洋11-13
「完全なる報復」 ![]()
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2011(平成23)年1月30日鑑賞<TOHOシネマズ梅田>
監督:F・ゲイリー・グレイ
クライド・シェルトン(エンジニア)/ジェラルド・バトラー
ニック・ライス(検事、後に地方検事)/ジェイミー・フォックス
サラ・ローウェル(検事、ニックの部下)/レスリー・ビブ
ジョナス・カントレル(地方検事、ニックの上司)/ブルース・マッギル
ダニガン(捜査官)/コルム・ミーニイ
フィラデルフィア市長/ヴィオラ・デイヴィス
ガーザ(捜査官)/マイケル・アービー
ケリー・ライス(ニックの妻)/レジーナ・ホール
2009年・アメリカ映画・108分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<復讐を誓った男のターゲットとは?>
映画冒頭、短いシークエンスの中で、2人の暴漢によって愛する妻と幼い娘を殺され、自らも重傷を負わされた絶望的な表情のクライド・シェルトン(ジェラルド・バトラー)の姿が映し出される。強盗目的なら何も人を殺さなくてもいいのに、ダービーとエイムスの2人はなぜ無意味な殺人まで・・・?日本でも最近ワケのわからない殺人事件が増えているが、アメリカでは本来強盗だけで済むのにわざわざ強盗殺人までやってしまう凶悪犯が多いから困ったものだ。
犯人が2人とも逮捕されたのはラッキーだったが、なぜか妻子を直接手にかけた主犯格のダービーがわずかの禁固刑に、従犯だったはずのエイムスが死刑になりそうだったから、そんな裁判にクライドが納得できないのは当然。それはアメリカ特有の「司法取引」による結果だったが、最善ではないが「次善の策」としてそれを積極的に進めたのが、有罪率96%を誇る検事ニック・ライス(ジェイミー・フォックス)。そんな結論に納得がいかず、以降復讐の鬼と化したクライドのターゲットは誰に?第1に向かうべきは当然直接の加害者たるダービー。クライドもダービーへの復讐は誓ったが、エンジニアという仕事ながら後に明かされるような特殊な能力を持った人間であるクライドが選んだターゲットとは?
それは司法制度。つまり、穴だらけの法制度というからすごい。私も弁護士として36年間活動を続けてきたが、穴だらけの法制度という側面があることはたしか。しかし、その中で私は一人一人が持場で自分の職務を果たしていくしかないと思って頑張ってきたのだが・・・。
<「司法取引」には長所と短所が・・・>
2009年5月に開始された裁判員裁判は既に1年半が過ぎた。死刑判決も無罪判決も出揃った中、その定着ぶりを真摯に検証する必要がある。そんな作業において必要なのがアメリカの陪審員制度の運用状況だが、それを知るにはジョン・グリシャム原作のリーガルサスペンスものやさまざまな法廷映画が最適。
ちなみに、トミー・リー・ジョーンズとアシュレイ・ジャッドが共演した『ダブル・ジョパディー』(00年)は、授業で聴いてもなかなかわからない「二重処罰の禁止」という憲法上の理念を勉強するのに最適(『シネマルーム1』38頁参照)。また、アメリカには「司法取引」という制度があることが日本でもかなり知られてきたが、これはかなりのくせもので、この制度にははっきりとした長所と短所がある。日本人はややもすると物ゴトの良い面ばかり主張したり、逆に悪い面ばかり主張して無意味な対立をしてしまうが、アメリカにおける司法取引はベストではなく人間が使いこなす「次善の策」として定着している。しかし、その活用を誤ると・・・。
<ロースクールで上映を>
ニックが「有罪率96%の検事」という名声を維持するために司法取引を多用しているとしたら問題だが、「裁判でもし陪審員を説得できなければ犯人は釈放されてしまうんだぞ」という現場検事としての意見は傾聴に値するはずだ。したがって、ダービーが共犯者のエイムスに責任をなすりつけようとしていることはわかっていても、確実に2人を有罪としスムーズに事件処理を進めていくためには、ダービーの協力を生かした方がベター。ニックがそう考えたとしても、それはやむをえないし、現実的な選択かもしれない。もちろん本作は作りモノの映画だから、そんな現実的な選択に対して強く異議を述べるクライドの復讐のターゲットは、腐った司法制度のみならずニックやその家族にまで・・・。
先日、全国犯罪被害者の会の代表幹事を11年間務めてきた岡村勲弁護士が退任したが、その運動のおかげで08年に「被害者参加制度」が実現した。岡村代表幹事は弁護士の仕事で逆恨みされた男によって自分の妻の命を奪われた悲しみをこのような社会的活動に還元したわけだが、さてクライドの場合は?長所と短所の両方をあわせ持つアメリカの「司法取引」を学ぶうえで本作は最適。是非ロースクールで上映し、勉強の素材として活用しなければ・・・。
<こんなことで逆恨みされたのでは・・・>
それから10年後。F・ゲイリー・グレイ監督は本作で面白い対比を見せてくれる。クライドは「あの事件で」愛娘を殺され、今は孤独の日々を。他方、ニックの方は、「あの事件」の時妻ケリー・ライス(レジーナ・ホール)のお腹の中にいた赤ちゃんが、今はかわいい一人娘に。『Ray/レイ』(04年)でレイ・チャールズそっくりのすばらしい演技をみせたジェイミー・フォックス(『シネマルーム7』149頁参照)が、本作では仕事にも家庭にも完璧を求める典型的なアメリカの父親像を演じている。しかし、それってクライドには逆に鼻につくだけ?
弁護士もたまには人に恨まれることがあるが、検察官は当然それ以上。本作序盤の展開でニックがクライドから恨まれたのではたまったものではないが、ある日ニックの自宅に送りつけられたDVDには一体どんな映像が?
<キーワードは「運命には逆らえない」?>
本作中盤は、たった一人だけのしかも逮捕されて刑務所内にいるクライドが、なぜかあたかも『羊たちの沈黙』(90年)におけるレクター博士のように次々と外部での復讐を成立させていく姿が見モノ。その手始めが、本来無痛の死刑執行で死ぬはずだったエイムスが苦痛にのたうち回りながら死んでいくこと。これは前代未聞のこと。こんなことが現実に起きれば、たちまち死刑廃止論が高まるはずだ。それはともかく、これは明らかに三種類の薬物が別の毒薬にすりかえられた結果だが、一体誰がそんなことを?どうやって?
エイムスの遺留品の中には「運命には逆らえない」との言葉が残されていたが、それは10年前のあの時、犯人たちがクライドに残した言葉だが、10年後になぜそんな言葉がキーワードに?続いて本作には、『ソウ』シリーズを彷彿させるような、電動ノコで25片に切り刻まれたダービーの遺体が登場する。なるほど、「運命には逆らえない」事態が2件も続けて発生したわけだが、この犯人がクライドであることは明らかだ。しかし、さて有罪にするために不可欠なその物的証拠は?
<これで序の口?復讐劇のエスカレートぶりは?>
私は弁護士だから約束とりわけ時間に厳格で、時間にルーズな人間は基本的に信用できない。この点は、特殊な経歴をもっていたらしいクライドも同じらしい。クライドが次から次へとニックにつきつける要求は「ベッドを代えろ」とか「ステーキを差し入れろ」とかの陳腐なものだが、もしそれを受け入れなかった場合の報復は?本作が面白いのは、映画中盤にみせる「これでもか、これでもか」というクライドとニックとの知恵比べと、さまざまなズレから起きる悲劇の数々。ほんの数分の違いによって、クライドの弁護人だったレイノルズ弁護士は河原で生き埋めに。また、ニックの忠実かつ優秀な部下だった女性検事サラ・ローウェル(レスリー・ビブ)や何かとニックを引き立ててくれた地方検事のジョナス・カントレル(ブルース・マッギル)までがクライドの復讐の餌食に。司法省の幹部職員が数名同時に殺されるなど、前代未聞のことだ。こりゃ一体ナニ?刑務所の中にいながら、なぜクライドにこんなことができるの?クライドにはひょっとして強力な共犯者が?もちろんこの間もクライドとニックの「対話」は続いていくが、この過程をみているといかにニックが優秀な検事でも明らかにクライドの知恵と策略の方が上。しかも、クライドの口からは「こんなのは、まだ序の口だ。腐った司法制度を、お前もろとも葬り去ってやる!」という恐ろしい言葉が。すると、今後そのターゲットはフィラデルフィア市民全体に?
フィラデルフィア市長(ヴィオラ・デイヴィス)からの「速やかに事態を解決しなさい」との厳命を達成できなかったニックは辞任を申し出たが、逆に市長はニックを死亡したジョナスの後継の地方検事に任命。さあ、フィラデルフィア市民全体の安全を守るべきニックと、穴だらけの法制度への復讐を誓ったクライドとの対決の行方は?クラウゼヴィッツの『戦争論』における「勝利するためには敵の重心を攻めること」という格言を活用した戦いの展開と、そのエスカレートぶりに注目!
<あっと驚くタネ明かしは?>
手品はホントに不思議だが、当然それには口上とは正反対のタネや仕掛けがある。つまり、テクニックを磨くとともに人間の盲点をつくのが手品だ。それと同じように、クライドが刑務所にいながら数々の完璧な復讐劇をやってのけることにも、必ずタネがあるはずだ。誰でもそう思うのは当然だが、そのタネがすぐにバレたのでは手品が成立しないのと同じように映画が成立しない。
映画中盤、裁判官がケータイを取った途端にそれが爆発して吹き飛ばされるシーンが登場するが、これをみると一瞬ケータイを取ることに躊躇するかも・・・。昔は『007』シリーズがさまざまな最高水準の小道具をみせてくれたが、最近はどんな映画でも爆発物などの技術は精巧になっているうえ、ケータイを組み合わせた種類のものも多い。中盤以降、クライドの圧倒的優勢の中で復讐劇が展開されていくが、その潮目が変わるのはいつ?そして、それはどんな状況から?
クライド一人の復讐劇のためにフィラデルフィアに非常事態宣言が出される中での、そんなあっと驚く復讐劇タネ明かしと、それを逆活用したニックたちの知恵はあなた自身の目でしっかりと。
2011(平成23)年1月31日記