洋11-15
「トゥルー・グリット」 ![]()
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2011(平成23)年2月3日鑑賞<GAGA試写室>
監督:ジョエル&イーサン・コーエン(コーエン兄弟)
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
原作:チャールズ・ポーティス『トゥルー・グリット』(早川書房刊)
ルースター・コグバーン(連邦保安官)/ジェフ・ブリッジス
ラビーフ(テキサス・レンジャー)/マット・デイモン
マティ・ロス(牧場主の娘、14歳)/ヘイリー・スタインフェルド
チェイニー(マティの父親殺しの犯人)/ジョシュ・ブローリン
ラッキー・ネッド・ペッパー(お尋ね者のリーダー)/バリー・ペッパー
ハロルド・パーマリー(ネッドの仲間)/ブルース・グリーン
スタント(ネッドの仲間)/マイク・ワトソン
2010年・アメリカ映画・110分
配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン
<10部門VS12部門、栄冠はどちらに?>
かつてジョン・ウェインが主演し、アカデミー賞主演男優賞を受賞した『勇気ある追跡』(69年)を私は観ていない。その原作は1968年にザ・サタデー・イヴニング・ポスト紙で連載が始まったチャールズ・ポーティスの小説『トゥルー・グリット』とのことだが、それを42年後の今コーエン兄弟が再び映画に。アカデミー賞作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞を受賞したコーエン兄弟の『ノーカントリー』(07年)(『シネマルーム18』21頁参照)も独特の雰囲気をもった緊迫感あふれる西部劇(?)だったが、本作は2010年12月22日に公開されるや『ノーカントリー』のトータル興行収入を僅か11日間で上回るという、コーエン兄弟作品のNo.1となる記録的な成績を収めたらしい。
さらに去る1月25日発表された第83回アカデミー賞のノミネート発表では、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞等10部門にノミネートされている。1月28日に観た『英国王のスピーチ』(10年)は12部門にノミネートされているから、数では少し負けたが、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、撮影賞、美術賞等多くの部門で競合しているから、その勝負が楽しみ。もちろん、この2作以外にもすばらしい作品がノミネートされているからこのどちらかが受賞するかどうかもわからないが、その可能性はきわめて大。その場合、さてどちらに栄冠が?
<これが14歳の娘?さすが自由の国アメリカ!>
本作では右目にアイパッチをした、大酒飲みだが「トゥルー・グリット(真の勇気)」を持った連邦保安官のルースター・コグバーン役を演じたジェフ・ブリッジスが、昨年の『クレイジー・ハート』(09年)(『シネマルーム25』107頁参照)に続いて2年連続のアカデミー賞主演男優賞を受賞するかどうかが注目されている。しかし、私の1番の注目は、1500人のオーディションから選ばれ本作が映画初出演となる新星ヘイリー・スタインフェルド。彼女は牧場主の父親を雇い人のチェイニー(ジョシュ・ブローリン)によって理不尽にも撃ち殺された14歳の娘マティ・ロス役を演じているが、映画冒頭のナレーションから父親の遺体のひき取り、連邦保安官ルースターを個人的に雇うについての交渉のシークエンスで抜群の存在感を見せつけてくれる。
ヘイリー・スタインフェルドは1996年12月生まれだから、実年齢もマティと同じ14歳くらい。バックに優秀な弁護士がついているためか、父親の馬を保管していたオヤジから最終的に320ドルの金を巻きあげる(?)交渉ぶりをみていると、今ドキの日本の司法修習生や新米弁護士のレベルをはるかに超える「交渉術」を身につけていることがわかる。日本でも徳川時代には男は14歳くらいで元服していたし、幕末から明治維新にかけての世界に目を向けた若者たちの活躍をみるとその能力にビックリするが、個人主義、自由主義の国アメリカの西部劇の時代ならそれはなおさら。もっとも、いくらアメリカでもその時代は男女平等ではなく女は飾り者にすぎなかったはずだから、そんな時代状況の中での14歳の女の子マティの気の強さと交渉術としたたかさは例外中の例外?
ルースター・コグバーン役のジェフ・ブリッジスも、そのライバルとなるテキサス・レンジャーのラビーフ役を演じたマット・デイモンもそれぞれ熱演だが、本作を強く印象づけるのは、マティを演じた女の子ヘイリー・スタインフェルド。私には彼女がアカデミー賞助演女優賞に最も近い新星と思えたが、さて・・・。
<前半は3人組の「珍道中」に注目!>
日本では珍道中モノとして「弥次さん喜多さん」の2人旅が有名。また、3人組の珍道中(?)としては、ご隠居様を真ん中に助さんと格さんがこれを護衛する「黄門様ご一行」が有名。「正義は勝つ」を地でいくテレビドラマとしてこれは実に痛快で日本人が大好きな3人組だが、コーエン兄弟が描く本作前半に見るルースターとラビーフの2人に14歳の女の子マティを加えた3人組のチェイニー捜しの珍道中も実に面白い。そこで目立つのは、連邦保安官たるルースターとテキサス・レンジャーたるラビーフの何とも大人気ない(?)対抗心。私が見たところこれは、ラビーフがテキサス・レンジャーにえらく誇りを持っていることが一因だが、万事野性型(?)ながら依頼主のマティに対していい顔をしようとする(?)ルースターと、それをひがむ(?)ラビーフの対抗心が原因だ。ムキになって射撃の腕を競い合ったり、チェイニーを逮捕するという共通の目的に向かっているにもかかわらず、コトあるごとにケンカをしてしまういい年をした大人たちの姿を、14歳の女の子が冷静かつ沈着にながめ裁いていくシーンの数々は、今までの映画では観たことがない新鮮さがある。
去る1月24日から始まった第177回通常国会での菅直人総理のテーマは「熟議」による予算と予算関連法案の成立だが、国会は自民党の塩崎恭久の質問に対して「塩崎教授」と揶揄した中井洽衆議院予算委員長の「謝罪」を始めとして、冒頭から波乱含みとなっており熟議とは程遠い。しかし、本作における3人組の珍道中をみていると、「自己責任の原則」にもとづいた「熟議」の徹底ぶりが顕著だ。結果的に行動を共にすることも、逆に意見が対立して別行動になることもあるが、それは3人とも納得ずくのコト。本作前半は、そんな3人組の珍道中に注目!
<本作の時代は?オクラホマ州境のフォートスミスとは?>
中国は「3000年の歴史」があるからその時代区分の勉強は大変だが、アメリカの歴史は1775年~1783年の独立戦争、1861年~1865年の南北戦争を知っていれば十分?いやいやそんなことはない。そもそも、あなたはなぜアメリカに「西部劇」という範疇の映画があるのかを知ってる?
コロンブスによる新大陸アメリカの発見は、中学生時代に「伊予の国」と覚えさせられた1492年。以降アメリカ大陸(北米大陸)はヨーロッパ諸国による植民地化が進んだが、とりわけイギリス国教会からの宗教的圧迫を受けたピューリタン(清教徒)たちはたくさん新大陸に移り住んだ。かつて『西部開拓史』(62年)という映画があったが、そもそもアメリカ合衆国という国はそんなヨーロッパからの移民たちが西へ西へと広大な土地を開拓していくことによって成立した国なのだ。また、アメリカにインディアンという原住民がいたこと、そこに大量の高性能な武器をヨーロッパ人が打ち込み、西部開拓を続ける中で原住民を追い払ったことは、ジョン・ウェイン主演のたくさんの「西部劇」を観ればよくわかる。
本作を観ただけでは十分わからなかったが、プレスシートを読んでしっかりわかったのは、本作が描く時代は1878年からであること。「当時、アメリカ合衆国には38の州しかなく、マティの父親が死んだ街、アーカンソー州のフォートスミスがアメリカの“文明化された”社会の最西端にある町で、そこから先は、人々が怖れる自然のままの荒野が広がっていた」らしい。そこで、本作を観るについては、ネット情報でアメリカ合衆国の州名を書いた地図の勉強をお薦めしたい。アーカンソー州といえばビル・クリントン大統領の出身地として有名だが、そのすぐ西の州がミュージカル『オクラホマ』で有名なオクラホマ。そして、オクラホマ州のすぐ南が「水のない荒野」であり、映画『アラモ』(60年)でも有名なテキサス州だ。プレスシートによれば、「州境のすぐ向こう側は、1834年のインディアン・インターコース法に基づき、アメリカ原住民のための土地、インディアン領となっていて、当時はどこの州にも属していない地だった」らしい。
なるほど、マティがまさに「人馬一体」となって川を渡る序盤の迫力あるシーンはそういう意味があったわけだ。したがって、そんな原住民の土地へチェイニーを捜し求めて旅立つということは、マティにとってはもとより、ルースターとラビーフにとっても大変なことだ。本作における3人のキャラをしっかり理解し、古き良き時代のアメリカ人の自主独立性を理解するためには、そんな時代背景と西部開拓史の理解が不可欠だ。
<1対4の対決に注目!>
『三国志』では多くの英雄豪傑が登場し、さまざまな武勇伝を展開してくれるが、本作でルースターがマティに語る武勇伝は、かつて実際にやったという1対7での対決。しかし刀や槍での戦いと違って拳銃の撃ち合いでは、射撃の精度の違いはあっても、やっぱり人数が多い方が圧倒的に有利では?もっともルースターの説明によると、馬の手綱を口にくわえ、左右の手に拳銃をもって突進していくと、いくら7人いても怖くなって逃げていくらしい。しかし、チェイニーは卑怯者だとしても、お尋ね者のリーダーであるラッキー・ネッド・ペッパー(バリー・ペッパー)はそれなりのしっかり者であるうえ、その仲間の
ハロルド・パーマリー(ブルース・グリーン)やスタント(マイク・ワトソン)の射撃の腕前は?
なぜルースターがネッドらと1対4での対決を挑むことになるのか、その結果がどのようになるのかはあなた自身の目でしっかり確認してほしいが、本作後半のハイライトはまぎれもなくこの1対4の対決。酒びたりでだらしのないシーンも多かったルースターだが、「トゥルー・グリット」と呼ばれるだけに、やはりやるときはやるはず。今までの西部劇ではあまりお目にかかったことのない、コーエン兄弟が描くそんな1対4の対決に注目!
2011(平成23)年2月5日記