日11-96
「ステキな金縛り」 ![]()
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2011(平成23)年9月26日鑑賞<東宝試写室>
監督・脚本:三谷幸喜
宝生エミ(弁護士、矢部五郎の弁護を担当)/深津絵里
更科六兵衛(幽霊)/西田敏行
小佐野徹(敏腕検事)/中井貴一
速水悠(エミの弁護士事務所のボス)/阿部寛
日野風子(事件の重要証人、双子の姉)/竹内結子
矢部鈴子(被害者、双子の妹)/竹内結子
日野勉(風子の夫)/山本耕史
矢部五郎(妻殺しの容疑で捕えられた鈴子の夫)/KAN
木戸健一(歴史学者)/浅野忠信
宝生輝夫(若くして亡くなったエミの父)/草彅剛
菅仁(裁判長)/小林隆
工藤万亀夫(同棲中のエミの優しい恋人)/木下隆行(TKO)
村田大樹(万亀夫の役者仲間)/佐藤浩市
段田譲治(向こうの世界から六兵衛を監視)/小日向文世
阿倍つくつく(陰陽師)/市村正親
占部薫(タクシー運転手)/生瀬勝久
前田くま(ウェイトレス)/深田恭子
悲鳴の女(コールガール)/篠原涼子
日村たまる(法廷画家)/山本亘
2011年・日本映画・142分
配給/東宝
<またまた星5つ、やっぱり三谷映画は最高!>
裁判員裁判の第1号事件実施から丸2年。裁判員裁判は日本でどこまで定着したの?そんな問題意識の中で、私は去る9月24日に、「第7回大阪アジアン映画祭プレ企画 日本映画連続講義2011」で「名作映画から学ぶ裁判員制度」と題する講義をしたが、そこで、アメリカ版『十二人の怒れる男』(57年)、ロシア版『12人の怒れる男』(07年)(『シネマルーム21』215頁参照)と並んで取り上げたのが『12人の優しい日本人』。この映画は鑑賞前はアメリカの名作のパロディ版くらいにしか考えていなかったが、観ているうちに、こりゃホントに面白く、日本人に裁判員制度を啓蒙していくのにベストの素材と感心したものだ。これは今から20年前の1991年の三谷映画だが、その後の『ラヂオの時間』(97年)や『竜馬の妻とその夫と愛人』(02年)などは観ていない。しかし、最近の『笑の大学』(04年)、『THE 有頂天ホテル』(05年)、『ザ・マジックアワー』(08年)の3作は、私にとっていずれも星5つの最高点(『シネマルーム6』249頁参照)(『シネマルーム9』288頁参照)(『シネマルーム20』342頁参照)。
吉本の芸人たちが織りなすアホバカバラエティーとは全く異質の、ユーモアに溢れたストーリー展開とその中で三谷幸喜監督が取り上げるテーマはその都度斬新で、問題提起に富んでいる。しかして、本作は幽霊の更科六兵衛(西田敏行)を証人として呼ぶことができるのかどうかを争点として(?)、女性弁護士・宝生エミ(深津絵里)と敏腕検事の小佐野徹(中井貴一)が対決する「法廷モノ(?)」だが、これまた星5つ。やっぱり三谷映画は最高!
<あなたならどう裁く?幽霊も証人に?>
映画冒頭『THE 有頂天ホテル』や『ザ・マジックアワー』と同じような三谷監督独特の「構図」の中で、ある殺人事件が描かれる。殺されたのは美術品のバイヤー・矢部鈴子(竹内結子)、そして妻殺しの容疑で逮捕・起訴されたのは夫の矢部五郎(KAN)だ。しかし、冒頭のシークエンスで描かれるのは、鈴子と自分の夫である日野勉(山本耕史)が浮気をしていることに気づき、今まさにその現場に乗り込もうとしている、鈴子の双子の姉である風子(竹内結子)の姿。そして部屋に乗り込んだ後、取っ組み合いの姉妹ゲンカの中で2階の廊下から転落死する鈴子の姿だ。あれれ、こりゃおかしい。弁護士の目で厳格に見れば、矢部は冤罪では?
著名な人権派弁護士であった父・宝生輝夫(草彅剛)の遺志を継いで自分も弁護士になりながら失敗の連続でもう後がないエミは、事務所のボス弁・速水悠(阿部寛)からこれが最後のチャンスだと励まされて(?)矢部の弁護人になったが、無罪を主張する矢部のアリバイは、事件当夜旅館の1室で幽霊のために金縛りにあっていたというもの。この殺人事件は裁判員裁判で裁かれるわけだが、もしあなたが裁判員なら矢部のそんなアリバイの主張をどう評価?もっとも、裁判員裁判であっても訴訟指揮をするのは裁判長だから、その影響は大きい。公判前の争点整理手続(?)の中、生前のエミの父のことをよく知る裁判長・菅仁(小林隆)の前でエミは幽霊の証人申請をしようとしたが、冷静沈着で理論派の小佐野検事がそれを一笑に付したのは当然。ところが、意外にも裁判長は?
<あなたは、幽霊が「見える派」?「見えない派」?>
本作の三谷脚本が面白いところは、「しかばね荘」の「耳鳴りの間」で幽霊と出会ったエミのように幽霊が見える人と、速水弁護士や菅裁判長のようにいくら努力しても幽霊が見えない人を、ある客観的基準で区別したところ。法律の勉強は要件と効果の勉強と言われているが、それはある条文をあてはめるために必要な「要件」と、その要件を満たした場合に発生する法的「効果」を正確に理解する必要があるためだ。たとえば安楽死の要件として、現在は①死期が切迫していること、②耐え難い肉体的苦痛が存在すること、③苦痛の除去・緩和が目的であること、④患者が意思表示していること、⑤医師が行うこと、⑥倫理的妥当な方法で行われること、とされている。しかして、三谷脚本による「幽霊が見える人」と「見えない人」を区別する3つの要件は、①最近ついてないこと、②最近死を身近に感じたこと、③シナモンが大好きなことだ。
なるほどエミが慌てて法廷に駆けつけていく時に危うく車にはねられそうになる本作さわりのシーンにはそういう意味があったのか・・・。逆に、一流弁護士事務所の所長のくせに甘いものには目がない速水弁護士がチョコレートをこっそり食べているシーンがあったが、それもそういう伏線だったのか・・・。これでやっと、タクシー運転手の占部薫(生瀬勝久)やウェイトレスの前田くま(深田恭子)には全く見えないのに、エミや矢部の他、悲鳴の女(篠原涼子)や法廷画家の日村たまる(山本亘)が幽霊を見ることができる理由がわかったが、さて、あなたは幽霊が見える派?見えない派?
<すごい法廷に注目!幽霊も証人に?>
昨今はあっちこっちで裁判所の建替えが進む中で昔風の重厚な法廷は少なくなり、標準規格もしくは安っぽい法廷が多くなっている。しかし、本作にみる法廷はすごく立派だから、ここでの弁護活動には力が入りそう・・・。その最大の特徴は、法廷全体がすり鉢状になっていること。とりわけ傍聴席の1番後ろが1番高くなっているから、傍聴席から法廷全体を広く見渡せるように設計されている。ちなみにこの法廷でも、裁判官側からみて左側が検事席に、右側が弁護人席になっているが、これは私の過去37年間の弁護士経験からは逆。しかし、それはそれでOKであることは『それでもボクはやってない』(06年)の評論で私が解説したとおりだから、それを参照してもらいたい(『シネマルーム14』74頁参照)。
本作のテーマは裁判官には見えず、エミや被告人にしか(?)姿が見えない幽霊の六兵衛を証人として取調べることができるか否かだが、ホントにそんな問題が司法試験に出れば、さてあなたはどのように解答?本件の審理全体を通じて私は裁判長の「弁護人びいき」が強すぎるように思えるが、それも訴訟指揮の1つだから、仕方なし?かくして、「幽霊は証人になることができるのか?」についての法律論的見解は不十分なうえ(?)、菅裁判長の独断と偏見によって(?)、前代未聞の幽霊・六兵衛の証人尋問が実現することになったのだが、そこで浮かび上がった大問題は幽霊の証言をいかにして引き出すのかということ。さあ、弁護人の創意工夫ある立証活動とは?
<しっかり、主尋問と反対尋問のお勉強を!>
反対尋問では多少の誘導尋問も許されるが、主尋問で誘導尋問が禁止されるのは証人尋問技術におけるイロハのイ。その視点から見ると、当初エミが実施した尋問はハチャメチャだ。すなわち、それは自分が聞いたことに対する六兵衛の答えをそのまま自分がくり返すだけのものだったから、そんなエミの尋問に、小佐野検事から「異議」が出されたのは当然。そこでエミが思いついたのは、「〇〇ですか?」の質問にYESなら1回、NOなら2回音をならして答えてもらうというもので、本来これが証人尋問の原型だ。このやり方でエミの主尋問はそれなりにうまくいったが、小佐野検事の反対尋問はさすがにしたたか。つまり、反対尋問は証人の主尋問での証言の信憑性を減殺するためのものだから、必ずしもYESかNOかで答えられる質問にする必要はない。そこに目をつけた小佐野検事は、次々と六兵衛が答えられない「いじわる質問」を重ね、六兵衛が回答できないことをしっかり3人の裁判官と6名の裁判員に印象付けたから、小佐野検事の反対尋問は大成功。
「無実の人を罪に陥れるのですか?」とのエミの問いかけに、義侠心で応じた(?)六兵衛だったが、法廷の華である証人尋問がこんな無残な結末では矢部の有罪は明らか。やはり、本番一発勝負の証人尋問は恐い。そんな訴訟の現実のお勉強を、本作でしっかりと。
<芸達者たちの名演技をタップリと>
深津絵里は第34回モントリオール映画祭最優秀女優賞を受賞した『悪人』(10年)(『シネマルーム25』210頁参照)では妻夫木聡とともに内面的な演技が光っていたが、本作ではそれとは全く打って変わり、自由奔放な演技でその魅力を全開させている。司法試験合格者が毎年2000名に増え今や就職先のない弁護士が増殖中だが、幽霊と対話できる弁護士ともなれば、引く手あまたで依頼者も激増するのでは?西田敏行の演技はいつもどこまでのセリフが決められたとおりでどこまでがアドリブなのかが注目されるが、本作でもその持ち味を十分に発揮している。
他方、中井貴一は『壬生義士伝』(03年)(『シネマルーム2』71頁参照)のような二枚目役をきっちりこなす一方、本作の一部(?)でみせる喜劇役者(?)としての演技も超一流だ。幽霊が見えるエミと幽霊の六兵衛との対話は面白いが、それは想定の範囲内で、エミと幽霊が見えない速水弁護士とのやりとりに注目!さらに、幽霊が存在していること、そして実は速水弁護士には六兵衛が見えていることを証明するためにエミと六兵衛が仕掛けるワナは見ていて最高に面白い。裁判長の菅までそんな三谷脚本の仕掛けに乗ったのでは、市民が真面目に参加すべき裁判員裁判の展開が心配されるが、この際そんな固いことは言わず、奇想天外な三谷脚本による芸達者たちの丁々発止の名演技をタップリと楽しみたい。
<真犯人は誰だ!>
本作は2時間22分の長尺となっているが、それは映画後半に、向こうの世界からやってきた公安関係の偉い人(?)段田譲治(小日向文世)や六兵衛を除霊しようとする陰陽師・阿倍つくつく(市村正親)らを登場させたことが1つの原因。映画好きの段田がエミに対して『スミス都へ行く』(39年)について語るシーンは含蓄があると同時に、「それを観ている間に・・・」という時間制限を意識させる点で効果的だが、エミの恋人で売れない役者の工藤万亀夫(木下隆行)やその仲間の村田大樹(佐藤浩市)などをチョイ役(?)で登場させるなど豊富な俳優陣を誇っているのだから、そこまで欲張らなくてもよかったのでは・・・?
それはともかく、後半にはそんな脱線気味のストーリー(?)を入れ込みながら、クライマックスに向けて弁護士・エミの推理と法廷活動は次第に鋭さを増していくから、それに注目したい。弁護士が裁判に勝訴するためには書類の検討だけではダメで、関係者に直接当たることが大切。そんな姿勢で被害者・鈴子の双子の姉・風子やその夫・日野勉からの事情聴取に乗り込んだエミは、そこでどんな感触と確信を?さあ、真犯人は誰だ!そして、エミの一世一代の晴れ舞台での活躍は?
<この余韻あるフィナーレも最高!>
映画は後半からクライマックスにかけて、あの世から小佐野の愛犬をこの世に連れ戻したり、被害者の鈴子をあの世で捜したりと、生きていれば421歳になっているという幽霊の六兵衛の活動範囲は広い。法廷モノはラストには有罪無罪いずれかの結論が出され、その高揚感の中でドラマが終わるのが普通だが、「幽霊は犯人になれるのか?」をテーマとした本作のフィナーレはそれとはかなり違っている。
本作の主役は失敗の連続で後のない弁護士・エミだが、彼女が幽霊・六兵衛を見ることができたのはなぜ?それをここで復習してみると、幽霊を見ることができる3つの要件のうち、「シナモンが大好きなこと」という3番目の要件はその人の属性だし、逆に2番目の「最近死を身近に感じたこと」は単なるハプニングだが、さて1番目の「最近ついていないこと」は?私は本作のキャストの中でエミの父親役を演じた草彅剛だけは少し違和感があったが、それでも彼は三谷演出によるフィナーレで大きな役割を果たしている。さて、そんな余韻のあるフィナーレとは?こりゃ最高、それもじっくりと味わいたい。
2011(平成23)年9月28日記