洋11-33
「ブルーバレンタイン」 ![]()
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2011(平成23)年3月10日鑑賞<東映試写室>
監督・共同脚本:デレク・シアンフランス
ディーン(夫、ペンキ塗り)/ライアン・ゴズリング
シンディ(妻、看護師)/ミシェル・ウィリアムズ
フランキー(一人娘)/フェイス・ウラディカ
ボビー(シンディの昔の彼氏)/マイク・ヴォーゲル
2010年・アメリカ映画・112分
配給/クロックワークス
<夫婦はやっぱり似た者同士が一番?それとも・・・?>
芸能界では勝新太郎と中村玉緒、津川雅彦と浅丘雪路のような仲良し状態が長く続く(続いた)「おしどり夫婦」もあるが、それは例外。どちらかというと、ラブラブ状態が長く続かず破綻する夫婦の方が多い。ちなみに、阪田三吉と小春の夫婦愛は小説、映画、歌の『王将』で有名だが、これは典型的な破綻型亭主と尽くし型女房の恋物語。しかして、夫婦仲はこのような両極端の方がいいの?それとも、やっぱり似た者同士の方がいいの?
<この夫婦の場合は?>
そんな観点で本作の夫ディーン(ライアン・ゴズリング)と妻のシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)をみると、2人の人生観、仕事観、家族観、経済観などは両極端。元医学生で今は看護師として忙しく働いているシンディは努力型で、上昇志向の性格。他方、現在ペンキ塗りの仕事をしているディーンは、収入は少なくても朝からビールを飲みながらでもできる仕事としてそれに十分満足していることからわかるように、今を楽しく生きればそれで十分という人生観の持ち主だ。2人には一人娘のフランキー(フェイス・ウラディカ)がいるが、忙しいシンディに比べて娘との時間をたっぷりとることができるディーンは心から娘を愛しているから、これはこれで一種の理想的な夫婦?ところが、家族が愛していた飼い犬が事故死したところから、2人の価値観の相違が次第に顕著に・・・。
<なるほど、こんなラブホテルの活用法が・・・>
デレク・シアンフランス監督が11年間も練りに練ったという脚本は実に面白い。飼い犬を失った悲しみを忘れるためのディーンの提案は、このところすっかり「あの方面」にご無沙汰だったこともあり、町から離れたラブホテルへ2人で行き、酒を飲んで騒ぎエッチをしてその悲しみを忘れようというものだった。夫婦間の性生活が無くなっていたのは、第1にシンディが忙しいこと、第2に生き方の問題に触れる話になるといつもケンカになってしまうためだから、ディーンのこんな提案はシンディにしてみれば論外。しかし、逆にそれを拒否すると・・・?
さあ、本作が描くラブホテルでの2人の過ごし方は?
<アメリカでは、20人くらいはごく普通?>
「ある有名女子高生の性の実態!」週刊誌にはそんな刺激的なタイトルが踊るが、さすがに60歳を超えるとそんな記事にはトンと興味がなくなった。しかし、人工妊娠中絶を決意して病室に入ったシンディが過去の男性経験を聞かれ、「20人くらい・・・」と答えたことにビックリ。シンディがそんな決心をせざるをえなくなったのは、ボーイフレンドだったボビー(マイク・ヴォーゲル)との性交渉の際、ボビーが避妊することを面倒がった結果望まぬ妊娠をしてしまったためだが、医学生として真面目に勉学に励んでいたシンディでも男性経験が約20人とは・・・。もっとも、今の日本の女子中学生や女子高生はもっと多いかもしれないから、性の乱れは米日共通・・・?
そういう捉え方もあるが、シンディがたくさんのボーイフレンドとセックスフレンドだけの関係から越えられなかったのは、一種男性不信から。さらに、シンディがそんな男性観をもつようになったことには何らかの家庭的事情も・・・?
<あの夫婦ゲンカもすごかったが・・・>
語学の学習は「I Love You」から。そう考えると、今まずあなたが覚えるべきは中国語の「我愛你」・・・。そんな「我愛你」をタイトルにした映画が、中国第6世代監督の旗手、張元(チャン・ユアン)が監督、共同脚本、製作し、中国四大女優の1人徐静蕾(シュー・ジンレイ)が主演した『我愛你(ウォ・アイ・ニー)』(03年)。もっとも、この中国映画はそんなタイトルとは裏腹の夫婦ゲンカがテーマで、中国四大女優の中でもっとも知的な女優であるはずの徐静蕾が、とにかく夫婦ゲンカでわめきちらす熱演に体あたり(『シネマルーム17』345頁参照)。なぜここでそんなことを書くのかというと、それは本作において徐々にエスカレートしていくディーンとシンディの夫婦ゲンカぶりをみている間に、思わずこの中国映画を思い出したためだ。
本作のハイライトは、何といってもラブホテル内で展開される2人のバトル。2人のケンカの発端は、買い物のために途中立ち寄ったスーパーで、シンディが偶然昔のボーイフレンドだったボビーに出会ったことを車の中でディーンにしゃべったこと。男は繊細な動物(?)だから、ディーンはシンディのそんな報告(?)にいかに反応?まずは、ここに見る2人の会話によるバトルに注目したい。もっとも、アメリカ人は気分の切り換えが早いのか、シンディはラブホテルの中に入ると、まずはシャワー、そして大量の酒を飲みながらディーンがガンガン鳴らす音楽にあわせて踊っていたが、良い雰囲気になってきたところでディーンがシンディに対してセックスを求めてきたから、そこでまた一悶着が。ディーンにしてみればそれが目的(?)だから、この期に及んでそれを拒否されたのではたまらない。半ば強引にセックスを求めるが、それ以上いくといくら夫婦でも今はやりのドメスティックバイオレンス(DV)に?しかして事態は最悪な結果になるのだが、さてあなたが想像しうる最悪の結果とは?
<一目ボレから一直線、更にここまで。すると女は?>
本作の夫婦ゲンカぶりは『我愛你(ウォ・アイ・ニー)』のそれにヒケをとらないが、本作が面白いのは、それと対比するかのように2人が出会い、恋に落ちていく様子がビビッドに描かれること。ディーンがシンディにはじめて出会ったのは、ディーンが引越屋のバイトをしている時。そこでなぜかディーンはシンディに対して一目ボレとなってしまったようだから、男女の出会いは面白い。
シンディが何人もの男友達とセックス関係にありながら心を許す相手に恵まれなかったのはいろいろな理由があるが、一目ボレした後のディーンの一直線ぶりはそりゃ立派なもの。ここまでアタックされたら並の女なら誰でもなびくはずだ。しかもディーンの場合は、経済的には頼りないもののジョークに富みユーモアにあふれていたから、じっくりつき合ってみるとこりゃ結構魅力的な男?本作が描く夫婦ゲンカの極限状態はきわめて惨めだが、逆に恋に落ちた2人の幸せの絶頂時の描き方はすばらしい。
ところで、自分が心から愛する女が妊娠していたことが判明。しかも、その父親は自分ではなく、以前のボーイフレンドらしい。猛烈にアタックしてやっと心を開いてくれた女からそんな「告白」を受けたら、さてあなたならどうする?なるほどそうだったのか・・・。そこまで男が自分のために尽くしてくれるとわかれば、やっぱり女は?今までずっとディーンは心の底からシンディと娘のフランキーを愛してきたし、夫婦ゲンカ状態にあってもそれはいささかも変わらないらしい。
<あれが最悪と思ったが、さらなる最悪が・・・>
去る3月11日に発生した東日本大震災から1週間が経過した。津波の被害も想定外らしいが、福島原発の損傷によって毎日続いている冷却作業は予断を許さない状況になっており、これまた想定外。人間はすぐ「最悪の事態は・・・」と言うが、あれが最悪だと思っていても、実はさらなる最悪の事態も・・・。
本作にはそれと同じように、ラブホテル内での夫婦ゲンカが最悪だと思っていたのに、その翌日には目を覚ましたディーンがシンディの病院におしかけ、シンディとの「話し合い」を望んだ(強要した)から大変。もはや夫婦ゲンカは2人だけのものではなく、病院を巻き込んだ社会的なものに変質してしまうことに・・・。そんな事態に直面すれば誰だって「とりあえず病院内での夫婦ゲンカは中止し、家でゆっくりやってくれ」と言いたくなるはず。したがってシンディを引き立ててくれていたドクターが2人の間に割って入り、そのようにアドバイスしたのは当然だが、それに対するディーンの対応は?ディーンのように惚れた女に一直線のタイプは、他のことでもこうと思いついたら周りが見えなくなる傾向が強い。しかして、そこで起きた事態はまさに最悪。さあ、コトここに至ってシンディが下した決断とは?
それにしても、あんなにラブラブの絶頂期にあった2人がこんな最悪の状態を迎えようとは・・・。デレク・シアンフランス監督が描く、その天国と地獄のサマにいたく感心!
2011(平成23)年3月18日記