日11-53

「歓待」
    

                    2011(平成23)年5月16日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本・編集:深田晃司
芸術監督:平田オリザ
プロデューサー:杉野希妃、深田晃司
小林幹夫(下町の印刷所経営者)/山内健司
夏希(幹夫の妻)/杉野希妃
加川花太郎(小林家への闖入者)/古舘寛治
アナベル(小林家への闖入者)/ビライアリー・ロング
小林エリコ(幹夫と前妻との娘)/オノエリコ
小林清子(幹夫の出戻りの妹)/兵藤公美
敏子(近所のおばちゃん)/松田弘子
河野(夏希の友人、バンドマン)/河村竜也
本間(夏希の異母兄)/菅原直樹
章江(幹夫の前妻)/齋藤晴香
山口(幹夫の従業員)/永井秀樹
2010年・日本映画・96分
配給/和エンタテインメント

<やっぱり、アンテナはいつもしっかりと!>
 去る5月4日、JR大阪駅ビルが全面オープンした。大丸梅田店とJR大阪三越伊勢丹の両デパートそして大型商業施設ルクアには人があふれ、サウスゲートビルに入居しているユニクロもホクホク顔?そして、ノースゲードビル11階に新しくオープンした大阪ステーションシティシネマにも、人がいっぱい?さらに4月26日天王寺にグランドオープンした「あべのマーケットパーク キューズモール」も、若者たちで大賑い。こんなニュースを見ていると、3.11東日本大震災にもかかわらず日本人は新しいもの好きだし、日本国はいつまでもリッチ?
 そんな中で私が注目したのは、十三の「第七藝術劇場」で現在公開されている中国映画『再生の朝に』(09年)とペルー映画『悲しみのミルク』(09年)、シネ・リーブル梅田で公開されているブラジル・フランス映画『名前のない少年、脚のない少女』(09年)、そして5月16日(月)の夕方4時半に自転車を駆ってわざわざテアトル梅田に観に行った本作『歓待』(10年)だ。私はいつも単館で上映される個性的な映画に注目しているが、一時にこれだけの注目作が3つの単館に集中するのはめずらしい。とにかく、今日はわざわざ本作を観に行って大満足。やっぱり、アンテナはいつもしっかり張ってなくちゃ・・・。

<闖入者二態!『冷たい熱帯魚』VS『歓待』>
 パンフレットによると、本作のタイトル『歓待』は、もともと予定されていた『輪転』から変更されたらしい。「歓待」という言葉をストレートに理解すれば、それは前向きの言葉(?)だが、その内実は「招かれざる客」=「闖入者」の意味だということは映画がスタートするとすぐにわかる。近時私がもっとも驚いた問題作が園子温監督の『冷たい熱帯魚』(10年)だが、これも「招かれざる客」=「闖入者」を主人公に据えた何ともすさまじい映画だった。
 本作の闖入者、加川花太郎(古舘寛治)も、でんでんが演じた『冷たい熱帯魚』の闖入者・村田幸雄と同じように、一見人懐っこい顔で、東京の下町で平和裏に小さな印刷業を営んでいる家庭の中に入ってくる。ところが、いざそこに自分の居場所を見つけ、それをキープすると、たちまち君子(?)は豹変!何ともすさまじい闖入者二態を、『冷たい熱帯魚』と本作で!もっとも、その恐ろしさは両作品に共通しているが、園子温監督が『冷たい熱帯魚』で導いたラストと、深田監督が本作で導いたラストは正反対。そんな違いをしっかり対比しながら、何とも奥深い本作をしっかり味わいたい。

<プロデューサー兼主演女優の、杉野希妃に注目!>
 本作で夏希を演じた杉野希妃は慶應義塾大学経済学部在学中にソウルに留学し、2006年、韓国映画『まぶしい一日』初主演で映画デビューし、続けてキム・ギドク監督の『絶対の愛』(06年)に出演したという1984年生まれの女性。『絶対の愛』では、喫茶店に勤めているかわいいウェイトレス役が日本人だったことは私もよく覚えている(『シネマルーム13』86頁)が、それが本作の杉野希妃だったとは!
 近時はドリュー・バリモアやリース・ウィザースプーン、さらにナタリー・ポートマンなど超有名なハリウッド女優が自ら映画をプロデュースする傾向があるが、まだ20代の一介の日本人女優が、いくら韓国での人脈があるとはいえ自ら主演し自らプロデュースするのはきわめて異例。パンフにある彼女の「『歓待』プロダクション・ノート」は、前向きの創造的な活動をしているとそんな人間同士が結びついて人脈が広がり、パワーやエネルギーが結集するものだということがわかるから、実に興味深い。本作の撮影は猛暑の中で8日間、編集はわずか3日間というからすごい。そんな突貫作業でも、才能と工夫さえあれば東京国際映画祭やロッテルダム映画祭に出品できる本作のような個性的な映画が完成するわけだ。日本の20代もまだまだ捨てたもんじゃない。そんな思いで女優兼プロジューサーの杉野希妃に注目!

<80年生まれの深田監督と「劇団青年団」にも注目!>
 本作で夏希を演じる杉野希妃と共に主役を張る古舘寛治と山内健司は、2人とも平田オリザが主宰する「劇団青年団」のメンバー(古舘寛治は劇団サンプルのメンバーを兼ねている)。さらに、幹夫の妹で「出戻り」の小林清子役を演じる兵頭公美以下、本作に登場する多くの俳優は劇団青年団所属のメンバーだ。
 映画で活躍する劇団出身者は、劇団☆新感線出身で現在ゲキ×シネ『薔薇とサムライ』などで活躍中の古田新太などたくさんいるが、彼らは「映画スター」と違って、普段は日の当たらない現場で黙々と芸術活動に専念している。そんな劇団青年団の役者たちが本作では、1980年生まれで2005年より劇団青年団に演出部として入団したという深田監督の演出の下、スクリーン上で大躍動!本作では、そんな深田監督と劇団青年団にも注目!

<ひょっとして、夏希も闖入者?>
 小林印刷への最初の闖入者が花太郎なら、次の闖入者は花太郎の妻(ひょっとして偽装結婚?)だというブラジル人女性アナベル(ビライアリー・ロング)。厚かましくも2階の住み込みの部屋に妻を招き入れ、夜中にド派手なあえぎ声を聞かせる花太郎の神経は如何に?本作では、いかにも腹黒そうな花太郎といかにも人の良さそうな幹夫の対比が面白いが、花太郎がアナベルとつるんで(?)仕掛けていくワナ(?)はきわめて巧妙だ。そりゃ、家の人がみんな外に出かけている時に、アナベルのような魅力的な女性からダンスに誘われたりベッドインを誘われたり(?)すれば、いくら堅物の幹夫でも・・・?
 本作のクライマックスには、東京の下町には何とも不似合いな国際色豊かな外国人の若者たちが多数登場する。彼ら彼女らがみんな花太郎やアナベルの友達?ひょっとして、以降小林印刷にはこんな何十人もの闖入者が?本作ではそんなストーリーづくりの妙をじっくり味わいたいが、ここでもう一歩突っ込んで考えてみると、ひょっとして夏希も闖入者?という問題がある。
 映画中盤に花太郎がみせる、腕利きの探偵のような調査能力はすごい。これによって、夏希が小林印刷のカネを毎月10万円ほど使いこんでいたこと、そしてそのカネを兄だという本間(菅原直樹)に貢いでいたことを発見した花太郎は、幹夫に対してのみならず夏希に対しても脅迫まがいの行為を?夏希は幹夫の後妻として小林印刷の中で安定した座をキープしているように思えたが、その内情は①清子との関係の微妙さ、②町内会での立場の無さ、そして③前妻・章江(齋藤晴香)との娘・小林エリコ(オノエリコ)との距離感など、夏希の座はきわめて不安定?そう考えると、夏希もひょっとして小林印刷への闖入者?

<インコに始まり、インコに終わる脚本に拍手!>
 私は小学低学年の頃、十姉妹とセキセイインコを飼っていたが、これはある時期以降、ある事情により父親が2度と犬を飼うことを認めてくれなくなったためだ。本作は、幹夫とその前妻・章江との間に生まれた娘・エリコが飼っていたインコのピーちゃんがカゴから逃げ出したため、その捜索願い(?)のビラを作るシーンから始まる。小林家の稼業は印刷業だからそんなビラを作るのは朝飯前だが、ビラに使用するインコの写真の写りが悪いのが少し気がかり・・・。
 深田監督は本作の時代設定を明確にしていないため、フーテンの寅さんが生きた「昭和」の時代なのか、それともバブル崩壊後の「失われた10年」を経験せざるをえなかった「平成」の時代なのかがはっきりしない。しかし、小林印刷は小さいながらも、下町の町工場としてしっかり生きてきたらしい。したがって、インコ失踪事件(?)はそんな平和な小林家の中に起きた「ほんの小さな出来事」だったが、そのビラを手に、かつて小林印刷に資金援助していた資産家の息子と名乗る花太郎が訪れてくると、次第に事態は変化していくことに・・・。
 落語でも、私の講義・講演でも本題に入る前の「マクラ」や「つかみ」が大切だが、本作のそれがこのインコ捜しのビラ。そこから『冷たい熱帯魚』とある意味で酷似しながら、ある意味で全く異なるストーリーが展開していくが、本作の脚本を書いた深田監督は本作ラストの「まとめ」として、再びインコを登場させた。もっとも、これはあれほど必死に捜していたインコのピーちゃんではなく、夏希が新たに似たようなインコを買ってきたもの。しかして、本作のメインストーリーである「大騒動」が終わり、警察の事情聴取から帰ってきた幹夫が、インコを新たに買ってきた夏希と交わす会話が面白い。それは、「買ってきたインコでいいのかな」と疑問を投げかける幹夫に対して、夏希が「どうせ忘れるわよ」と切り返すものだ。たしかに、このインコが本物のピーちゃんかどうかは、どこまで意味を持つの?さあ、この会話の奥深さを、あなたはいかに受け止める?
                               2011(平成23)年5月17日記