洋11-4

「ウォール・ストリート」
    

                    2011(平成23)年1月11日鑑賞<角川映画試写室>

監督:オリバー・ストーン
ゴードン・ゲッコー(かつてのカリスマ投資家)/マイケル・ダグラス
ジェイコブ・ムーア(投資銀行ケラー・ゼイベル社の若手社員)/シャイア・ラブーフ
ブレトン・ジェームズ(ライバル投資銀行の経営者)/ジョシュ・ブローリン
ウィニー・ゲッコー(ゴードンの娘、ジェイコブの恋人、ジャーナリスト))/キャリー・マリガン
ジュリー・スタインハルト(投資銀行の古老役)/イーライ・ウォラック
シルヴィア・ムーア(ジェイコブの母親)/スーザン・サランドン
ルイス・ゼイベル(投資銀行ケラー・ゼイベル社の経営者)/フランク・ランジェラ
2010年・アメリカ映画・133分
配給/20世紀フォックス映画

<2人にとっての『ウォール街』とは?>
 オリバー・ストーン監督の代表作は共にアカデミー賞監督賞を受賞した『プラトーン』(86年)と『7月4日に生まれて』(89年)だろうが、『ウォール街』(87年)もそれに劣らぬ代表作。他方、マイケル・ダグラスにとっては『危険な情事』(87年)、『ブラック・レイン』(89年)、『氷の微笑』(92年)も良かったが、やはりその代表作はアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ウォール街』。彼にとって『ウォール街』の主人公ゴードン・ゲッコーは一生ついて回る役柄であるとともに、「欲というのは善です」というセリフは今なお生き続けている貴重なものだ。

<「パート2」の企画に大拍手!>
 全世界から絶賛された『ウォール街』が公開された1987年当時、日本は土地、株、ゴルフ会員権が上昇を続け、まさにバブルの絶頂期に至ろうとしていた時代。私が固唾をのんで見守ったNHK特集・緊急リポート・世界の中の日本「土地はだれのものか」が3回に分けて放映されたのが、1987年9月のことだ。
 ところが、①1987年の緊急土地対策要綱②1988年の総合土地対策要綱③1989年12月の土地基本法の制定によって、日本の不動産バブルはあえなく崩壊。その後の金融機関に対する巨額の公的資金の投入にもかかわらず、不良債権の処理が遅れたこともあって、以降ニッポン国は、「失われた10年」を体験することになった。さらに、2008年9月のアメリカ発サブプライムローン問題によって世界同時金融危機が発生し、本来サブプライムローンとはほとんど縁がなかったはずの日本国も2度目の大きな金融危機を受けることになった。
 アメリカにとって、この金融危機は2001年の9.11テロに並ぶ大ショックだったはず。他方、近時のアフガニスタンとイラクにおけるアメリカの影響力の弱体化、東アジア地域における中国の経済成長と軍事強国化の中、アメリカは少しずつ衰退していくのかというシナリオが囁かれているのが実情だ。そんな状況下、再び「ウォール街」のゴードン・ゲッコーを主人公とした映画の企画が進行中だったとは!さすがアメリカの底力はすごい。そんな時代状況を受けての『ウォール街』の「パート2」の企画に大拍手!

<殺人罪でも5年なのに、懲役8年とは?>
 日本ではホリエモンこと堀江貴文が、平成19年3月16日東京地裁で懲役2年6カ月の実刑判決を受けた。その後控訴が棄却され現在上告中だが、堀江の上告が棄却されれば堀江も近い将来、北海道選出の鈴木宗男元衆議院議員と同じように「収監」されることになる。現在保釈中の堀江はAV女優Ninaのプロデューサーとして活躍中だが、さてそれはいつまで続くのやら?
 本作冒頭に映し出されるゴードンの出所時の状況はいかにもわびしい。インサイダー取引を罪体とするゴードンの裁判は5年間続いたが、その結論はゴードンの言葉によれば、「殺人罪でも懲役5年なのに、懲役8年」という重いものだった。そして、ゴードンが出所してきた2001年には、彼を迎えにくる人間は誰もいなかったからさびしい限りだ。
 本作のメインキャストはゴードン・ゲッコーの他、投資銀行ケラー・ゼイベルでバリバリ働いている若手社員のジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ)とその恋人ウィニー・ゲッコー(キャリー・マリガン)の計3人だが、このウィニーはゴードンの実の娘。その娘ですらゴードンの出所の日に迎えに来ていないのは、一体なぜ?それが金融問題の本質を描いた『ウォール街』のパート2である本作のもう1つのテーマだから、それにも注目!

<日本の不動産バブルVSアメリカの不動産バブル>
 去る1月10日の「成人の日」に成人式を迎えたのは、1990年生まれの若者たち。つまり、日本のバブルが崩壊したちょうどその時に生まれた人たちだ。逆にその父親や母親たちは、有名なディスコ「ジュリアナ東京」のお立ち台の上でジュリ扇と呼ばれた羽根付き扇子を振り回して踊っていた、あの当時20代の若者たちだ。私は1999年から2年ごとに4回『実況中継まちづくりの法と政策』1~4をまとめ、不動産バブルから小泉改革に至る流れを都市計画とまちづくりの観点から講義し、それを本にまとめてきたが、なぜ日本は1980年代後半から1990年の時代に不動産バブルを体験したの?また、なぜその軟着陸に失敗したばかりか、その治療にバカ長い時間を要したの?それらはすべての日本人にとって大切な検討テーマ。ところが、勉強不足の日本人はそれを真面目に検討していないのが実情だ。
 バブル崩壊後「攻め」を忘れ、「守り」一辺倒となった日本の金融界はアメリカのサブプライムローンには及び腰だったから、2008年のアメリカが1990年当時の日本をはるかに超える不動産バブル状態となり、それがはじけても本来あまり影響を受けないはずだったが、やはり世界経済の中心たるアメリカが風邪をひくと、たちまち日本も・・・?8年の刑を終えてやっと2001年に出所してきたゴードンが、ある大学の講演会で話すサブプライムローンの問題点やレバレッジ理論(効果)の問題点そして現在アメリカの金融界が抱えている不動産バブルの危機はそれなりに説得力があるが、さてそれに耳を傾ける金融界の人たちは?

<勉強不足の日本人にはちょっと難しい?>
 今ジェイコブが勤務している投資銀行たるケラー・ゼイベルはブレトン・ジェームズ(ジョシュ・ブローリン)が経営するライバル投資銀行による「空売り」によって株価が大暴落中。ケラー・ゼイベル社の経営者であるルイス・ゼイベル(フランク・ランジェラ)はある程度それを予測していたのか、将来を見込んだジェイコブに対して多額のボーナスを支給したうえ、婚約者であるウィニーと早く結婚しまともな仕事につくよう促したが、それってかなり矛盾が多いのでは?そして、結局一株79ドルをつけていたケラー・ゼイベル社の株をわずか3ドルで手放さなければならなくなったルイス・ゼイベルが選んだ道とは?これはある意味で意外だったが、ストーリー展開としてはまさにドンピシャ?
 映画前半は、2001年のゴードンの出所後7年を経た2008年のそんな風にダイナミックに動くアメリカの金融危機直前の状況が描かれるが、ひょっとして勉強不足の日本人にはこれを理解するのはちょっと難しい?

<「パート2」の骨太のストーリーの軸はここに!>
 日本でもアメリカでも証券マンや金融マンの「これは絶対儲かりますよ」という勧誘ほど怪しいものはない。だって、ホントに確実に儲かるのなら、他人を勧誘せずまず自分が買うべきだから。ところがそうは言っても、汗を流して豆腐を作り1個1個販売してもその儲けは知れているが、株の世界、金融の世界、投資の世界では?
 ケラー・ゼイベル社の有望な若手社員であったジェイコブが、今後の成長まちがいなしとして投資を進めていたのは次世代クリーンエネルギーの某会社。ところがケラー・ゼイベル社が事実上倒産し、経営者のルイス・ゼイベルが自殺してしまうと、すべてはジ・エンド。普通はそうだが、本作の設定では、ジェイコブのある仕掛けによって一定の損失を受けたライバル社の経営者ブレトン・ジェームズは寛容にもそんなジェイコブを「わが社の社員」として引き抜いたから立派なものだ。それによって再びジェイコブは投資銀行のやり手としてその能力を発揮していたが、実は影でその師匠となったのが出所してきたばかりのゴードン。さあゴードンの指導よろしきを得たジェイコブは、自殺に追い込まれたケラー・ゼイベル社の経営者であったルイス・ゼイベルの復讐のため、いかなる作戦と行動を?『ウォール街』パート2の骨太のストーリーの軸はここにある。このフォローと理解もかなり難しいが、このストーリーの軸の理解をしっかりと!

<ネットは強し!本作でもそれを痛感!>
 2010年11月頃中国では「私の父親は李剛だ」という言葉がネット上で飛び交い、それによって李剛は失脚することになったが、さてその意味を知っている日本人は?知らない人は自分自身でそれを調べてもらいたいが、2001年にルイス・ゼイベルを自殺に追いやった張本人たるブレトンが2008年にそれと同じような立場に追い込まれたのは、ネットの力によるものだ。非営利ニュースサイトを運営しているジャーナリストの女性が今はジェイコブの妻となっているウィニーだが、なぜウィニーはジェイコブに協力してそんな行動を?本作のサブストーリーは、ゴードンとウィニーとの父娘の確執。それはゴードンが逮捕された後、ウィニーの母親が死亡しさらにウィニーの兄も死んだことによって、より決定的となったようだ。そんな娘との関係修復をもちかけたのが、ジェイコブだ。ここで面白いのは、それが情によるものではなく、利にもとづくものだったということ。そう、ジェイコブはゴードンに対して娘との関係修復に努力する見返りとして、ブレトンに対する復讐への協力と指南役を求めたわけだ。これぞ、渡りに舟。ジェイコブも若手投資家としては相当のやり手だが、ゴードンは8年間の刑務所暮らしまで経験した金融の世界では海千山千の強者だ。さあ、ゴードンはジェイコブに対していかなる作戦を授けるの?そして、それはすべてゴードンとジェイコブとの間のまともな取引?それとも、何らかの出し抜きを狙ったもの?

<もし1億ドルあれば、あなたは何を?>
 2008年のアメリカ発の世界的金融危機の広がり以降、「世界の通貨」としてのドルの価値は下落の一方だが、その一方で、中国の人民元の価値が高まっている。長期的にみれば、今後その傾向はますます強くなるはずだから、もしあなたが円をたくさん持っているのなら、できるだけ人民元に交換しておいた方が有利。そう考えている私は、着々とそれを実行中?それはともかく、本作後半のハラハラドキドキ感は、一文なしになっている(はずの)ゴードンがスイスの銀行に洗浄済みの1億ドルを預金しており、それをジェイコブが進めようとしている次世代クリーンエネルギーの投資に活用すると宣言したところから始まる。1月12日付朝日新聞は、海外の債券や投資ファンドに目を付けた日本の富裕層がそれを購入したことによって発生した利益について税務調査した結果、1年間で計2513件(総額約374億円)の申告漏れがあったことを報じたが、さてゴードンの場合は?
 ドル安・円高の今、1億ドルは100億円足らず、83億円程度だが、もしあなたに1億ドルあれば、あなたはそれを何に?冒険嫌いの日本政府はかつて300兆円を超える郵貯と簡保の資金を日本の国債買いオンリーに「活用」していたが、それを改革しようとしたのが小泉純一郎元総理。あなたがもし1億ドルをタンス預金にしたり日本の国債を買ったのでは、あなたは投資家としての資格も能力もないと言わざるをえない。ジェイコブとウィニーを利用してまんまとスイスの銀行から1億ドルを引き出し、それを資金として投資したゴードンは今どんな生活を?まんまとゴードンにはめられたと覚ったジェイコブが、ゴードンのマンションに駆けつけてみると、そこは今空っぽ。それからわずか1年の間にゴードンが手にした金額とは?これだから株や投資はやめられない。そう思うのが当然。そして、ゴードンの「復活」はお見事。私はそう思うのだが、日本ではなぜ第2のホリエモンが登場してこないの?

<あなたはこの結末をいかに?>
 本作のタイムリーさと問題提起性を大いに評価する私としては星5つの採点が当然だが、残念ながら結果は星4つ。それはラストの予定調和的な大団円に不満があるからだ。バクチは成功すればウハウハだが、逆に失敗すれば大変。それはケラー・ゼイベル社のルイス・ゼイベルが自殺に追い込まれるストーリーをみればよくわかる。また、ケラー・ゼイベル社を追いおとし、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いを見せていたブレトンだって、数年後の没落はホリエモンと瓜二つ?そう考えれば、出所後スイスの銀行に預けていた虎の子の1億ドルを元手として奇跡の復活を果たしたゴードンは立派だが、それだっていつまで続くの?また、ジェイコブがルイス・ゼイベルから教わった教訓は、株屋はまっとうな仕事ではないから、まっとうな仕事につけということだったはず。しかも、結婚後すぐに妊娠した妻のウィニーは、カネ、カネ、カネの毎日に拒絶反応を示すタイプのはずだ。
 本作の前半、中盤、終盤はかなりの迫力で人間と金に焦点をしぼった問題点を提示してくれるが、ラストになるとそれが急に甘くなってくる。だって、ケンカ別れして出ていったウィニーとジェイコブがヨリを戻したうえ、元手の1億ドルを10倍に増やしたゴードンが1億ドルをウィニーに戻すことによって3人(いや、生まれたばかりのかわいい孫を含めると4人)が仲良く暮らしましたとさという設定はあまりに甘すぎるのでは?もっとも、それがストーリーとしてきちんと展開されるわけではなく、字幕とともにそんなシーンが流れてくるだけだが、これはちょっと非現実的では?思わずそう言いたくなってくる。そんな結末に不満があるため、私の採点は星4つに・・・。   
                               2011(平成23)年1月12日記