洋11-97

「ミッション:8ミニッツ」
    

                    2011(平成23)年9月27日鑑賞<角川映画試写室>

監督:ダンカン・ジョーンズ
コルター・スティーヴンス大尉/ジェイク・ギレンホール
クリスティーナ・ウォーレン/ミシェル・モナハン
コリーン・グッドウィン空軍大尉/ヴェラ・ファーミガ
ラトレッジ博士(グッドウィンの上司)/ジェフリー・ライト
2011年・アメリカ映画・94分
配給/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

<映画は、アイデアが勝負!>
 映画はアイデアが勝負!そんな視点からは「今年1番のサスペンス・ムービー!」というFOX-TVの宣伝文句もわからないでもないが、私のように疑い深い人間にはホントにこんなことができるの?という疑問がぬぐえない。本作のテーマ(アイデア)は、主人公のコルター・スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)がそのタイトルどおり、与えられた「8分間ミッション」を何度もくり返す中で、乗客が全員死亡したという「シカゴ列車爆破事件」の犯人を見つけ出し、次なる大爆発テロを事前に防止することができるのか?ということだが、さてその科学的根拠は?
 ちなみに、9月26日付新聞各紙は、「素粒子の1つであるニュートリノが光より速く飛ぶ可能性があることを名古屋大学などが参加する国際共同研究チームが発表した」ことを報じた。もし、この研究発表どおりなら「光より速く移動できるものはない」というアインシュタインの特殊相対性理論の否定につながるかもしれないらしいが、もちろんこれらの理論は私にはチンプンカンプン。しかして、本作においてラトレッジ博士(ジェフリー・ライト)が開発したという、「8分間ミッション」のシステムを実行するための科学的知見もあまりにもハイレベルすぎて、私にはチンプンカンプン。

<俺は誰?俺の立場は?任務は?>
 映画冒頭、シカゴ行き2階建て列車の座席で目を覚ましたコルターに対して、向かいの席に座っている若い女性クリスティーナ・ウォーレン(ミシェル・モナハン)が「ショーンさん・・・」と親しげに語りかけてくるシーンが登場する。それに対してコルターは、「あんたは一体ダレ?」と返したが、米国陸軍の大尉で、今は任地のアフガニスタンで戦闘ヘリコプターを操縦している(はずの)コルターにとって、そんな疑問は当然。自分が今一体どんな状況下に置かれているのかについてサッパリ訳がわからないコルターが、洗面所で鏡を覗き込むと、そこには全く見覚えのない顔が映っていたうえ、身分証明書を取り出してみると、そこには「ショーン・フェントレス:教師」と書かれていたからビックリ。こりゃ一体どうなってるの?
 しかし、その直後の列車爆発事故でクリスティーナと共に吹っ飛ばされた後、「コルター大尉、ここは“包囲された城よ”」と空軍大尉の女性コリーン・グッドウィン(ヴェラ・ファーミガ)から現在の任務を説明されると、それに従うしかないのが、今のコルターの立場?

<「時空超え+パラレルワールド+ループ」の三乗は?>
 タイムスリップや時空超えの映画は『時をかける少女』(06年)(『シネマルーム12』398頁参照)、『戦国自衛隊1549』(05年)(『シネマルーム7』80頁参照)、『サマータイムマシン・ブルース』(05年)(『シネマルーム8』150頁参照)など数多いが、これくらいの科学的知見なら素人でも理解できるから、それをテーマとした映画はそれなりに面白い。しかしパラレルワールドやループになると?プレスシートのPRODUCTION NOTEには、「『ミッション:8ミニッツ』のストーリーを彩る“時空超え”“パラレルワールド”“ループ”という題材について」という解説があって興味深い。
 それによると、「現実世界は主人公が認識しているひとつだけとは限らず、どこか別の現実が存在する」という異次元=パラレルワールドの概念を扱った映画が多く、『マトリックス』(99年)などがその代表。とりわけ、人間の潜在意識をモチーフにした『インセプション』(10年)は近年最も斬新な“異次元映画”といえるらしい。また、主人公が記憶を蓄積しながら同じ時間を反復し、ある難題の解決に挑むというのが「ループもの」の基本パターンらしい。したがって、本作は時空超え、パラレルワールド、ループという3つのモチーフのツボを的確に押さえた作品だから面白いのは当然らしいが、他方、難しさが三乗されると・・・?

<後出しジャンケンのくり返しは、ちょっとズルイ?>
 本作は、前述のとおり映画冒頭に提示されたシカゴ行き列車爆破事件の中に、時空を超えて(?)コルターが8分間ミッションで再三入り込み、真犯人を捜し出すというアイデアが命だから、クリスティーナとコルターが座席に向かい合って話を始めるシーンが再三登場してくる。1回毎の学習効果(?)を経て、次第にコルターは犯人像に近づいていくのだが、1回毎に行動パターンが変わるコルターに対応していかなければならないクリスティーナは大変。
 他方、それをコリーン大尉やラトレッジ博士以上の客観的立場からスクリーン上で観ている私たち観客は、コルターの視線でコルターと共に犯人捜しに興味を持ち続けることができる。それが本作のアイデアであり面白さだが、わずか8分間だけとはいえ「後出しジャンケン」のように、体験のくり返しができるというのは、ちょっとズルイのでは?

<実用化の可能性は?>
 『インセプション』と同じように、本作もその理解は難しい。しかも弁護士としての目で見れば、捜査権を持った人間ならいざ知らず、列車の中では一民間人にすぎないショーンことコルターが「8分間ミッション」の間に爆弾の隠し場所を発見したり、それを誰かが電話で起爆させているというシステムがわかったり、ケータイを持って話している多くの乗客や乗降客の中からその「犯人」を捜し出したりという、本作が描くメインストーリーは少し違和感がある。いくら8分後に起きる列車大爆発の犯人を特定し次なるテロを防止するという崇高な目的のためとはいえ、ここまで強引かつ違法な捜査はありえないのでは?
 また「この世界」と「あの世界」の間でコリーン大尉との連絡が可能であり、情報をもらえるというメリットがあるにせよ、8分間ミッションを数回くり返す中で犯人逮捕に至り、めでたく次なるテロを防止することができた、という筋書きは少し甘いのでは?もっとも、本作ラストには、8分間ミッションを何度もくり返す中で、次第にコルターのクリスティーナに対する思いが本格的になることによって「ある想定外の展開」が待っている。さらに、コルターから「ある要請」を受けたコリーン大尉がラトレッジ博士の指示に背いて「ある行動」に走るから、そこからも想定外の結末が生まれてくる。要は、いくら科学的に精緻な研究であってもそれを動かすのは人間だということだ。他方、本作で描かれる結末をみると、どうもラトレッジ博士の研究には想定以上の結果が期待できそうだ。さて、その実用化の可能性は?
                               2011(平成23)年9月29日記