洋11-14

「ツーリスト」
    

                 2011(平成23)年1月31日鑑賞<TOHOシネマズ梅田>

監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
エリーズ・クリフトン・ワード(金融犯罪者ピアースの恋人)/アンジェリーナ・ジョリー
フランク・トゥーペロ(数学教師)/ジョニー・デップ
ジョン・アチソン警部/ポール・ベタニー
ジョーンズ主任警部/ティモシー・ダルトン
レジナルド・ショー(ギャングの親玉)/スティーブン・バーコフ
英国人男性/ルーファス・シーウェル
2010年・アメリカ映画・103分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

<俳優良し、舞台良し、ヒネリ良し!>
 本作はアンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップの共演という話題のハリウッド大作でありながら、1時間43分と最近の映画にしてはコンパクト。それは『善き人のためのソナタ』(06年)(『シネマルーム14』208頁参照)という超問題作でアカデミー賞外国語映画賞をはじめ数々の賞を受賞したドイツ生まれのフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が、前作とは全く趣の異なる「楽しい映画」をつくりたいと考えたためだ。また、アンジーの『チェンジリング』(08年)(『シネマルーム22』51頁参照)での重厚な演技は印象深かったが、アンジーもそれとは全く違う「楽しい映画」にジャンルを広げたかったらしい。そんな2人の思惑が一致し、次にアンジーの相手役としてそんな「楽しい映画」に最もふさわしいハリウッドスターは?と考えた時、浮かびあがったのがジョニー・デップ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズはかなりの大作だが、あのジャック・スパロウ船長のような雰囲気でアンジーの相手役として「楽しい映画」を引っ張ってくれれば・・・。
 そんな素敵な二大俳優を起用した本作の舞台は、『ツーリスト』というタイトルにふさわしく、水の都ヴェネチア。まさに俳優良し、舞台良し、そして思わずオードリー・ヘップバーンとケーリー・グラントが共演したおしゃれなサスペンス『シャレード』(63年)を彷彿させるような、ヒネリ良し。1時間43分というコンパクトな「ハリウッド大作」に今日は大満足。

<アンジーの華やかさに注目!この女が接触するのは?>
 映画の華は女優。本作は映画冒頭からそれを見せつけてくれる。ドイツ人監督ドナースマルクが選んだ最初の舞台はパリだが、映画では『ピンクの豹』(63年)のクルーゾー警部に代表されるように、パリ警察は犯人に出し抜かれるマヌケが多い(?)と相場が決まっている。国際指名手配されている国際犯罪者の名はアレクサンダー・ピアース。今ホテルから外に出てカフェで朝食をとろうとしている女性エリーズ・クリフトン・ワード(アンジェリーナ・ジョリー)はピアースの恋人だから、エリーズをマークしていればいつかピアースと接触するはず。それがスコットランド・ヤードのジョン・アチソン警部(ポール・ベタニー)の思惑だった。そんな警部の読みどおり、朝食のテーブルに届いた一通の手紙を一読したエリーズはそれをすぐに燃やして席を立ったが、さて彼女の行き先は?
 1950~60年代はマリリン・モンローのモンロー・ウォークが有名だったが、ドナースマルク監督は本作の冒頭、エレガントなドレスに身を包んだアンジーの「アンジー・ウォーク」をたっぷりと見せてくれる。これにはパリ警察の面々も思わず監視カメラをパンティ・ラインに設定し拡大する始末だが、これだからパリ警察はダメ?それはともかく、この雰囲気からするとエリーズはきっとこれからピアースに接触するはず。さあ、それをアチソン警部はパリ警察を通じていかに探知?

<エリーズは、なぜピアースの言いなりに?>
 リヨン駅発、8時22分ヴェニス行き列車。これが序盤のキーワードだ。カフェでの朝食もそこそこに一人列車に乗り込み、「僕の体格に似た男を選んでそいつを僕だと思わせるんだ、愛してる」というピアースの指示を忠実に実行しようとしている中、パリ警察は手紙の燃えカスに化学処理を施した鑑識のお手柄によって、ヴェニスでエリーズとピアース(?)を待ち受けたが・・・。
 朝食から列車への移動中に服を着替える時間がなかったのは残念だったが、その分、ホテルについてからのエリーズのゴージャスな着替えぶりに注目!かつてオードリー・ヘップバーンはその清楚な表情で世界中の男たちを魅了したが、実は服装も大きなポイントだった。そんなオードリーに対抗するかのように、本作ではアンジーがさまざまの魅力的な衣装を見せてくれる。とりわけハイライトとなる舞踏会での黒のドレスに注目だが、逆に衣装だけに注意を奪われてはダメ。なぜ彼女は今、ピアースの言いなりに?ひょっとしてその裏には何かがあるのでは?そして、いくらお高くとまっていて(?)も、やっぱり女は女。その女心の本音は、さてどこに?そしてエリーズの正体は?

<ジョニー・デップは、いかに平凡なツーリストを演出?>
 若くして亡くなった大映の二枚目俳優・市川雷蔵はクールで端正な二枚目役がピッタリだったが、同じ時代をかけ抜けた勝新太郎は、それとは対照的な「濃い演技」が特徴だった。ジョニー・デップと言えば『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『チャーリーとチョコレート工場』(05年)(『シネマルーム9』112頁参照)などが有名だが、彼の特徴は勝新太郎と同じような「これぞ、ジョニー・デップ!」という濃い演技。
 そんなジョニー・デップが、本作の序盤から中盤そして終盤にかけて一貫して平凡なツーリスト、フランク・トゥーペロの役を淡々と(?)演じている。

<こんな「非日常」なら誰だって・・・>
 リヨンからヴェネチアに向かう列車に乗って一人小説を読んでいたのに、目の前に絶世の美女が現れたばかりか、目の前の席に座って話しかけ「食事に誘ってくれない?」と言われたら、どんな男でもそれに乗るのは当然。ましてや、ジョニー・デップ演ずるアメリカ人旅行者のフランクは3年前に妻を亡くした平凡な(?)数学教師だから、そんな体験もはじめてなら、ヴェネチアに着いた後最高級ホテルのスイートルームにクリフトン・ワード夫妻としてチェックインするのもはじめて。さらに、エリーズには恋人がおり、彼女がこのホテルに宿泊したのはその招待によるものだとわかりつつ、豪華なディナーの後ホテルのバルコニーでキスまでされると・・・?さすが名優ジョニー・デップ。平凡な数学教師には到底考えられない「非日常」の出現に戸惑いながらも、それに懸命についていこうとするフランクの役を静かに熱演している。
 その一部始終をチェックしていたアチソン警部は、フランクがピアースではなく、ただのダサい数学教師にすぎないとの確証を得ると、フランクを追及する興味を失ったが、エリーズへの執着を失わないフランクは以降もアチソン警部の目の前に「おジャマ虫」として登場することに。本作ではアンジーの華やかさに注目するとともに、終始ダサい(?)ジョニー・デップにも注目!

<「水都大阪」の発展型がここに?>
 橋下徹大阪府知事が推し進めてきた「水都大阪」構想は毎年着実に前進しており、さまざまなイベントにも人が集まり始めている。しかし、本作にみる水都ヴェネチアの華やかさに比べると、その魅力はせいぜい100分の1程度?プレスシートによると、「『運河の街』ヴェネチアは、150ほどの運河によって形成された118の島々の上に作られた街で、それらの島をおよそ400の橋が結んでいる。また交通手段は舟か徒歩のみ。自動車も、自転車すら乗り入れることが禁止されている」らしいから、不便と言えば不便だが、その不便さも観光の大きなポイントだ。
 もっとも、ホテルやお店のすぐ目の前が運河だから、大雨で水位が上がれば大変。08年12月に起きた「水の都ベニス水没」のニュースには驚かされたものだ。大雨によって「アクア・アルタ」と呼ばれる高潮期で水深約1.5メートルを記録する、過去22年で最悪の水没状態となったらしい。「水の都」は「水の都」なりにそんな悩みもあるが、本作では水都のヴェネチアは2人の主演俳優に並ぶほどの主役となっているから、その美しさに注目!「水都大阪」構想をさらに発展させればこのヴェネチア型に近づいていくのだろうが、そんな大胆な構想を立ち上げ実現していく政治家は今一体どこに?

<ピアースの罪は何?被害者は誰?ピアースの登場は?>
 私は1950年代後半から60年代にかけてのオードリー・ヘップバーン主演の映画をほとんどすべて観ているが、中学生から高校生の頃、最高にスリリングで楽しかったヘップバーン主演の映画がケーリー・グラントと共演した『シャレード』。小学生時代から切手を収集していた私にとっては、隠匿された25万ドルをめぐって展開されるミステリーのラストに種明かしされるヒネリはとても興味深いものだった。しかして、金融犯罪者として警察から国際指名手配されているピアースの具体的なその犯罪事実とは?
 それが大きなポイントだが、弁護士の私の目には、それが少し曖昧。どうも彼は、かつて仕えていたギャングの親玉レジナルド・ショー(スティーブン・バーコフ)を裏切り、ショーからまんまと23億ドルを盗み出したうえ姿をくらましたらしい。姿を変えるための整形手術に用意した費用だけでも莫大な金額らしいが、その被害者がギャングの親玉のショーなら警察は関係ないのでは?するとひょっとして、警察が追及するのはピアースの脱税問題?ホントはそこらあたりをもっと追及したいところだが、本作は問題提起作ではなく「楽しい映画」。したがって、そこは『シャレード』のスリルとサスペンスをおしゃれ心をもって楽しんだように、本作におけるピアースの犯罪ぶりもおしゃれ心をもって鑑賞しなければ。
 映画はラストに向けてエリーズの本性が明らかにされる中、大きな緊張感をもってクライマックスに近づいていく。ひょっとして、エリーズの美しい顔もショーが手に持つナイフでズタズタに?特殊部隊の銃はショーたちに照準が定められていたが、この「捕り物」の目的はピアースを登場させ逮捕することだから、アチソン警部からの発射命令はまだまだ・・・。ジリジリする中で時は過ぎ、緊張感はピークに。さあ、ピアースはどんなタイミングで登場するの?そしてまた、本作のヒネリの効いた結末はいかに?
                               2011(平成23)年2月1日記