洋12-11
「ドラゴン・タトゥーの女」 ![]()
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2012(平成24)年1月24日鑑賞<試写会・TOHOシネマズ梅田>
監督:デヴィッド・フィンチャー
ミカエル・ブルムクヴィスト(雑誌『ミレニアム』の発行責任者)/ダニエル・クレイグ
リスベット・サランデル(天才ハッカー)/ルーニー・マーラ
ヘンリック・ヴァンゲル(ヴァンゲル・グループの前会長)/クリストファー・プラマー
マルティン・ヴァンゲル(ゴッドフリートの息子、ヴァンゲル・グループ現会長)
/ステラン・スカルスガルド
フリーデ(ヘンリックの弁護士)/スティーヴン・バーコフ
エリカ・ベルジェ(『ミレニアム』の編集長、ミカエルの愛人)/ロビン・ライト
ビュルマン(リスベットの後見人弁護士)/ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
アニタ・ヴァンゲル(ハラルドの娘、セシリアの妹、ハリエットの友達)
/ジョエリー・リチャードソン
ハリエット・ヴァンゲル(ゴッドフリートの娘、マルティンの妹)/モア・ガーペンダル
セシリア・ヴァンゲル(ハラルドの娘、アニタの姉)/ジェラルディン・ジェームズ
ヴェンネルストレム(大物実業家、ミカエルと裁判で対立)/ウルフ・フリバーグ
グスタフ・モレル(警部、ハリエット事件を調査)/ドナルド・サムター
ゴッドフリード(リカルドの息子、ナチ信奉者)/
イザベラ・ヴァンゲル(ゴッドフリードの妻)/インガ・ランドグレー
リカルド(ヘンリックの長兄、ナチ信奉者)/
ハラルド・ヴァンゲル(ヘンリックの次兄、ナチ信奉者)/ペル・マイヤーバーグ
2011年・アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツ合作映画・158分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<あの名作がスウェーデンからハリウッドへ!>
「その面白さに、まずスウェーデンが夢中になった」。本作プレスシートの「イントロダクション」の冒頭には、そんな文字が躍っている。続いてプレスシートには、「2005年、同国で刊行されたミステリ『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』は瞬く間にベストセラーリストを駆け登り、その後続けて出版された第二部『火と戯れる女』、第三部『眠れる女と狂卓の騎士』合わせて360万部を売りつくした。この勢いは留まることを知らず世界中に飛び火。フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、そして日本と世界46カ国で熱く迎えられ、今ではその売り上げは6500万部を超えた。」と書かれている。そして、「原作者は、出版の前年50歳で早世したスウェーデン人ジャーナリスト、スティーグ・ラーソン。」だ。
そんな原作を映画化したスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09年)を観たのは2009年12月だが、その出来はすばらしく星5つだった(『シネマルーム24』182頁参照)。続く『ミレニアム2 火と戯れる女』(09年)(『シネマルーム25』73頁参照)『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』(09年)(『シネマルーム25』76頁参照)を一挙上映で観たのは2010年8月で、この2本も星5つだった。今や完全にネタ不足状態に陥っているため、せっせと韓国や日本映画のリメイクに励んでいるハリウッドが、これに目をつけないはずがない。デヴィッド・フィンチャー監督の最新作は、大きな話題を呼んだ『ソーシャル・ネットワーク』(10年)(『シネマルーム26』18頁参照)だが、彼を一躍有名にしたのは1995年の『セブン』。その『セブン』では「GLUTTONY(暴食)」「GREED(強欲)」「SLOTH(怠惰)」「LUST(肉欲)」「PRIDE(高慢)」「ENVY(嫉妬)」「WRATH(憤怒)」という7つの大罪がポイントだったが、本作でも中盤から後半にかけて聖書の言葉に絡んだ何とも血生臭い犯罪が次々と登場してくるから、フィンチャー監督は最適!スウェーデン版はメチャ名作だったが、さてハリウッド版は?
<「ドラゴン・タトゥーの女」は誰が?>
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』3部作が世界の注目を集めた第1の要因は精緻に構成されたストーリーの面白さだが、それ以上に読者や観客の興味を引いたのはタイトルとされている「ドラゴン・タトゥーの女」の奇妙な風貌と数奇な生い立ちだ。「ドラゴン・タトゥーの女」は身長150cmで痩身、背中にはドラゴンのタトゥーがあり、服装は黒の革ジャンに鋲打ちのベルト、鼻にはピアスという奇妙な風貌にまずビックリ。続いて、「ドラゴン・タトゥーの女」は12歳の時から精神的な障害を持ち「反社会的人間」というレッテルが貼られたため、24歳の今でも「被後見人」の立場にあるうえ、「後見人」のサディスト親父からはひどい性的虐待を受けるという境遇の設定にビックリ。
スウェーデン版ではそんな「ドラゴン・タトゥーの女」をほとんど無名の女優ノオミ・ラパスが演じて大評判になったが、ハリウッド版では誰が?プレスシートによると、「スカーレット・ヨハンソンやナタリー・ポートマンらハリウッドの若手実力派役者たちが熱望した」らしいが、フィンチャー監督は『ソーシャル・ネットワーク』でマイケル・ザッカーバーグの恋人役を演じたルーニー・マーラを大抜擢。ハリウッドのキレイどころ女優がここまで極端な役になり切るのは大変だが、ルーニー・マーラは「ドラゴン・タトゥーの女」の風貌はもちろん、手錠をかけられて性的虐待を受けるシーンや、少しずつ心が通い合いはじめたもう1人の主人公とのファックシーンなどにも果敢に挑戦!見事に別人に成りすまし「ある仕事」を完成させるラストのシークエンスでは「こんなに美人だったのか」と見せ付けてくれるが、99%のシーンを「ドラゴン・タトゥーの女」で通したルーニー・マーラの女優魂に拍手!
<もう1人の主役は誰が?>
他方、雑誌『ミレニアム』の発行責任者で映画冒頭、大物実業家ヴェンネルストレム(ウルフ・フリバーグ)のスキャンダルを暴いた裁判で見事に敗訴判決を受けて意気消沈するミカエル・ブルムクヴィスト役を、スウェーデン版では「スウェーデンで最も愛される俳優の1人」であるマイケル・ニクヴィストが演じていたが、ハリウッド版では誰が?「人間的深みと魅力のバランスがとれた役者」という基準でフィンチャー監督が選んだのは、2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』(『シネマルーム14』14頁参照)や、2008年の『007/慰めの報酬』(『シネマルーム22』88頁参照)、さらに『ディファイアンス』(08年)(『シネマルーム22』109頁参照)などで近時人気を博しているダニエル・クレイグだ。
マイケル・ニクヴィストが1960年生まれだったのに対しダニエル・クレイグは1968年生まれだから、ハリウッド版のミカエルの方が少し精悍で行動的。また、ひょっとしてセックスにも強い?ハリウッド版といえどもそのストーリーはスウェーデン版とほとんど同じだし見どころも同じだが、今や押しも押されぬハリウッドの大物俳優に成長したダニエル・クレイグは、スウェーデンの地でいかなるミカエル役を?ジェームズ・ボンドのイメージが強すぎると、ラスト近くでヴァンゲル・グループの現会長のマルティン・ヴァンゲル(ステラン・スカルスガルド)から痛めつけられるシーンがあまり似合わなくなってしまうから用心が必要だ。もっとも、リスベット・サランデルといい仲になった後も、ちゃっかり『ミレニアム』の美人編集長であるエリカ・ベルジェ(ロビン・ライト)との肉体関係を続けるあたりは、やっぱりジェームズ・ボンドから抜け切れない・・・?
<1回観ただけでわかるかな・・・?>
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のストーリーは、ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)が、失意のどん底にあるミカエルに対して「ある依頼」を始めるところから始まる。「ある依頼」とは、表面上はヴァンゲル家の歴史を調べ、ヘンリックの伝記を書くことだが、裏に隠されたホントの依頼は約40年前に16歳で行方不明となったヘンリックの長兄リカルドの息子ゴッドフリードの娘であるハリエット・ヴァンゲル(モア・ガーペンダル)の消息を調べてくれということだ。ヘンリックの推測では、きっと「殺されている」ということだが、もしそうなら失踪前にハリエットが彼の誕生日にプレゼントしていた押し花が今も毎年欠かさず送られてきているのはなぜ?弁護士の私としては、そんな依頼は日本なら明智小五郎や金田一耕助に、イギリスならシャーロック・ホームズあたりにすべきだと思うのだが、ヘンリックはなぜ一介のジャーナリストにすぎないミカエルにそんな依頼を?
本作が複雑でややこしいのは、スウェーデン北部の港町ヘーデスタに隣接する小さな島を支配している長兄のリカルド、次兄のハラルド(ペル・マイヤーバーグ)、3男のヘンリック、そしてリカルドの息子ゴッドフリードという4人の男からなるヴァンゲル家一族がまるで『犬神家の一族』(06年)(『シネマルーム13』296頁参照)と同じように陰湿で、おどろおどろしい人物ばかりで構成されており、さまざまな事件を起こしているからだ。したがってスウェーデン版を観た時もその展開についていくのはかなりの集中力を要したが、それを理解させるのに要した映画の時間も153分と長尺だった。しかして、今回観たハリウッド版もスピーディーな展開が目に付くが、それでもスウェーデン版とほぼ同じ158分。私はスウェーデン版の「復習」も兼ねて観たからストーリーがよくわかったが、さてあなたはこの複雑なストーリーを1回観ただけでわかるかな・・・?
<スウェーデン版との異同は?第2作、第3作は?>
人気映画をリメイクするについては、黒澤明監督の『七人の侍』(54年)をリメイクしたジョン・スタージェス監督の『荒野の七人』(60年)のように、時代や舞台を全く別のものに置き換えるのも1つの手法だが、プレスシートによるとフィンチャー監督はとことんスウェーデンにこだわったらしい。それは、物語のルーツがスウェーデンにあるからだが、そうなるといかにハリウッドによるリメイク版でもストーリーは必然的にスウェーデン版とほぼ同じになってしまう。たしかに「ドラゴン・タトゥーの女」のキャラはスウェーデン版と全く同じだし、ミカエルのキャラも90%以上同じ。さらに、クライマックスに向けてミカエルに迫る危機や、それをリスベットが救うことによって明らかになる驚くべき真相も同じだ。
他方大きく異なるのは、スウェーデン版ではストーリーが完結した後も『シネマルーム24』に書いたように①1審で禁固3カ月の有罪判決を受けたミカエルの刑の執行はどうなったの?②ヘンリックからの依頼を受けた調査が完了したら、リスベットはどこかに消えてしまうの?③ミカエルはヘンリックから大実業家ヴェンネルストレムに関する秘密の資料提供を受けてヴェンネルストレムに対する反撃を開始するの?などたくさんの積み残しになっているテーマがあったのに対し、ハリウッド版ではラストに向けてすべてのケリをつけていくこと。これは一体ナゼ?私が思うにそれは、スウェーデン版は最初から第2作、第3作を予定していたのに対して、ハリウッド版はとりあえず1話完結型としたためだ。もしそうだとすると、ハリウッド版ではスウェーデン版のように第2作、第3作が生まれないことになるが、私としてはそれは残念。本作が大人ヒットすれば、ストーリー的にちょっと無理筋でも、是非スウェーデン版の第2作、第3作のような面白いストーリーのハリウッド版『ドラゴン・タトゥーの女』第2作、第3作を期待したい。
2012(平成24)年1月26日記