洋11-130
「ペントハウス」 ![]()
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2011(平成23)年12月21日鑑賞<東宝東和試写室>
監督:ブレット・ラトナー
ジョシュ・コヴァックス(「ザ・タワー」の管理人)/ベン・スティラー
スライド(泥棒)/エディ・マーフィ
チャーリー(コンシェルジュ)/ケイシー・アフレック
アーサー・ショウ(ペントハウスの大富豪)/アラン・アルダ
Mr.フィッツヒュー(元ウォールストリートの投資家)/マシュー・ブロデリック
クレア(FBIの女性捜査官)/ティア・レオーニ
エンリケ(エレベーター・ボーイ)/マイケル・ペーニャ
オデッサ(メイド)/ガボレイ・シディベ
レスター(老ドアマン)/スティーヴン・ヘンダーソン
2011年・アメリカ映画・104分
配給/東宝東和
<「ザ・タワー」比較、大阪VSマンハッタン>
大阪市北区西天満にある私のマンションは12階建てだが、その近くには30階を越す高層マンションが次々と建てられた。その極めつけは、北浜駅直結の「ザ・タワー」というべき54階建ての「北浜タワー」だ。他方、完成間近となった「関西最後の超一等地」梅田北ヤード開発(うめきた)では48階建てのマンション「グランフロント大阪オーナーズタワー」の販売が始まり、最多価格1億4000万円、最高価格4億1500万円という物件が次々と売れているらしい。
ところが、『TOWER HEIST』という原題の本作の舞台となったニューヨークのマンハッタンにある65階建ての超豪華マンション「ザ・タワー」は、1戸あたりの平均物件価格が5億円というだけあって、その威容さが目立つ。とりわけ、屋上のプール専用使用権(?)を伴う(?)最上階はすごい。そんなところに1人で住んでいるのがウォール街の大富豪アーサー・ショウ(アラン・アルダ)だが、彼はどうしてこんな大富豪になったの?
<「マンションは管理で買え」のセオリーが貫徹!>
素人にはあまりわかっていないが、不動産業者の間でセオリーとされているのが「マンションは管理で買え」という言葉。つまり、いくら外見が立派でも修繕費の積み立てができていなかったり、管理費を滞納している区分所有者がいると、そのマンションはダメということだ。日本の区分所有法やマンション法ではマンションを管理するのは区分所有者で構成する管理組合とされているが、その運営が難しいため次第に外部委託のウエイトが大きくなっている。そうなると信頼できる管理業者の見分け方が重要だが、本作の主人公ジョシュ・コヴァックス(ベン・スティラー)はまさにその理想。
「ザ・タワー」のセールスポイントは最高の眺望と最新のセキュリティ・システム、そして居住者のあらゆる欲求と優越感を満たす最上級の日常サービスだ。そのサービスを一手に取り仕切る管理マネージャーのジョシュは毎日早朝から地下鉄で「ザ・タワー」に出勤し、ドアマンのレスター(スティーヴン・ヘンダーソン)らに声をかけ、あれこれ細やかな指示を下していた。居住者たちのわがままや突発的なトラブルにテキパキと対処することが、この仕事ひと筋に生きてきたジョシュの役目なのだ。
<1%の富裕層の悪行は?>
「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」の合言葉で始まったアメリカの「反ウォール街デモ」は下火になってしまったが、アメリカ社会が1%の富裕層と99%の貧困層で構成されていることは今や周知の事実?これは「1億総中流」と言われていた高度経済成長期の日本とは大違いだ。イギリスには「ノーブレス・オブリージュ」の伝統があり、高貴な者は庶民の模範になることが求められているが、本作にみる1%の経済的優者たるショウの悪行は?
大王製紙の御曹司である井川意高がカジノで100億円以上の損失を受けていたという事実には驚いたが、ジョシュたちにとってショウが金融詐欺事件でFBIの女性捜査官クレア(ティア・レオーニ)たちに逮捕されたのは、それと同じような衝撃だったはず。大王製紙の場合は対岸の火事だが、ジョシュがショウに使用人全員がコツコツと貯めていた財産の年金運用を依頼していたところ、ショウはそれを私的流用していたらしいから大変。その金額はショウにとっては端金だし、資金運用には成功もあれば失敗もあるのは当然だが、それによって長年ドアマンを勤めてきたレスターが自殺まで図ることになったのだから、使用人たちにとってはまさに死活問題。ショウは自信満々に無罪だと主張しているが、ジョシュたちにとってはそれはどうでもよく、問題は年金が戻ってくるのか否かということ。弁護士の私の見解ではそれはとても無理だが、さてジョシュたちはいかなる工夫を?
<怒涛の展開のトリックは? その1>
大金持ちになると、1台数千万円もする外車を持ちたがるものだ。山口百恵のヒット曲「プレイバックpart2」は「真っ赤なポルシェ」がテーマ(?)だったが、ショウの場合は最上階に真っ赤なフェラーリを飾りとして置いていたからビックリ。捜査に入ったFBI捜査官クレア達が事情聴取したところによれば、各パーツごとに分解してエレベーターで運び上げたうえ、また組み直したというからショウはよほどの車好き?
本作の見モノはジョシュが、①少々間抜けなコンシェルジュのチャーリー(ケイシー・アフレック)②陽気な新米エレベーター・ボーイのエンリケ(マイケル・ペーニャ)③「ザ・タワー」を強制退去させられたウォール街の負け犬フィッツヒュー(マシュー・ブロデリック)、さらに、④ジョシュの幼馴染の泥棒スライド(エディ・マーフィー)の協力を得ながら、ショウから「失われた年金」を取り戻す怒涛のストーリーだが、そこではまずこの「赤のフェラーリのトリック」がポイントになる。成金の悪趣味と軽蔑せず、そこに込められた意味深のトリックをあなたはどう読み解く?
<怒涛の展開のトリックは? その2>
伊丹十三監督の『マルサの女』(1987年)では、最後の最後に巧妙に作った隠し部屋を宮本信子扮するマルサの女・板倉亮子に探り当てられたため、そこにたんまりと溜め込んでいた現金がばれてしまったが、本作ではジョシュ達がいくら調べてもショウが逃亡資金として準備しているはずの約20億円の現金が見つからないらしい。「ザ・タワー」の構造はもとより誰がいつどんな内装工事をしたかにも詳しいジョシュはその話を漏れ聞き、一瞬であの時ショウが改装したペントハウスの壁に埋め込まれているに違いないと見抜いたから、さすが管理のプロ!ジョシュ達は保釈でペントハウス内に戻っているショウやそれを常時監視してるFBI捜査官達をいかに出し抜いてペントハウス内に進入し、壁の中に埋め込まれているはずの金庫から現金20億円を奪い取る(いや、返してもらうの)?仲間由紀恵主演の『トリック』シリーズも面白かったが、本作で仕掛けられるジョシュのトリックも、頭脳明晰な女性捜査官クレアを騙すくらいだから壮大かつ痛快。本作では、そんな怒濤の展開のトリックその2をたっぷりと楽しみたい。
<面白いストーリー展開は、司法取引のおかげ?>
本作のキャッチコピーは「全財産は最上階(ペントハウス)、トリックを見破れ。」だが、弁護士の私にはペントハウスへの侵入と20億円の強奪(?)容疑で逮捕されたジョシュ達とクレアを中心とするFBI当局との司法取引が面白い。ペントハウスの壁の中にホントに隠し金庫があったの?その中にはホントに20億円の現金が眠っていたの?それは本作を見てのお楽しみだからここでバラすわけにはいかないが、結果はどうあれ、あれだけド派手な住居侵入と現金強奪作戦を決行したのだから、逮捕され裁判で有罪とされれば長期懲役刑は必至。そんな状況下、「リーダーは俺だから俺一人が罪を償う」と申し出たジョシュは立派なものだ。結果的にジョシュは刑務所に入ることになったもののごく軽微な刑となり、逆に無罪を確信していたショウは重い懲役刑になってしまったが、それは一体なぜ?そこらを読み解くキーワードが司法取引だ。
去る12月25日に計13回の放映を終えたNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』では、「知謀沸くが如し」と称された秋山真之の日本海海戦におけるT字型戦法が光っていたが、本作にみるジョシュの戦略・戦術もそれに負けず劣らず大したもの。しかしそれが可能となったのは、日本にはないアメリカ特有の司法取引の制度であることをしっかり確認し、勉強する必要がある。その意味で、本作も法科大学院で学ぶ院生必見の映画だろう。
2011(平成23)年12月28日記