洋11-16
「台北の朝、僕は恋をする」 ![]()
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2011(平成23)年2月3日鑑賞<GAGA試写室>
監督・脚本:陳駿霖(アーヴィン・チェン)
小凱(カイ)(台北に住む若者)/姚淳耀(ジャック・ヤオ)
スージー(本屋の店員)/郭采潔(アンバー・クォ)
基永(チーヨン)(刑事)/張孝全(ジョセフ・チャン)
阿洪(ホン)(小混混三人組のボス)/柯宇綸(クー・ユールン)
豹哥(パオ)(町の有力者、不動産屋)/高凌風(カオ・リンフェン)
カオ(小凱の親友)/姜康哲(ポール・チャン)
2010年・台湾、アメリカ映画・85分
配給/アミューズソフト、ショウゲート
<台湾的二都物語のポイントは?>
チャールズ・ディケンズの名作『二都物語』はロンドンとパリが舞台だが、第60回ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した新鋭アーヴィン・チェン監督の本作は、パリと台北の「ニ都物語」。と言っても、本作の主人公カイ(ジャック・ヤオ)の恋人が一人旅立ってしまったパリはイメージの中で登場するだけで、実際には登場しない。本作が描くのは、ロマンティックで美しいイメージを持ったパリに憧れ離れてしまった恋人を想うのも悪くはないが、カイの日常がある台北だって、そしてカイのすぐ目の前にいる本屋の店員スージー(アンバー・クォ)だって、よく見れば「魅力的じゃん!」。そういうことだ。広さ約105.4k㎡、人口約219万人のパリ市に対して、台北市は広さ約272k㎡、人口約261万人。これに対して東京都の23区合計は広さ約621k㎡、人口約884万人だからバカでかい。やっぱり、台北くらいの規模の方が人間が生活するにはベター?
<若者たちの疾走感を実感!>
本作は、町の有力者で不動産屋だが、ちょっと得体の知れないおっさんパオ(カオ・リンフェン)、その甥っ子ながら「小混混三人組」のボスであるホン(クー・ユールン)が登場し、カイが預かった「小包」をめぐってちょっとしたストーリーが展開する。そこに麻薬取引の情報を聞きつけた刑事のチーヨン(ジョセフ・チャン)が乗り出し、捕り物劇(?)が展開されるから、麻薬密売をめぐるミステリーと言えなくもない。しかし、多分それはウラのストーリーと考えた方が適切で、本作はあくまでカイの視点からみる台北のまちの魅力と、目の前にいる女性スージーの魅力を再確認するための映画。
台北のまちの魅力は映画中盤カイとスージーが刑事チーヨンの追及から逃れる中で紹介されていくが、第1に目立つのは繁華街(夜市)のにぎやかさと人通りの多さ。これは私も1度体験したが、これを見ると中国本土の広さと台湾の狭さの対比を実感できることまちがいなしだ。その他、公園でのダンス風景やちょっとはずれにあるラブホテルなどはおなじみの風景(?)だが、私はカイとスージーが逃げ込んだ地下鉄の明るさと美しさにビックリ。85分という上映時間は最近では珍しいが、短いからこそ実現できた新鋭アーヴィン・チェン監督が描く若者たちの「疾走感」を実感したい。
<韓流は美男美女だが、台流は?>
近時『天安門、恋人たち』(06年)に続いて『スプリング・フィーバー』(09年)という問題作を発表した中国のロウ・イエ監督の『ふたりの人魚』(00年)は、蘇州を舞台とした不思議な雰囲気の映画だった。その主演女優が美美と牡丹の1人2役を演じた周迅(ジョウ・シュン)。1976年生まれの彼女も既に34歳。章子怡(チャン・ツィイー)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、徐静蕾(シュー・ジンレイ)と並ぶ中国四大女優(四小名旦)の1人である周迅は、その初期の作品『始皇帝暗殺』(98年)、『ふたりの人魚』『ハリウッド★ホンコン』(01年)、『小さな中国のお針子』(02年)で実に強い印象を残した。この『ふたりの人魚』の周迅と同じような存在感を本作で示すのが、スージー役を演じたアンバー・クォ。プレスシートによると、1986年生まれの彼女は歌手としても人気が高く、「夢の恋人」と形容される愛くるしい魅力で台湾国内で9社ものCM契約をしている国民的スターらしい。しかして、さてその魅力は?
他方、韓流ドラマでは必ず美男美女の登場と相場が決まっているが、本作の主人公カイの顔はどちらかというと猿顔で、私には全然ハンサムに見えない。また「小混混三人組」のボスであるホンの顔はえらくのっぺらぼうだし、カイの親友カオ(ポール・チャン)はやたら体格がデカく動作が鈍そうだから、間抜けてそうに見えてしまう。個性的といえばたしかにそうだが、これでは「美男」度において台流は明らかに韓流よりも劣勢?
<おしゃれな結末は、おしゃれな感覚から!>
アーヴィン・チェン監督は07年に初監督した短編『MEI 美』でベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞・審査員賞を受賞したアメリカ育ちの台湾人で、01年からエドワード・ヤン監督に師事したとのこと。「内向き志向」を強めている日本人と違って、中国人も台湾人も昔から「外向き志向」だから、台北のまちを台北の中から見るのではなく、アメリカ的な感覚やパリとの対比で見ることができるようだ。プレスシート冒頭の「監督の言葉」には次のように書かれている。すなわち、「この映画のアイデアは数年前に台北で撮影しているときの会話から思いつきました。二人とも外国で育った編集のジャスティンと私が電車に乗り、霞んだ台北の街を窓から眺めていた時、彼が振り向いて話しかけてきたんです。『なあ、台北ってパリを思い出すな』と」。なるほど、映画づくりにはそんな感性が大切なわけだ。本作は、映画冒頭パリに旅立つべくタクシーに乗った恋人をカイが見送るところからスタートする。そして、映画のラストは「激動の事件」が終結を迎え、いよいよパリに旅立つことになったカイをあの時と同じ場所で、スージーが見送るシーンになる。すると、本作はひょっとして悲劇?いや、それではダメ!やっぱり、こんな若者映画はおしゃれな結末にしなければ・・・。そんなおしゃれな結末は、外向き志向で外国育ちの監督のおしゃれな感覚から!
<この撮影(方法)にも注目!>
映画はストーリーも大切だが、映像の芸術だからどんな撮影(方法)でどんな映像をつくり出すかも大きなポイントだ。最近の邦画はどれもこれも明るくてキレイな映像ばかりだが、海外の個性的な「映像作家」たちはあえて暗い映像やざらついた映像にしたり、更にはカラーにせず今ドキ時代遅れの白黒にすることも。大阪の北新地もそうだが、東京の新宿や渋谷などの繁華街は夜が似合う。朝早くそんな道を自転車で通ったりすると、ゴミが積み上げられただけの何とも空虚で寒々しいまちだが、その分夜の華やかさが一級品。
プレスシートによると、本作の撮影日数は34日間だが、「夜の台北が舞台であるために、日暮れから日の出までのすべてが撮影に費やされた」らしい。旅行が大好きな私は旅行のたびに一眼レフのデジカメで100~200枚の写真を撮っているが、その時に難しいのが夜の観光での撮影。太陽光が明るい昼間は自然に美しい写真が撮れるが、カメラに付いているストロボ程度では夜間の繁華街でキレイな写真を撮るのはまずムリ。ところが、本作を観ているとその明るさにビックリ!現実には、公園でのダンス風景だってあんなに明るくはないだろうし、華やかな夜市だってあんなにすべてが明るいわけではないはずだ。すると、あの地下鉄の駅の中の美しさも、ひょっとして撮影技術のおかげ?本作では、台北のまちをきわめて魅力的にみせているそんな撮影(方法)にも注目!
2011(平成23)年2月5日記