洋11-1

「バーレスク」
    

                   2011(平成23)年1月2日鑑賞<TOHOシネマズ梅田>

監督:スティーブン・アンティン
アリ・ローズ(バーレスクの看板スター)/クリスティーナ・アギレラ
テス(バーレスクの経営者、伝説のスター)/シェール
ニッキ(バーレスクの看板スター)/クリスティン・ベル
ショーン(バーレスクの舞台主任)/スタンリー・トゥッチ
ヴィンス(テスの元夫で共同経営者)/ピーター・ギャラガー
ジョージア(妊娠したダンサー)/ジュリアン・ハフ
ジャック(バーテンダー、ミュージシャン)/カム・ジガンデー
マーカス(敏腕ディベロッパー)/エリック・デイン
2010年・アメリカ映画・118分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

<サクセスストーリーには、このガッツが!>
 プロレス界では「燃える闘魂」ことアントニオ猪木のガッツが有名だが、プロ野球では読売巨人軍の小笠原道大内野手が「ガッツ」と呼ばれている。また、米国の大リーグで10年間も連続して偉大なる実績を残したイチローはあまりガッツを表に出さないが、あれだけの成功を収めるには凡人の数倍、数十倍の秘めたるガッツを持っているのは当然だ。そんな目で本作を観ると、アメリカンドリームの実現や競争社会アメリカにおけるサクセスストーリーの実現のためには、もって生まれた才能はもちろんだが、何よりもガッツが大切なことがよくわかる。
 本作でエンタテインメント・クラブ「バーレスク」におけるサクセスストーリーを実現させたアリを演じたのは、現役のスーパースターであるクリスティーナ・アギレラ。アイオアの片隅のバーでウェイトレスとして働くアリが映画冒頭にみせるダンスとその歌声にまず圧倒させられるが、広いアメリカにはこんなハイレベルのダンサー志望の女がゴロゴロ?それはともかく、片道切符だけを買い、たった1人でロサンゼルスへ乗り込み、成功を目指して行動する彼女のガッツに感心!私は『フラッシュダンス』(83年)が大好きで、カラオケでも挑戦したことがあるが、あの歌を歌い切るのは私には到底ムリ。しかし、本作のアリならそれを歌いあげるのは簡単なはずだ。『フラッシュダンス』でもジェニファー・ビールスがものすごいガッツを見せてくれたが、さて本作で見るアリのガッツは?

<才能を見抜く側の能力は?>
 今年のプロ野球界は早稲田大学を卒業し、日本ハムへの入団が決まった「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹投手の話題で持ちきりだが、既に大学野球での実績をもった才能ある選手がプロに入ってある程度の実績を残すのはある意味当然だ。しかし、大きな期待を背負ってプロ入りしても全く成功せず、次第に忘れ去られた存在となり消えてしまった選手も多い。1981年の外れドラフト1位として指名されながら一度も一軍にあがることのなかった源五郎丸投手など阪神タイガースにはその傾向が強いが、それはスカウトをはじめとする才能を見抜く側の能力のせい?その点広島カープはもともと資金力がないためか、無名の高卒選手を一から鍛えあげて一流選手に育てあげる傾向が強いが、それは才能を見抜く側の能力のおかげ?そんな目で本作を見ると、本作のキーウーマンはまちがいなく、バーレスクの経営者であると同時に自分自身が伝説の大スターでもあるテス(シェール)。
 舞台主任のショーン(スタンリー・トゥッチ)やテスの別れた夫ながら今なお共同経営をしているヴィンス(ピーター・ギャラガー)、そして、もう1人の看板スターであるダンサー、ニッキ(クリスティン・ベル)が「バーレスク」の幹部だが、経営者とスターを兼ねるのがいかに大変かは本作を観ているとよくわかる。何よりも時間的に忙しいから、アリがテスに対してオーディションの機会を求めても、それはなかなか無理。しかし、持ち前のガッツでバーレスクのバーテンダーであるジャック(カム・ジガンデー)と知り合ったアリは、いつのまにかちゃっかりウェイトレスとして勤務していたからさすが。
 さらに、妊娠したダンサーのジョージア(ジュリアン・ハフ)に代わってバックダンサーも務めていたアリは、遅刻が多くアルコールの匂いが消えないニッキの代役としてある日舞台に登場した時、すばらしい才能を発揮!人間は誰でもピンチを迎えることがあるものだが、ニッキのある意地悪によってピンチに陥ったアリがとっさに見せた才能とは?この瞬間に見せた、テスの人間の才能を見抜く力に脱帽だ。自分の才能を信じる必要があるのは当然だが、同時に他人の才能を見抜く能力も大切なことを痛感!

<バーレスクVSムーラン・ルージュ>
 戦後日本は急速にアメリカナイズされていったが、何かと上品な(?)日本では、バーレスクのように酒を飲みながらド派手な音楽と超セクシーなダンスを楽しむところまではなかなかいかなかった。せいぜい、ダンスホールやキャバレーで生のバンド演奏や歌手の歌を楽しむのが精一杯?これでは、日本ではいわゆるショービジネスというものが、なかなか根づかなかったわけだ。
 しかし、現在のアメリカでバーレスクのような店がはやっているのなら、フランスには少し時代が違うがカンカンダンスで有名なムーラン・ルージュがある。本作では、アリがはじめてバーレスクに入ろうとした時、「ここはストリップショーのお店?」と聞くシーンが登場するが、なるほど芸術と猥褻との線引きは難しい。ムーラン・ルージュがパリで流行したのは1890年代だが、その楽しさは1900年のパリにおける「ムーラン・ルージュ」を舞台とした、二コール・キッドマン主演のミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』(01年)を観ればよくわかる。ムーラン・ルージュは、舞台、キャバレー、ダンスホール、売春宿などを兼ねた一大歓楽施設だったらしい。日本人なら誰だって、踊り子がスカートをめくり、足をあげて踊るカンカン踊りをはじめて見ればビックリするはずだ。
 『ムーラン・ルージュ』ではニコ-ル・キッドマンが自ら歌い踊ったそうだが、その歌声は予想以上にすばらしかった(『シネマルーム1』17頁参照)。しかし、本作でアリに扮するクリスティーナ・アギレラの歌声の迫力と歌唱力にはただただ脱帽。彼女の歌を聴きダンスを見ていると、今をときめく「AKB48」の歌やダンスが小学生の学芸会のように、そしてまた大晦日の紅白歌合戦でみたプロ歌手たちのショーですら大学生レベルのように思えてきたが、それってホントだから仕方なし・・・?

<芸術性と商業性(もうけ)は両立せず?>
 2010年の映画界の興行収入は順調で、2009年のそれをアップするようだ。しかし、それは『アバター』(09年)(『シネマルーム24』10頁参照)などの大ヒット作が登場したおかげで、単館系は相変わらず苦戦している。また、邦画が順調だったが、それも『SP 野望篇』(10年)や『THE LAST MESSAGE 海猿』(10年)など一部の作品が大ヒットしたおかげで、要するに芸術性と商業性(もうけ)は両立しないのが実情だ。それはアメリカのショービジネスも同じだということが、これほど良心的に芸術を提供している「バーレスク」が大赤字で、2カ月以内に借金を返済しないと店を手放さざるをえないという経営状況を見ればよくわかる。
 アリは店の経営については芸術家特有の「何とかなるさ」という楽観主義者(?)だが、店の経営状況の現実をしっかり直視しているのがヴィンス。そして、その両者に理解を示しているのがテスだ。他方、バーレスクがそんな経営状態にあることを知って、互いにウィンウィンの関係でバーレスクを買収しようと画策しているのが敏腕ディベロッパーのマーカス(エリック・デイン)だ。ニコール・キッドマン主演の『ムーラン・ルージュ』は社会問題提起性ゼロのミュージカル恋愛劇だったが、本作は芸術性と商業性(もうけ)の両立についての問題提起もいっぱいある。弁護士としての私の目からみれば、テスの経営者としての手腕はゼロに近いと言わざるをえないが、債務の支払いが遂に2日後に迫った時のテスの対応は?今やバーレスクの看板スターになっているアリもマーカスの誘惑(?)に乗りそうだし、このままではまちがいなくバーレスクは倒産。すると、マーカスの手によって、バーレスクは新たな展開へ・・・?

<意外とステディな恋物語もじっくりと!>
 日本は平和で安全な国だが、アメリカ、特にその大都会は物騒。ロスのホテルに入ったアリが有り金をどこに隠しておこうかと算段する姿や、滞在数日にしてホテルの部屋が泥棒によって荒らされてしまった姿を見ていると、それがよくわかる。もっとも、そんな理由でアリが一晩だけジャックの部屋に転がり込んだため、その後の「ルームシェア」が実現し2人の恋物語が展開していくのだから、何が不幸で何が幸せかの判断は難しい。
 同じ職場で働き、同じ部屋に戻ってくる、親切心だけで結ばれた男女の仲、という本作の恋愛劇の設定は面白い。アメリカ人の男は肉食系だから、一つ屋根の下に男女が一緒になればすぐにベッドインと私は予想したが、本作では意外とステディな2人の関係が続いていく。そのポイントはジャックには婚約者がいたことだが、さてルームシェアしながら清らかな関係を続けていく2人の恋物語の展開は?それは、あなた自身の目でじっくりと。

<都市問題の専門家必見!空中権とは?眺望権とは?>
 私は1984年に大阪駅前再開発問題研究会に参加して以来ずっと都市問題をライフワークとしてきたが、そんな視点からは本作は都市問題の専門家必見の映画だ。テスにとってアリはバーレスクの看板スターとして大切な存在だが、アリがバーレスクに残るのかそれともマーカスの誘惑に負けてマーカス路線に乗っかっていくのかは、あくまでアリの決断。他方、いくらアリが看板スターとなってバーレスクの客入りがよくなり日々の収支が改善したとしても、多額の借金を考えればそれは所詮焼け石に水。しかも、新たにバーレスクやテスに融資してくれる銀行はどこにもないから、もはやバーレスクの倒産は必至。そんな中でも最後になるかもしれない明日のステージのためにリハーサルに励むテスは立派だが、それはあくまでアーティストとしての評価であって、経営者としては失格だ。そんな中でラストに訪れる、あっと驚く展開とは?
 そのキーワードは空中権と眺望権。私は昨年秋から『眺望・景観紛争をめぐる法と政策の新局面』(仮題)の執筆に懸命にとり組んだが、眺望や景観をどう評価すべきかはきわめて難しい問題だ。また日本でも1980年代後半の不動産バブルの時代にはさかんに空中権の議論が展開されたが、バブル崩壊の今、それは完全にストップしている。しかし、不動産開発を手がけ、今やディベロッパーとして大成功を収めているマーカスの狙いとは?なるほど、眺望権の価値とはすごいものだ。そして空中権とは何ともすごい権利だ。マーカスとのデートの中で空中権や眺望権についての「ある情報」を得たアリの以降の行動とは?こりゃ、都市計画の専門家は必見だ!
                               2011(平成23)年1月5日記