洋11-113
「スウィッチ」 ![]()
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2011(平成23)年11月16日鑑賞<角川映画試写室>
監督:フレデリック・シェンデルフェール
ソフィ・マラテール(カナダ、モントリオール在住の女性)/カリーヌ・ヴァナッス
ダミアン・フォルジャ(殺人課警部)/エリック・カントナ
ステファニー(フォルジャの部下)/メーディ・ネブー
ドロール/オーレリアン・ルコワン
ベネディクト・セルトー(パリ在住の女性)/カリーナ・テスタ
ヴェルディエ/ブリュノ・トデスキーニ
クレール(雑誌編集者)/マキシム・ロイ
2011年・フランス映画・100分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<設定は同じ「ホーム・エクスチェンジ」でも、彼我は?>
あなたは「ホーム・エクスチェンジ」という言葉とそのシステムを知ってる?私がそれをはじめて知ったのは、キャメロン・ディアスとケイト・ウィンスレットが共演した映画『ホリデイ』(06年)で。そこでは、ロンドンの自宅とロサンゼルスの自宅を2週間の期間限定で「ホーム・エクスチェンジ」した2人のヒロインがそれぞれ充実した時間を過ごし、二者二様のアラサー女性(?)としての自己発見を実現!(『シネマルーム13』14頁参照)
そんな『ホリデイ』を観れば、なるほど「ホーム・エクスチェンジ」もいいものだとつい考えてしまうが、カナダのモントリオールに住む女性ソフィ・マラテール(カリーヌ・ヴァナッス)が、「switch.com」というサイトを通じて、パリ在住の女性ベネディクト・セルトー(カリーナ・テスタ)と「ホーム・エクスチェンジ」をした本作『スウィッチ』では?
<お勧めの8月のパリで、本当に生まれ変われるの?>
本作のヒロインであるソフィ・マラテールを演ずるカリーヌ・ヴァナッスは日本ではなじみの薄い女優だが、数々の賞を受賞した1983年生まれの有望株らしい。たしかに、ストーリー展開の中で一瞬大胆に見せてくれるヌード姿は魅力的だが、私には顔にそばかすが多いのが少し気になる。前日に観た『サラの鍵』(10年)で成人したサラを演じた女優がものすごい美人だっただけに、この程度の美貌では、モントリオールでファッション・イラストレーターの仕事をしていても、よほどの才能に恵まれなければ、「恋にも仕事にもバラ色の人生」といかないのは仕方ないところ?
映画冒頭、ソフィが自らバイクを駆って自分の書いたイラストを出版社に持ち込む姿が描かれるが、雑誌編集者のクレール(マキシム・ロイ)から「出版社の手違いで担当者に会えない」と言われると、すごすごと引き下がるしかないのだから、ファッション・イラストレーターと名乗ってもそんな仕事は屁みたいなもの?そんなソフィを哀れんだクレールから誘われた昼食時に、「switch.com」のサイトとクレールのすばらしい体験談を聞き、さらに「8月のパリはお勧めよ。生まれ変われるわ」という殺し文句によってソフィはコロリと参ってしまったわけだが、8月のパリで本当にソフィは生まれ変われるの?
<目覚めるといきなり逮捕!こりゃ一体ナニ?>
いったん決断すれば、恋人もおらず仕事もあまり順調でないアラサー女性の行動は早い。パリ7区にあるベネディクトのアパートには外観も内装も立派だったから、ソフィは大満足。そして、到着したその日のパリ観光が最高なら、公園で電話番号をゲットしたハンサムなイラン人男性もステキ。さらに、ライトアップされた美しいエッフェル塔を見ながら、ベジタリアンのソフィがパリで仕入れた野菜で自ら作った料理を味わうのも最高。
まさに「8月のパリはお勧めよ。生まれ変われるわ」だったが、なぜか翌朝のベッドの中では頭痛と嘔吐で体調は最悪。「こんな時はシャワーが1番」とばかりに浴室でシャワーを浴びていると、いきなり轟音とともに玄関が破壊され、突入してきた警察官によってソフィは後ろ手に手錠をかけられて逮捕。こりゃ一体ナニ?
<ちょっと「出来すぎ」では?>
舞台はソフィが住んでいたモントリオールの自宅から、パリ7区にあるベネディクトのアパートへ。ソフィは「ホーム・エクスチェンジ」によってベネディクトのアパートに昨日入って1泊したばかり。そこで、頭部のないトマ・ユイゲンスの死体が発見されたとしても、自分のパスポートを見せて私はモントリオール在住のソフィ・マラテールだということを殺人課のダミアン・フォルジャ警部(エリック・カントナ)に説明すれば、濡れ衣を晴らすことは可能。いきなりの逮捕には驚かされたが、それでもソフィは当初そのように考えていたはずだ。
私は2000年8月3日にはじめて1人で飛行機に乗って中国の大連に行ったが、「もし夏休みで故郷の大連に帰っている中国人留学生が迎えに来てくれなかったら・・・」と少し不安だったことをよく覚えている。したがって、いくらフランスに住んだことがあるためフランス語は達者であっても、異国の地でこんな事態になればそりゃ大変。
ところが、フォルジャ警部の言葉によれば、ベネディクト名義のパスポートにはソフィの写真が貼ってあるうえ、凶器とされたナイフにはソフィの指紋が。さらに、飛行機の乗客名簿にソフィの名前はないうえ、「switch.com」などというサイトはどこにも存在しないらしい。こうなりゃソフィは虚妄癖を持った精神病患者と疑われても仕方ないが、そうだ、モントリオールに住むクレールや母親のマリアンヌに連絡して調べてもらえば決着がつくはず。ソフィのそんな主張に一応フォルジャ警部は耳を傾けて捜査してくれたが、その結果は?
スクリーン上にはサングラスをかけてパリの空港からモントリオールへ降り立つベネディクトらしき女が登場するから、ベネディクトが実在する人物であることは明らか。すると、ソフィの頭に瞬間的にひらめいたように、これはすべてベネディクトの策謀?つまり、ソフィはベネディクトによってハメられたの?しかし、こんなことってホントにあるの?映画はつくりものの世界だからいろいろな想定、設定が可能だが、いくら何でもこりゃちょっと出来すぎでは?
<中盤の見どころは、「走る走る!」の攻防戦?>
もともとフランス映画は90分~100分とコンパクトな作品が多いうえ、最近のフランス映画の刑事モノやサスペンス映画のアクションはスピーディーなものが多い。しかし、本作はかわいいソフィが主人公だから、アクションとは無縁。そう思っていたが、精神病院送りになるかどうかの瀬戸際に立たされたソフィは、医師にナイフを突きつけてこれを人質として、フォルジャ警部から拳銃を拠出させて見事に病院を脱出!その後も、こりゃファッション・イラストレーターよりも女探偵業の方が向いているのでは、と思うような手際の良さで、車を運転する日本人女性から現金とキャッシュカードを奪ったり、雑貨店に入って服を着替えるとともにこれからの行動に不可欠なプリペイド式ケータイを購入したりしたうえで、安ホテルに潜入。すぐにテレビでは殺人犯の若い女が警察の拳銃を奪って逃走したというニュースが顔写真とともに流れるはずだから、警察に通報されるのは時間の問題だが、その短い時間内にソフィは一体何を?
それは、自分の力で自分の無実を証明すること。こんな事態に至っては、有罪は検察側が立証すべきで、それまでは無罪の推定が働くなどと悠長なことを言ってられないのは当然だ。そのために、ソフィはとっさの機転でフォルジャ警部から拳銃を拠出させて逃走したわけだが、ケータイを使ってクレールに電話しても全く電話は通じない。さらに、母親に用心深くモントリオールの自宅を調べてくれと依頼したところ、自宅の中に入ったらしい母親との通話が突然途切れ、いくら呼び出しても母親の声が聞こえなくなったから、大変。もちろんソフィにはモントリオールの自宅での出来事は見えないが、フレデリック・シェンデルフェール監督は私たち観客にはその様子をしっかり見せてくれるから、ここでもベネディクトという女性の猟奇性が深まるばかりだ。
そんなこんなの独自調査(?)を続けていたソフィは、ある日ベネディクトの母親の家の周辺をうろついていたところをフォルジャ警部に発見されたから、大変。本作では、そこから見せるアラサー女性ソフィの「走り」が見どころとなる。とにかく、ソフィは走る走る。その結果、必死でソフィを追跡したフォルジャ警部はソフィから再び黒星をもらうことに・・・。
<ラストに向けては猟奇色でいっぱいに・・・>
キャメロン・ディアスとケイト・ウィンスレットが共演した『ホリデイ』は楽しい前向きの映画で、「ホーム・エクスチェンジ」もいいものだと思わせてくれたが、本作はラストに向けて「ホーム・エクスチェンジ」など絶対にするものではない、ということを強烈に教えてくれる。本作では前半から折に触れてベネディクトの奇怪な行動がスクリーン上に登場していたから、後半にはトマ殺人事件の犯人捜しと、なぜ「ホーム・エクスチェンジ」によってソフィを犯人に仕立てあげようとしたのかの種明かしが始まることが見えているが、後半からラストにかけてその展開は急ピッチになるから要注意。しかも、そこには人工授精による妊娠問題や、現在大きな問題として新聞紙上を賑している中国による(?)ハッカー攻撃などの問題が次々と浮上してくるから、その展開についていくのは大変だ。
ソフィの家の中のベッド上に死亡したトマの頭部だけが血まみれで飾られているシーンを見ると思わずゾッとするし、ベネディクトの暗い過去が少しずつ暴かれていくストーリー展開はまるで、横溝正史が小説『八つ墓村』や『犬神家の一族』などで描いた「おどろおどろしい世界」を見ているように、猟奇色がいっぱいかつ重くて暗い。「8月のパリはお勧めよ。生まれ変われるわ」というクレールの殺し文句によってソフィは軽く「ホーム・エクスチェンジ」に及んだわけだが、そのクレールはもちろんソフィの母親もベネディクトによって殺されてしまう展開の中、ソフィの命は?警察もとことんバカではないということが途中から見えてくるのがせめての救いで、その結果ラストは悲劇的な結末ではないだろうと推測できるが、とことん猟奇色が深まっていく中で迎えるクライマックスは・・・?
2011(平成23)年11月18日記