洋12-12
「メランコリア」 ![]()
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2012(平成24)年1月25日鑑賞<角川映画試写室>
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
ジャスティン(新婦)/キルスティン・ダンスト
クレア(ジャスティンの姉)/シャルロット・ゲンズブール
ジョン(クレアの夫)/キーファー・サザーランド
マイケル(新郎)/アレクサンダー・スカースガード
ギャビー(ジャスティンとクレアの母)/シャーロット・ランプリング
デクスター(ジャスティンの父)/ジョン・ハート
ジャック(ジャスティンの上司)/ステラン・スカースガード
リトル・ファーザー/イェスパー・クリステンセン
ウェディング・プランナー/ウド・キアー
ティム(ジャックの甥)/ブラディ・コーベート
レオ(クレアとジョンの息子)/キャメロン・シュプール
2011年・デンマーク、スウェーデン、フランス、ドイツ合作映画・135分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<ラース・フォン・トリアー監督に注目!>
「09年のカンヌが騒然!」。そんな映画がデンマークの奇才ラース・フォン・トリアー監督の『アンチクライスト』(09年)だった。これでもか!これでもか!とエスカレートするシーンには、思わず身体が硬直!さらに「3人の乞食」という鹿、キツネ、カラスを一体どう解釈すればいいのか私にはわからなかった(『シネマルーム26』83頁参照)が、さて本作は?
本作にはワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の音楽がふんだんに使われているが、それを踏まえて2011年の第64回カンヌ国際映画祭でトリアー監督はドイツのロマン主義芸術からの影響を話した後、「ヒトラーに共鳴する」などと発言したため、「反ユダヤ」「好ましからぬ人物」とされ、映画祭から追放されてしまったらしい。私がトリアー監督の名前をはじめて知ったのは、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00年)を観たとき。第53回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、アイスランド出身のカリスマシンガー、ビョ-クが主演女優賞を受賞した『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は涙涙の感動作だったが、2011年のカンヌ国際映画祭でそんな問題を引き起こしたトリアー監督の『メランコリア』とは一体どんな映画?そもそもメランコリアとは一体ナニ?
メランコリアとは惑星の名前だ。物語の中では、ふと空を見上げた主人公がさそり座の赤い星アンタレスが消えてしまったことに気づくシーンが登場するが、それってストーリーの進行にどんな関係が・・・?人間よりネズミや馬の方が身に迫る危険を察知する本能に優れているらしいが、馬たちが怯えて動かなくなったり、イライラしてさかんに鳴き声をあげるのは一体なぜ?さまざまな謎を含みながら、手持ちのカメラによるブレる映像でストーリーを展開させていくデンマークの奇才トリアー監督に注目!
<3人の女優に注目! その1>
本作の主役は、第1部「ジャスティン」で終始、胸を大胆に見せるウェディングドレス姿で通す新婦ジャスティン。ジャスティンを演じるのは、第64回カンヌ国際映画祭でアメリカ人女優として18年ぶりに主演女優賞を受賞したキルスティン・ダンストだ。このキルスティン・ダンストについて、私は『スパイダーマン2』(04年)の評論で、「ヒロイン役はもう一つ・・・」「私は別に彼女に恨みがあるわけではないが、正直言って、このキルスティン・ダンストの魅力はいまひとつ。」「そんな大切なヒロイン役だし、220億円という大金を投じた映画をつくるのだから、そのヒロインには『絶世の美女』を起用してはどうか、と思うのだが・・・」とケナしてしまった(『シネマルーム6』14頁参照)が、本作では『スパイダーマン2』とは全く異質の主演女優賞にふさわしい内面的演技を見せてくれるから、それに注目!
<3人の女優に注目 その2、その3>
他方、第2部「クレア」のタイトルになっているのが、ジャスティンの姉クレア。クレアを演じているのは、『アンチクライスト』の演技で第62回カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したシャルロット・ゲンズブールだ。『アンチクライスト』で彼女は息子を失った喪失感から夫にセックスを強要し、次第に暴力的になっていく妻の役を大胆なヌード姿を披露しながら狂気じみた熱演を見せてくれたが、本作ではかなり変人(?)の妹ジャスティンに対して、かなりまともな(?)姉クレア役を静かに熱演している。
さらに出番は少ないが、2人の母親ギャビーを熱演するシャーロット・ランプリングも圧倒的な存在感を見せつけてくれる。離婚した夫デクスター(ジョン・ハート)は娘の結婚式でそれなりのスピーチをしているし、ジャスティンのために豪華な結婚式パーティーを準備したクレアの夫ジョン(キーファー・サザーランド)もきわめてまとも(?)だが、ギャビーもジャスティンと同じように少しヘン。トリアー監督はまともな人間より少しヘンな人間が好きそうなことは明らかだが、本作ではとにかく個性的な(?)女性を演じるこの3人の女優に注目!
<花嫁がなぜこんな顔を?>
クレアの夫ジョンがなぜ18ホールのゴルフ場を含むお城のような邸宅を持っているのか不思議だが、それはともかく、こんなすばらしい舞台で超豪華な結婚式パーティーをやってくれるのだから、新郎のマイケル(アレクサンダー・スカースガード)も新婦のジャスティンも大喜びのはず。ところが、会場への到着が大幅に遅れたのはリムジンが曲がりくねった道で立ち往生したためだから仕方ないとしても、みんなが待っている会場入りより先に馬に挨拶するとは、ジャスティンの神経は一体どうなっているの?
ウェディングプランナー(ウド・キアー)の司会の下やっとパーティーが始まり、広告会社で働くジャスティンの上司ジャック(ステラン・スカースガード)のスピーチでアートディレクターへの昇進を告げられたジャスティンは、幸せいっぱいの表情でマイケルとキスをくり返していた。しかし、父親デクスターのスピーチに対して離婚した母親ギャビーが結婚式では到底考えられないような「反論スピーチ」を始めると、たちまちジャスティンは物憂げな表情に。そんなジャスティンを心配したクレアは「今夜はバカな真似はしない約束よね」と釘を刺し、ジャスティンも「ハイ」と頷いたが、さてその後のジャスティンの表情は?また、その後のあっと驚くジャスティンの行動の数々は?
<花嫁がなぜこんな行動を?>
日本の結婚披露宴でも花嫁は「お色直し」のために1、2回会場を離れるが、ジャスティンは勝手に会場を離れてゴルフ場を散歩がてらウェディングドレス姿のまま放尿したり、1人で風呂につかったり、その行動はハチャメチャ。クレアは「ジャスティンは病気だから」とマイケルを制するものの、これにはマイケルはおかんむりだ。さらにジャスティンの奇行は続く。すなわち、別室で既にズボンまで脱いだマイケルとのセックスをお預けにしたままジャスティンは、夜のゴルフ場でジャスティンの会社に入ったばかりの若手社員ティム(ブラディ・コーベート)と強引にセックスに及んだり、突然ジャックを罵倒したり、その奇行は次々とエスカレートしていった。これでは、勝手な行動を取り続けるジャスティンをいくらマイケルが守ってやろうとしても、限界を超えているのでは?したがって、翌朝マイケルが花嫁を残したまま1人邸宅を出て行ったのは、ある意味当然かも?
そんな中、ジャスティンとクレアは2人並んで愛馬を走らせたが、橋の手前に来たとたん何かに怯えた馬たちは決して橋を渡ろうとしなくなったが、それは一体なぜ?せっかくジョンが多額の私財を投じて準備した結婚式パーティーはこんな無残な結果になってしまったが、そんな中ジャスティンが気づいたのが、昨日は見えていたさそり座の赤い星アンタレスが消えていること。これって一体なぜ?馬が怯えていることと何か関係があるの?そんな謎と不安を残したまま、物語は第2部へ。
<科学者の説明って信頼できるの?>
アンタレスが見えなくなったのは、アンタレスを遮って地球に急接近している惑星メランコリアのためらしい。ここではじめてジョンが科学者だったことがわかるが、庭の望遠鏡で観測を続けるジョンは、クレアに対して「惑星は5日後に通過し、地球に衝突することはない」と説明するが、東日本大震災や福島第一原子力発電所の爆発をみても科学者の説明って信頼できるの?そんな中、今や憔悴しきり、1人では歩くことすら困難なジャスティンが邸宅にやってくるが、地球に急速に近づき今や月よりも大きくなった惑星の姿を見たジャスティンの行動は次第に異様に・・・。
『アンチクライスト』でも本作でも、「序章」の概念が大好きなトレアー監督は、ものすごいスローモーション映像を使ってさまざまなものを暗示する。セリフは一切なくバックに流れるのは音楽だけ、しかも映像は美しいが断片的だから、それが何を意味するのか想像するのは難しいが、私を含めて多くの人がその映像からは何かしら不吉なモノを覚えるはずだ。馬が怯えてイライラしているのは、ひょっとしてあの惑星が地球に衝突することを本能的に察知しているのでは?しかして、ある夜ナイトガウンのまま外に出たジャスティンが豊満な乳房を惜しげもなくさらしたオールヌード姿で小川のほとりに寝そべり、惑星にうっとりと微笑みかけるのは一体なぜ?ひょっとしてジャスティンも、惑星の地球への衝突を察知しているの?
<大きさの測定は意外に原始的な方法で>
宇宙飛行士が次々と誕生している今でこそ、外から見た地球の美しさはさまざまな映像で見ることができるが、1961年4月に世界初の有人宇宙飛行に成功し、最初に外から地球を見たソ連の宇宙飛行士ガガーリンは「地球は青かった」と述べたが、さてその真否は?地球に近づくにつれて少しずつ大きくなっていく惑星メランコリアを見ているクレアやジャスティンは青白く輝く惑星の美しさしか見えないが、観客は時々見せてくれる映像から地球とメランコリア2つの惑星の美しい姿を見ることができる。日に日にメランコリアが大きくなっているのは少しずつ地球に近づいているためだが、このまままっすぐ進んできたら地球に衝突するのでは?
クレアはそれが心配でならないが、ジョンは「明日の夜、惑星は通過する」と断言。そして、ジョンとクレアの息子レオ(キャメロン・シュプール)が針金で作った輪をクレアに見せ、「これを胸に当てて、輪を惑星に合わせるんだ。5分後には小さくなる」と意外に原始的な方法で自説を立証したから、クレアもひと安心。ところが、ここで「地球は邪悪よ。消えても嘆く必要がないわ」と淡々と語るジャスティンは、惑星が近づくにつれてなぜか心が軽くなり表情にも明るさが戻ってきたから少しヘン・・・。ジョンの説明では、呼吸がしんどくなるのは惑星に大気が奪われるためだが、それは地球とすれ違う一瞬だけらしい。そう聞いても、ホントに呼吸が荒くなってきたクレアはやはり不安に。そして、なぜかジョンがいなくなってしまう中、1人で再度あの道具を使ってメランコリアの大きさを測ってみると・・・。
<決して明かしてはならない結末、とは?>
「決してタネ明かしをしないでください」を大きなうたい文句にしたのは、M・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(99年)だったが、本作のプレスシートにも「結末は、決して明かさないでください。」と書かれている。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』は壮大だがどことなく不安な曲想の音楽だから、クライマックスに向けてメランコリアが地球に近づいてくる映像にピッタリだ。
ジャスティンが言うとおり、それまでイライラしていた馬は今落ち着いているが、それはなぜ?また、ジャスティンは馬をカラで走らせ、クレアに対してジョンは馬に乗って村に行ったとウソの説明をしたが、それはなぜ?第2部「クレア」のラストシーンが近づいてくると、なぜか地球上にはジャスティンとクレアとレオの3人しか生きていないような錯覚にとらわれるが、それはトレアー監督のマジック?また、ラストに近づくにつれて不安な表情が増してくるクレアに対して、第1部「ジャスティン」ではあれほど情緒不安定で、クレアから「病気だから仕方ないの」と言われていたジャスティンが落ち着いた表情になっていくのはなぜ?
そんなことをいろいろ考えながら、「決して明かしてはならない結末」は、あなた自身の目でしっかりと。
2012(平成24)年1月28日記