまではさまざまな論点をめぐって誰が味方で誰が敵かわからない状態になっていたところ、ここで一瞬女2人の連合軍が結成されることになったが・・・。
<法曹志望者は、こりゃ必見!>
話し合いの必要性や話し合いによる合理的解決の必要性は誰もが認めるところだが、弁護士生活38年の私は、それがいかに難しいかを実感している。したがって、世の評論家や識者たちがしたり顔で「話し合いが必要ですね」と解説している姿を見ると妙にムカついてくることが多い。問題は「話し合いをする」ことではなく、「いかに話し合いをするか」なのだが、実はよほど有能で客観的な議事進行係がいなければ、それを実行することは難しい。その理由はいろいろあるが、最大の理由は「話し合いによる解決」に必要不可欠な「論点の整理」ができないことだ。もちろん、論点の整理だけできても話し合う内容自体が未熟であれば結局ムダになるのだが、私の弁護士としての経験でいえば、論点が整理されないまま話し合いが進めばあれこれと議論が拡散していくうえ、感情的対立が増大していくケースが多い。それはまさに本作の「話し合い」に見るとおりだ。
法曹界は今弁護士増員をめぐって大揺れに揺れているうえ、法科大学院の統廃合も必至の状況。そんな中、法曹界を志す人たちに必要な勉強はいろいろあるが、その1つがディベートの能力を身につけること。ところが、それをいかにして身につけるかは難しい。しかし、ここにこんないい教材があるではないか!少なくとも法科大学院でつまらない「90分授業」を聴くよりは、1時間19分の本作をじっくり鑑賞した方がディベート能力養成によほど役に立つことは明らかだ。こんな視点から法曹志望者は、こりゃ必見!
2012(平成24)年1月31日記