洋11-25
「ザ・ファイター」 ![]()
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2011(平成23)年2月25日鑑賞<GAGA試写室>
監督:デヴィッド・O・ラッセル
ミッキー・ウォード/マーク・ウォールバーグ
ディッキー・エクランド(ミッキーの兄)/クリスチャン・ベール
シャーリーン・フレミング(ミッキーの恋人)/エイミー・アダムス
アリス・ウォード(ミッキーとディッキーの母親)/メリッサ・レオ
ジョージ・ウォード(ミッキーの父親)/ジャック・マクギー
2010年・アメリカ映画・116分
配給/ギャガ
<ボクシングモノにはずれなし!>
「潜水艦モノにはずれなし」とともに、「ボクシングモノにはずれなし」が私の持論。私がそんな持論を持つに至ったのは、『ロッキー』シリーズ(1~5)や『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)(『シネマルーム8』212頁参照)はもちろん、『シンデレラマン』(05年)を観たときから(『シネマルーム8』218頁参照)。
それは邦画でも同じで、近時くだらない作品が増えている邦画の中にあって、山下智久と伊勢谷友介の肉体が激突した曽利文彦監督の『あしたのジョー』(11年)は感動モノだった。そんな「格言」を本作で再確認!
<アカデミー賞の行方は?>
夫婦愛と家族愛をテーマにした『シンデレラマン』は1920~30年代のアメリカ実在のボクサー、ジム・ブラドックを描いたが、兄弟愛と家族愛をテーマとした本作が描くのは1990年代から2000年代にかけて実在したボクサー、ミッキー・ウォード(マーク・ウォールバーグ)。
ミッキーの兄ディッキー・エクランドを演じたクリスチャン・ベールがアカデミー賞助演男優賞に、そしてミッキーの恋人シャーリーン・フレミング役のエイミー・アダムス、ミッキーとディッキーの母親アリス・ウォード役のメリッサ・レオがいずれも同助演女優賞にノミネートされたにもかかわらず、ミッキーを演じたマーク・ウォールバーグだけがノミネートされなかったのは少しかわいそう。しかし、マーク・ウォールバーグもなかなか兄離れと母親離れができず、恋人のシャーリーンにつくべきかどうかを悩みながら試合を続ける孤高のボクサー(?)ミッキーを、見事に演じている。
ボクシングの試合の迫力も相当なものだが、演技力抜群の俳優陣たちが描くけったいな兄弟愛と家族愛(?)の姿は絶品!さて、作品賞、監督賞を含む今年のアカデミー賞の行方は?その発表は来週2月28日だ。
<肉体改造は?減量は?その他は?>
『あしたのジョー』で力石役を演じた伊勢谷友介が、人間の限界をはるかに超える減量の試練を経て、試合前の計量に臨むシーンには多くの人が一瞬息を飲んだはず。あれはCGだという人もいたがそうではなく、あれはホンモノの肉体改造らしい。そう考えると、ボクシング映画に出演する俳優は大変だ。
本来は助演なのだが本作で主役以上に目立ってしまうのは、伝説的ボクサー、シュガー・レイからダウンを奪ったこともある、自身も天才肌のボクサーながら性格破綻者的な面をもつ兄のディッキーを演ずるクリスチャン・ベール。彼は『マシニスト』(04年)では28kgも減量して骨と皮だけのガリガリの肉体をみせ(『シネマルーム7』382頁参照)、続く『バットマン ビギンズ』(05年)では逆に30kgも体重を増やして堂々たる「バットマン」ぶりを見せてくれた(『シネマルーム8』127頁参照)。そんな彼が、本作では13kgの減量でドラッグや女にだらしない男ディッキーを快演している。もっとも、本作における彼の肉体改造で注目すべきはそんな減量以上に髪の毛と歯だが、それはあなた自身の目でしっかりと。
他方、本作の製作も兼ねたミッキー役のマーク・ウォールバーグは、何年もかけてボクサーの身体をつくりあげるべく肉体改造をしたらしい。マネージャー役の母親アリスやトレーナー役のディッキーとの縁を切り、新たなスタッフで快進撃を始めたミッキーが強敵に臨む記者会見でみせるプロボクサーらしい肉体美は、相当なものだ。『シンデレラマン』でみせたラッセル・クロウの肉体美はヘビー級のものだったが、ボクシング映画では肉体改造や減量が不可欠。『あしたのジョー』とも比較しながら、そこらあたりのボクシング映画特有の面白味をしっかりと確認したい。
<この左ボディは?井岡の左ボディを彷彿!>
2010年12月26日、『ダブル世界タイトル戦』が開催された。その1つ、WBA世界バンタム級王座決定戦で、同級2位だった亀田三兄弟の長男・亀田興毅が5位のアレクサンデル・ムニョスを破って新チャンピオンになったのは、亀田ファミリーへの大いなる逆境の中、立派なもの。これに対して、プロ7戦目にしてWBCミニマム級世界チャンピオン、オーレドン・シッサマーチャイへの挑戦権をつかんだ井岡一翔は、這い上がりの亀田三兄弟とは好対照のサラブレッド。私はどうせ無理だろうと思いながらテレビでこの試合を最初からつぶさに見ていたが、予想に反して第1ラウンドから互角の闘いをくり広げたうえ、2回には何とチャンピオンからダウンを奪ったからビックリ。そして、運命の第5ラウンド。井岡の左ボディがチャンピオンの右脇腹に炸裂。この1発でチャンピオンはダウンし、井岡は勝利。チャンピオンベルトを巻くことになった。この井岡の左ボディは、後からスローモーションで確認しなければ何が起こったかわからないくらいのスピードだったが、ミッキーがウェルター級世界チャンピオンへの挑戦権をつかんだのも、メキシコの若手有望選手サンチェスを左ボディ1発でしとめたためだ。
サンチェスの猛攻の前にミッキーは第1ラウンドからロープに詰まらされ、サンドバッグ状態にされていた。そんな中、兄ディッキーが弟ミッキーに授けていた作戦は、ヘッド・アンド・ボディ。つまり、ディッキーはミッキーの左ボディが必殺だと知っていたわけだ。ミッキーがサンチェスに見舞った左ボディは、一方は重さ、他方はスピードという違いはあるものの、まさに井岡が前チャンピオンに見舞った左ボディを彷彿。
<ボクサーにはトレーナーがポイント!>
『ロッキー』におけるミッキーをみても、亀田三兄弟における父親・亀田史郎をみても、あるいは『あしたのジョー』における丹下段平をみても、ボクサーにとってトレーナーがいかに重要かがわかる。ところが、本作前半にみるトレーナーたるディッキーやマネージャーたる母親アリスのやり方はハチャメチャ。試合直前に対戦相手が変更されたのに、試合をキャンセルすると金が入ってこないことを理由に、体重差も考えずにリングに立たされボコボコにされたミッキーはえらい迷惑!
さらに、次の試合の金を準備するについて、ディッキーが平気で犯罪行為を働くに至っては言語道断。しかも、ディッキーが警察に逮捕されている様子をみて止めに入ったミッキーは、その巻き添えで大切な右こぶしをつぶされたから、こりゃディッキーこそミッキーの疫病神?
<ミッキーはどちら側に?>
そんな風に兄や母親に振り回されてばかりのミッキーが、今はバーで働いているもののしっかりした人生観を持ち、心からミッキーのことを心配してくれる気の強い女シャーリーンに惹かれていったのは当然。ミッキーとディッキーは父親違いの兄弟だが、ミッキーの父親ジョージ・ウォード(ジャック・マクギー)の尽力もあって新たなミッキーのトレーナーとマネージャーが結成されたのは、ディッキーが刑務所に入っている時。しかし、これによってミッキーの快進撃が始まったのだから皮肉なものだ。
ディッキーが刑務所の中からミッキーを応援し、出所した時のためにトレーニングを怠らなかったのは立派だが、いざディッキーが出所し、当然のようにミッキーのスパーリングの相手をしようとしたら・・・?ここで発生した問題が、世間によくある話でミッキーはどちら側につくの?ということ。ミッキーにとってはもちろん、兄も母もそして口うるさいたくさんの姉妹たちも大切だが、今はやっぱり恋人のシャーリーンの方が?
<この和解工作はお見事!>
日中戦争の時代、それまで犬猿の仲だった国民党と共産党は、共通の敵日本帝国主義と戦うため、「国共合作」という大英断を下した。また、サンフランシスコ講和条約成立から数年後の1955(昭和30)年、自由党と日本民主党は「保守合同」を断行し、自由民主党を誕生させた。毛沢東は「敵の敵は味方」と説いたが、サンチェスとの試合に勝利したことによって次は世界タイトルマッチに臨もうとしているミッキーにとっては、ディッキー+母親連合軍とシャーリーン+新トレーナー、マネージャー連合軍が対立し、互いにミッキーを自分の陣営にひきずりこもうとしているのは迷惑千万な話。ミッキーが世界チャンピオンと闘うには、この両者の「国共合作」「保守合同」が不可欠なことは誰の目にも明らかだ。
現在日本国では2012年度予算の成立、予算関連法案の成立という大事を控えながら、民主党と自公両党が対立の様相を深めているが、その最大の原因は菅直人総理の政治家としての資質(の無さ)にある。しかして、刑務所から出てきたばかりのディッキーが、ここでみせる一世一代の和解工作とは?ディッキーはシャブ中で性格破綻者だったのでは?そんな疑問がないでもないが、やはり一流の男は、やるときはやるもの。本作にみるディッキーの和解工作は、まさにお見事!そんな世紀の和解が成立し、みんなが心を一つに合わせて頑張れば、相手が最強の世界チャンピオンだって・・・。
2011(平成23)年2月26日記