洋11-121
「瞳は静かに」 ![]()
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2011(平成23)年12月7日宣伝用DVD鑑賞
監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ
オルガ(アンドレスの祖母)/ノルマ・アレアンドロ
アンドレス(母を亡くした8歳の少年)/コンラッド・バレンスエラ
ラウル(アンドレスの父)/ファビオ・アステ
ノラ(アンドレスの母)/セリーナ・フォント
アルマンド(アンドレスの兄)/ラウタロ・プッチア
アルフレド(ノラの恋人)/エセキエル・ディアス
セバスチャン(情報局の中心人物)/マルセロ・メリンゴ
2009年・アルゼンチン映画・108分
配給/Action Inc.
<時代は?舞台は?>
本作は、日本での公開が珍しいアルゼンチン映画。その時代は、1977年~78年の軍事政権時代のアルゼンチン、そして舞台は北東部の州都サンタ・フェだ。アルゼンチンといえばマドンナがエバ・ペロンを演じたミュージカル『エビータ』(96年)が有名だが、エバ・ペロンはアルゼンチンの国政にいかなる影響を?またエバ・ペロンの夫フアン・ペロンがアルゼンチンの大統領に就任したのは1946年(第29代大統領)と1973年(第41代大統領)だが、彼は本作が描く「軍事政権」といかなる関係に?
多くの日本人はそこらあたりを全く知らないだろうから、本作を鑑賞するについて、まずはそんな歴史的背景のお勉強が不可欠だ。
<タイトルの意味は?>
本作の邦題『瞳は静かに』とはいかなる意味?原題は「Andres no quiere dormir la siesta」で、その意味は「アンドレスはシエスタ(昼寝)をしたくない」だが、それってどういう意味?この原題は、つぶらな瞳が印象的な8歳の少年アンドレス(コンラッド・バレンスエラ)と、アルゼンチンで「シエスタ」と呼ばれているお昼寝の習慣をそのまま結びつけたものだが、そのココロは?
他方、第82回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』(09年)は、そのタイトルどおり奥深い瞳を通じて2つの秘密を見つめた傑作だった(『シネマルーム25』69頁参照)が、さて本作においてアンドレスの瞳を通じて見えるものは?逆に見えないものは?「軍事政権」といえば『誰がために鐘は鳴る』(43年)に描かれたスペインのフランコ政権が有名だが、アジアでもアフリカでもそして南米でもたくさんの軍事政権が生まれており、その印象はきわめて悪い。かつての軍国主義ニッポンもそうだったように自由は抑圧され密告がまかり通るため、軍事政権下では国民の声が閉ざされてしまうことになるのは当然だ。そんなアルゼンチンの軍事政権下を生きるアンドレスは、シエスタをするよりも、その瞳で何を見たいの?
<今の日本はお昼寝ばかり・・・>
第179回臨時国会最終日となった去る12月9日の参議院本会議では、一川保夫防衛相と山岡賢次国家公安委員長(消費者担当相)の問責決議案が可決されたが、その直後に2人とも続投を表明!この臨時国会でやっと平成23年度第3次補正予算や復興庁設置法案などの復興関連法案が、自公との修正協議を経て成立したが、法案成立率は約34%と平成で最低。国家公務員給与削減法案や国家公務員制度改革法案など早急に成立させるべき法案も先送りされたから、国家の財政の健全化を目指すための消費増税など、「野田どじょう内閣」では夢のまた夢?
北アフリカのチュニジアやエジプト、リビアなど中東諸国における「ジャスミン革命=アラブ革命」や、ヨーロッパにおけるギリシャ、スペイン、イタリアなどの金融危機をあげるまでもなく、世界は激動しさまざまな現実的対応を迫られている。また、3・11東日本大震災という大災害はもちろん、遂に1000兆円を超えた国の借金や円高、就職難、等々現在の日本国はまさに「日本沈没」の一歩手前にある。しかし、そんな現実をあえて見ようとせず、お昼寝だけしていれば大丈夫。そんな風に気楽に考えている日本人があまりにも多すぎるのでは?そんな危機的状況に少し風穴を開けたのが去る11月27日に投開票された大阪府知事・市長のダブル選挙だが、これによって日本人も少しは覚醒するの?
<アンドレスの瞳に映るものは?>
今アンドレスは母親のノラ(セリーナ・フォント)、兄のアルマンド(ラウタロ・プッチア)と3人で生活していたが、父親のラウル(ファビオ・アステ)とは事実上離婚状態で別居中。しかして、今ノラの家を頻繁に訪れているのは、ノラの恋人らしき男アルフレド(エセキエル・ディアス)。もっとも彼は今日もノラと何か激しく論争していたから、この男は一体何モノ?
アルフレドはノラに無理矢理何やら怪しげな荷物を預けようとしていたが、これって一体ナニ?まさか、反体制活動のための爆発物とかそんな類では?アンドレスも父親のラウルと同じように「シエスタ」をしていればそんな現実から逃避できるのだが、何でも見てやろうという気持が強いアンドレスのつぶらな瞳には次々とそんな危険な姿が見えるらしい。それはそれでいいのだが、こんな子供にそんなものばかり見せていいの?
<肝っ玉おばあちゃんの存在感に注目!>
アンドレスの母親のノラは別居状態にある夫ラウルからの仕送りが滞りがちであるうえ、恋人アルフレドとの間がギクシャクしているから、アンドレスの目にノラはいつも不安そうに映っていたはず。そんなノラがあっけなく交通事故で死んでしまう序盤のストーリーはちょっと意外だったが、それ以降にわかに存在感を増してくるのが、アンドレスを引き取った祖母のオルガ(ノルマ・アレアンドロ)。彼女は近所では「レディ・オルガ」として恐れられ、地域のあらゆる情報を手にしていたらしいが、それは一体なぜ?
本作は軍事政権による強権発動や弾圧の姿を露骨には見せないが、レディ・オルガの一挙手一投足を通じて時代そのものの不安感を観客に示し徐々にそれを増幅させていく。ノラの死亡後オルガの家に同居することになった父親ラウルの厳しい躾や、家に出入りする親戚の人たちとオルガとの言い争いの毎日には、アンドレスも兄のアルマンドもうんざり。そんなある日の夜、オルガの家のすぐ近くで起きた「拉致事件」をアンドレスが窓越しに目撃したことにより、アンドレスの気持にはある大きな変化が・・・。朝起きたアンドレスがそのことをオルガに話すと、オルガは「きっと夢を見たのよ」と一笑に付したが、何を言ってるの、あれは絶対に現実!だって、確かにボクはこの目で見たんだもの・・・。
<この男は一体何者?あっと驚く結末とは?>
旧ソ連にKGB(ソ連国家保安委員会)があり、軍国主義ニッポンの時代に特高警察があったように、軍事政権下では必ず秘密警察が大きな力を持っている。仲間たちとかくれんぼをしたりサッカーをして毎日遊んでいたアンドレスに親しげに近づいてくる男セバスチャン(マルセロ・メリンゴ)を見ると、直感的にこの男はきっと秘密警察や情報局関係の男だと感じ取ることができる。8歳や9歳の子供に世の中の動きの何がわかるの?そう考えるのも仕方ないが、8、9歳の子供だって大人たちの会話を一生懸命聞いていれば、少しずつ現実が見えるものだ。一体誰がホンモノで、誰がニセモノ?なぜ、優しかった母親ノラは死亡したの?なぜ、オルガはボクが目撃したあの現実を夢だとウソをつくの?そんなことを考え続けているアンドレスが次第に内にこもる陰気な少年になっていったのは当然だが、観客には明確にわかるそんなアンドレスの変化にオルガは気づいているの?
家にも学校にも心安らぐ場所がなくなったアンドレスは今、1人で母と一緒に住んでいた前の家にやってきていた。アンドレスはそこで母親がアルフレドから預かっていた荷物を発見したが、さて彼はこれをどのように活用するの?映画中盤以降アルフレドが消えていってしまうのと反比例するかのように出番が増すセバスチャンに、アンドレスはどのように接触していくの?オルガはこのまちのことはすべて自分が牛耳っていると考えているらしいが、今やアンドレスの瞳の中には一体どれほどの情報が詰まっているの?前半と後半ですっかり変わってしまうアンドレスの表情に注目しながら、アルゼンチンのそんな時代をしっかり考えたい。しかして、彼がラストで見せるあっと驚く行動とその結末は・・・?
2011(平成23)年12月17日記