日08-141

ザ・マジックアワー」 
            

                 2008(平成20)年5月14日鑑賞<東宝試写室>

監督・脚本:三谷幸喜
村田大樹(だまされる男、売れない俳優)/佐藤浩市
備後登(だます男、クラブ「赤い靴」支配人)/妻夫木聡
高千穂マリ(惑わす女、天塩の愛人)/深津絵里
鹿間夏子(尽くす女、クラブ「赤い靴」事務員)/綾瀬はるか
天塩幸之助(牛耳る男、天塩商会社長)/西田敏行
長谷川謙十郎(振り回される男、村田のマネージャー)/小日向文世
鹿間隆(動じない男、クラブ「赤い靴」のバーテンダー)/伊吹吾郎
黒川裕美(怖い男、天塩の腹心)/寺島進
江洞潤(のし上がる男、江洞商会のボス)/香川照之
マダム蘭子(厚化粧の女、港ホテルの女主人)/戸田恵子
2008年・日本映画・136分
配給/東宝

<期待どおり、いや期待以上の三谷映画!>
 三谷幸喜の監督作品としての『ザ・マジックアワー』は、『ラヂオの時間』(97年)、『みんなのいえ』(01年)、そして『THE 有頂天ホテル』(06年)に続く4作目。私は1作目と2作目は観ていないが、3作目の『THE 有頂天ホテル』を観て、「『これぞ、三谷演出、三谷脚本!』と言うべき、一流のエンタテインメント映画」と大絶賛した(『シネマルーム9』288頁参照)。
 その前に私が観た三谷作品は、彼が原作・脚本を書いた『12人の優しい日本人』(91年)と『笑の大学』(04年)。前者は裁判員制度の具体的構想も出ていないのに、1991年の時点でよくぞこういう挑戦ができたものと大いに感心したもの。また後者は、「絶妙の『2人芝居』に笑いころげながら、ラストに近づくとなぜか涙が・・・。こんな映画、最高!」と絶賛したものだった(『シネマルーム6』249頁参照)。
 このように、『笑の大学』と『THE 有頂天ホテル』を観て三谷作品の面白さにハマっていたから、『ザ・マジックアワー』を大いに期待していたが、その感想は期待どおり、いや期待以上!

<舞台は守加護(すかご)!注目は各種セット!>
 おしゃれで洗練されたこの映画の舞台は、ミナト横浜をイメージした港町の守加護。そして注目は、映画の冒頭に映し出されるクラシックな港ホテルを中心としたメインストリートとそこに立ち並ぶビル群。
 その第1が港ホテルだが、その他、第2にだます男こと備後登(妻夫木聡)が支配人を務めているクラブ「赤い靴」であり、第3に牛耳る男ことギャングのボス天塩幸之助(西田敏行)の根城「天塩ビル」であり、第4にだまされる男こと売れない役者村田大樹(佐藤浩市)が映画『暗黒街の用心棒』を観るために何度も入っていく「港シネマ」。そして第5に、再三激しい銃撃戦(?)がくり広げられる、ヤクザ映画の舞台には欠くことのできない波止場。
 各種ニックネーム(?)が面白い、個性豊かな登場人物たちをより一層引き立てるのがこんな各種セット。美術担当の種田陽平以下のスタッフがどんな思いを込め、いかにしてこんなセットをつくり上げていったのかはエンディングの中で「再現」される。したがってこの映画に関しては特に、クレジットが流れ始めると同時に席を立つという最悪の行動を決してとらないように!

<なぜか「痴話ゲンカ」からスタート・・・>
 落語も映画も冒頭の「つかみ」が大切。見事な出来ばえのセットの中心にあるのは港ホテル。今そのホテルを、黒塗りの車で乗り付けた怖い男こと黒川裕美(寺島進)率いるギャングたちが急襲!不用心にも(?)2階の窓を開けベランダに出てきた女は、惑わす女こと高千穂マリ(深津絵里)。そしてベッドの中には、クラブ「赤い靴」の支配人備後が。マリは天塩の愛人であるにもかかわらず、ボスの目を盗んで若くてハンサムな備後とイチャイチャしていたわけだ。
 そんな情報を握った天塩は嫉妬に狂いながら2人の密会現場を押さえるべく、手下たちに急襲させ、それが成功。天塩の尋問(?)に対して、マリは謝ったり、居直ったりと変幻自在だが、それだけで天塩の怒りが収まることはなかった。ところが、備後は「伝説の殺し屋」デラ富樫(とがし)と知り合いだということを武器に、うまくその場を切り抜けることに大成功。そこで成立した条件は、5日以内にデラ富樫を天塩の前に連れてくるということだ。
 三谷監督作品4作目は、世間によくあるこんな痴話ゲンカから入っていくが、キーパーソンはデラ富樫。備後はデラ富樫を連れてくることに自信満々だが、「ところで、デラ富樫って誰・・・?」と備後がマリに質問するに及んで、マリはもちろん観客も唖然!だます男備後の度胸は天性のもの?それとも、単に行き当たりばったり・・・?

<佐藤浩市が新境地を!>
 私が最近観た佐藤浩市の映画は、『壬生義士伝』(03年)、『亡国のイージス』(05年)、『THE 有頂天ホテル』『雪に願うこと』(06年)、『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』(07年)。そしてずっと昔は、西田敏行と共演した『敦煌』(88年)。『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』では彼のジャパニーズ風英語の発音が目についた(耳についた)ことを指摘した(『シネマルーム16』14頁参照)が、彼の演技力はどの映画を観てもさすがと感心させられるものばかり。
 その佐藤浩市が、『ザ・マジックアワー』では喜劇俳優としての素質を開花!チャップリンが喜劇王と呼ばれたのは、今ドキのアホバカバラエティーのように、決してギャグで観客を笑わせようとせず、あくまで真面目な演技をすることによって自然に観客の笑いを呼んだため。そして佐藤浩市は、この映画でまさに喜劇王チャップリンと肩を並べるような(?)喜劇俳優としての新境地を!
 『恋におちたシェイクスピア』(98年)や『王の男』(05年)など劇中劇の映画が面白いのはよく練られた脚本のせいだが、それはこの映画も同じ。そして、「だまされる男」を真面目に演ずれば演ずるほど、観客が笑いに包まれるから面白い。そんな佐藤浩市の魅力を引き出した三谷演出は、お見事!

<備後はどこまで騙せるの・・・?>
 この映画では「まるで映画のような・・・」というセリフが再三使われる。また、村田が憧れる映画『暗黒街の用心棒』の主演スター谷原章介の、「俺は死ぬことは恐くない。ただ意味もなく生きていくことが恐い」というカッコいいセリフも再三登場する。デラ富樫が伝説の殺し屋、つまり誰も顔を見たことがない男だということを活用して、映画のように天塩を騙そうと考えた備後の頭は天才的!そこで、それに最適の映画スターを探してみると、いるいる、わが国にはそんな下っぱ俳優がゴマンといるわけだ。
 村田が演ずるのは伝説の殺し屋デラ富樫。その最初のシーンは天塩との初顔合わせだが、もちろんそこには脚本もなければ、用意されたセリフもなしのぶっつけ本番。あるのは、俳優に意識させないため、遠くから望遠で撮影しているというカメラのみ・・・?
 こんな状況下で、監督の備後がデラ富樫を演ずる村田の付添人として天塩との面会を果たすという最初のシーンの撮影(?)が始まったが、さて備後はどこまで村田を騙せるの・・・?そしてまた、どこまで天塩や黒川を騙せるの・・・?

<中井貴一、天海祐希、鈴木京香、唐沢寿明らの出演シーンは・・・?>
 『ザ・マジックアワー』は三谷監督作品らしく、俳優陣は超豪華。だって、佐藤浩市、妻夫木聡、西田敏行、深津絵里ら以外にも、中井貴一、天海祐希、鈴木京香、唐沢寿明らが出演するのだから。もっとも、これだけのオールスターがフルにスクリーンを飾ると、かえって焦点がボケてしまうのでは・・・?三谷作品に限ってそんな心配は無用。だって、これらの主演級スターの登場は、映画の中の映画のスターであったり、映画の中で撮影している映画のスターだから。したがって、登場するのはワンシーンだけ。
 佐藤浩市が下っぱ俳優として天下の大スター中井貴一のスタントを演じるというシーンは現実にはありえない話だが、そんなシーンがなぜ実現・・・?また、雨の中のワンシーンだけ使ってもらえた佐藤浩市の演技が気に入らないのが、ある映画の主演俳優の唐沢寿明。そこで彼は一体どんなワガママを・・・?もちろん、これも現実にはありえないお話・・・。
 他方、これらの映画スターが偉そうに振るまえるのは、映画製作を支えるたくさんのスタッフがいるから。そこで、『ザ・マジックアワー』に見る映画づくりには、「これぞ活動屋!」というベテランの製作スタッフ3人が登場する。さらに、守加護でCM撮影をやっている、ちょっと間抜けな(?)撮影隊も登場するから、それにも注目!ちなみに、備後が映画撮影のために使用するカメラは、一体どこから調達したもの・・・?

<『キサラギ』、『アフタースクール』VS『ザ・マジックアワー』>
 騙しをテーマとした映画には、監督が観客を騙すことをテーマとしたタイプと、騙しのネタをあらかじめ観客に示しておき、登場人物たちが騙される姿を観客が楽しむタイプの2通りがある。そして、佐藤祐市監督の『キサラギ』(07年)や内田けんじ監督の『アフタースクール』(07年)は前者であり、『ザ・マジックアワー』は後者。
 『キサラギ』は、「アイドル如月ミキは殺された!」という問題提起をめぐって5人の男たちが怒濤の推理を進めていく中で、思いがけない展開をタップリと楽しみながら、観客は騙されっぱなし・・・。また『アフタースクール』も、同級生をテーマとして二転三転、四転五転していくストーリーは騙しの連続で、結局観客は騙される快感を楽しむことに・・・?
 これに対して、三谷演出による『ザ・マジックアワー』は騙しの張本人は備後だが、騙す側と騙される側はあらかじめ観客に明確に示されている。したがって、絶妙のタイミングで、騙すシーンその1、騙すシーンその2、騙すシーンその3と積み重ねられていくストーリーを、笑いながら楽しむことができるから、ある意味気楽。だって、『キサラギ』や『アフタースクール』のように、身構えながら、誰が誰にどんなウソをついているのかと頭を働かせる必要はないのだから・・・。
 そんなタイプの騙し映画でポイントとなるのは、騙す側以上に騙される側の俳優の演技力。その最大の被害者は村田と村田のマネージャーである長谷川謙十郎(小日向文世)だが、天塩と黒川の被害(?)も大。さらに面白いのは、騙されているはずの村田が備後と共に、天塩のライバルである「のし上がる男」こと江洞潤(香川照之)を騙すシーン・・・。
 騙す側と騙させる側に分かれた名優たちの、腹を抱えて笑わされる真剣な演技をタップリ堪能したいものだ。
                               2008(平成20)年5月16日記