洋11-126

「TIME/タイム」
    

                   2011(平成23)年12月14日鑑賞<角川映画試写室>

監督・脚本:アンドリュー・ニコル
ウィル・サラス(スラム・ゾーンに住む青年)/ジャスティン・ティンバーレイク
シルビア・ワイス(富裕ゾーンに住む大富豪の娘)/アマンダ・セイフライド
レイモンド・レオン(時間を監視する時間監視局員)/キリアン・マーフィ
フィリップ・ワイス(シルビアの父)/ヴィンセント・カーシーザー
レイチェル・サラス(ウィルの母親)/オリヴィア・ワイルド
フォーティス(時間を強奪する“ギャング”)/アレックス・ペティファー
ボレル(ウィルの親友)/ジョニー・ガレッキ
ヘンリー・ハミルトン(終わりのない人生に絶望した男)/マット・ボマー
2011年・アメリカ映画・109分
配給/20世紀フォックス映画

<さすがハリウッド!このアイディアは世界初!>
 「1%の富裕層と99%の貧困層」をどう考える?それがアメリカの「ウォール街占拠デモ(Occupy Wall Street)」の問題提起だったが、本作はまさにその問題提起と同じ。違うのは「Occupy Wall Street」は資本主義社会での優劣の決め手が「お金」であるのに対して、科学技術の進化により老化が完全になくなり、すべての人間の成長が25歳でストップするという「近未来」を描いた本作のそれは「時間」ということだ。
 「Time is money」とはよく言ったものだが、本作が描く近未来では貨幣の代わりに「時間」が唯一の「通貨」になっているらしい。すなわち、《残り時間=余命の時間》によって完全に「富裕ゾーン」と「スラム・ゾーン」に分けられた近未来の世界では、一部の富裕層は永遠の命を享受する一方、圧倒的多数のスラム・ゾーンの住人たちは熾烈なサバイバルの日々を強いられているらしい。さすがハリウッド!このアイディアは世界初!

<始皇帝が望んだ「不老不死」もこの男にとっては・・・>
 富裕ゾーンとスラム・ゾーンの間には、「タイム・ゾーン」という境界線があり、互いの世界の行き来は禁じられているらしい。しかし、本作の主人公ウィル・サラス(ジャスティン・ティンバーレイク)と本作のキーマンとなる「時間を監視する時間監視局員」レイモンド・レオン(キリアン・マーフィ)との議論を聞いていると、それは必ずしも違法ではなく、実例が乏しいだけらしい。したがって、本作のストーリー構成の端緒となる、富裕ゾーンからスラム・ゾーンにやってきたヘンリー・ハミルトン(マット・ボマー)のような男もまれにいるわけだ。
 本作に登場する人物は富裕ゾーン、スラム・ゾーンを問わずすべて、左腕に埋め込まれたボディ・クロックによって余命時間が明示されている。スラム・ゾーンの人間の余命は平均23時間で、それ以上生き続けるためには日々労働に明け暮れて時間を稼がなくてはならないのに、ハミルトンの持ち時間=寿命はまだ116年も残っているらしい。そんな富裕ゾーンの男が1人でスラム・ゾーンの安モノ酒場に登場し、残存時間を刻んだ左腕を見せびらかせば、時間を強奪する“ギャング”フォーティス(アレックス・ペティファー)らに狙われるのは当然だ。ほぼ永遠の命を与えられた富裕ゾーンの男ハミルトンにとっては生きる意味を見つけることはもはや不可能となり、今の彼の願いは誰かに殺してもらうこと。しかし、かつて中国では秦の始皇帝がはるか東の蓬莱国まで徐福を遣わしたのは、不老不死の薬を求めるためだった。そんな始皇帝が望んだ「不老不死」も、この男にとっては・・・。

<主人公の立場は?転機は?行動原理は?>
 スラム・ゾーンで暮らす本作の主人公ウィルは母親レイチェル・サラス(オリヴィア・ワイルド)と同居していたが、まず最初に戸惑うのはレイチェルがあまりにも若く美しいこと。なるほど、すべての人間は25歳になればそれ以上年を取らない社会とはこういうこと・・・。もっとも、スラム・ゾーンの人間の平均余命は23時間しかないから、それ以上生き続けるためには日々働いて給料、いや時間を稼がなければならない。つまり、丸1日工場で働いたら〇〇時間が与えられる一方、バスに乗るには××分を支払わなければならないわけだ。ちなみに昔はお金の貸し借りが自由にできたのと同じように、時間の貸し借りは右手を握り合うことによって自由に輸血のような方式でできるから、ウィルとレイチェルは互いに時間を融通しあいながら日々生き延びていた。ところが、ある日レイチェルは急に料金が値上げされたためバスに乗れなくなり、仕方なく自宅まで走って帰ろうとしたが、残り時間は刻一刻となくなっていったから大変。不安を感じたウィルはレイチェルを迎えに走ったが、あと1秒というところでタイムアウト!そんなバカな!こんなシステムは一体誰が作ったの?そんな思いが以降ウィルの行動原理になったのは当然だ。
 他方、スラム・ゾーンでは時間切れになった人間が次々と死んでいたが、それは富裕ゾーンであり余るほどの時間を享受するための不可欠なシステム。富裕ゾーンに住む大富豪フィリップ・ワイス(ヴィンセント・カーシーザー)はそう確信していた。また、時間監視局員レオンもそんな制度を前提に、50年間その仕事に従事していた。ハミルトンから116年という膨大な時間を自発的にプレゼントされたウィルは、親友のボレル(ジョニー・ガレッキ)に10年間を分け与えた後、高いタクシー料金(?)を払って堂々と富裕ゾーンに乗り込み、超豪華なお屋敷の中でフィリップとポーカーで対峙したが、さてその狙いは?

<これは恋?それとも人質?ウィルが目指す改革とは?>
 全時間をフィリップとのポーカーに賭けるウィルの決断はすばらしいが、ウィルの狙いが十分明確でないところが本作の弱点。フィリップには25歳になってまだ2年しか経っていない娘シルビア・ワイス(アマンダ・セイフライド)がいたが、シルビアもハミルトンと同じように、これから延々と続くであろう長い時間をもて余そうとしていたから、ウィルのような刺激的な男を見ればそこに魅力を感じたのは当然。2人とも素っ裸で海の中に入る冒険(?)をした後、レオンによってウィルがスラム・ゾーンから富裕ゾーンへの闖入者であることが明らかにされた時、さてシルビアの反応は?
 ウィルを逮捕するべくフィリップの屋敷内に乗り込んできたレオンの追及を強引に振り切り、ウィルはシルビアを連れて(人質として?)見事富裕ゾーンからスラム・ゾーンへの逃走を成功させたが、そんな2人の間には恋心が?それともシルビアは人質?吉永小百合と浜田光夫が共演した『泥だらけの純情』(63年)と山口百恵と三浦友和が共演した『泥だらけの純情』(77年)は藤原審爾原作の小説を映画化したもので、令嬢とチンピラヤクザとの純愛を描いた佳作だったが、その結末はロミオとジュリエットばりの悲しいシーンだった。しかしてさて、この2人の結末は?そして、ウィルが目指す、こんな腐ったシステムの改革とは?

<近未来にも「ボニーとクライド」が?>
 あなたは、ボニーとクライドを知ってる?この2人は、アメリカン・ニュー・シネマの代表作『俺たちに明日はない』(67年)の主人公となる男女2人のギャングだ。彼らは大不況下で混沌としていた1930年代のアメリカの西部で、まさにタイトルどおりの明日なき青春を疾走し、最後は壮絶な最期を遂げた。本作中盤ではウィルとシルビアが2人で組んで次々とフィリップの経営する銀行強盗に及ぶが、その姿はボニーとクライドを彷彿させる。ボニーとクライドは「金持ちの手先」である銀行から金を奪う「義賊」として庶民の人気を集め、多くの人が、その逃亡を手助けしたと伝えられるが、大きな懸賞広告が掲げられたウィルとシルビアの場合は?
 最終的にウィルとシルビアがフィリップから奪おうとチャレンジするのは「1万時間」だが、それを奪ってスラム・ゾーンの貧民たちに分け与えたら、ホントに社会改革ができるの?それともフィリップが言うように、そんなことをしても欲望が広がるだけで何の意味もないの?ロシアでは12月10日に行われた下院議員選挙に「不正」があったとして、反プーチン陣営の大規模デモがモスクワで決行されたが、ひょっとしてこれはロシア変革の大きな潮目に?本作ラストに登場するスラム・ゾーンから富裕ゾーンになだれ込もうとする庶民の姿は、そんなことを連想させたが、さて現実は?
                               2011(平成23)年12月15日記