日08-115

「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」

                                       

                 2008(平成20)年4月16日鑑賞<東宝試写室>

監督:樋口真嗣
脚色:中島かずき
武蔵(たけぞう)(山名の民)/松本潤
雪姫(秋月の姫)/長澤まさみ
真壁六郎太(秋月のサムライ大将)/阿部寛
新八(山名の民)/宮川大輔
長倉和泉(秋月家の城代家老)/國村隼
鷹山刑部(山名のサムライ大将)/椎名桔平
本庄久之進(山名・秋月間の関所を守るサムライ)/高嶋政宏
佐川伝兵衛(山名のサムライ)/甲本雅裕
バクチ打ち/生瀬勝久
人買い/古田新太
みつ/黒瀬真奈美
宿場襲撃隊隊長/上川隆也
刑部付きのサムライ/KREVA
軍資金掘のサムライ/ピエール瀧
2008年・日本映画・118分
配給/東宝

<その心意気や、よし!>
 この映画の台本の1ページ目には、樋口真嗣監督自ら記した言葉があったらしい。プレスシートの監督インタビューのページには、そんな1枚の紙が載っている。そこには、「面白い奴らをつくろう!面白い場所をつくろう!それを面白く撮りまくろう!それを面白く仕上げよう!最高に面白い映画をみんなに見せてやろう! 樋口真嗣」という力強い肉筆が。
 この言葉をみれば、監督のこの作品に賭ける想いと決意がほとばしり出ていることがよくわかる。そりゃ、黒澤明監督と三船敏郎のコンビによる1958(昭和33)年の『隠し砦の三悪人』を50年ぶりにリメイクするのだから、そのプレッシャーが大きかったのは当然。そんな、樋口真嗣監督の心意気や、よし!

<脚色は一新!>
 森田芳光監督がリメイクした『椿三十郎』(07年)は、1962(昭和37)年の「黒澤+三船版」の脚本をそっくりそのまま踏襲するという試みだった。しかし樋口監督は、『隠し砦の三悪人』をリメイクするにあたっては、旧作を十分意識しながらも全く新しい冒険活劇を目指した。そのために最も大切なことは脚本づくりだが、「劇団☆新感線」の座付き作家である中島かずきが脚色家として参加したところがユニーク。
 黒澤版『隠し砦の三悪人』は、三船敏郎が主役として定着しているが、樋口版『隠し砦の三悪人』の主役は真壁六郎太を演じた阿部寛ではなく、全く新しいキャラクターの武蔵(たけぞう)。時代劇といえば本来主役はサムライと決まっているが、武蔵は山名の民だが、金掘り師(=金を掘る坑夫)としてこき使われていた名もなき庶民だ。そんな一庶民を主役に引き上げたところが、いかにも「劇団☆新感線」の座付き作家中島かずきらしい発想。そんな武蔵を演ずるのは「嵐」の松本潤だが、さて彼はどんな演技と存在感を・・・?

<時代背景は、ミニ「三国志」・・・?>
 今年秋には、構想18年、製作費100億円という呉宇森(ジョン・ウー)監督の『レッドクリフ』(08年)が登場する。これは魏の曹操と蜀の劉備+呉の孫権連合軍との間で戦われた208年の「赤壁の戦い」を描くものだが、その時代背景は3世紀はじめ、諸葛孔明がたてた「三国鼎立の計」によって魏・呉・蜀に分かれた三国志の時代。
 他方、『隠し砦の三悪人』は戦国時代。そしてその舞台は、「どことはつかぬこの地」とあえてぼやかされている。しかし、「長きに渡り早川・山名・秋月の三国が、それぞれ特徴ある地勢に応じてひしめき合っていた」とあるから、早川・山名・秋月をあえて魏・呉・蜀にあてはめてみると・・・?
 まず、「三国の中で唯一海に面しており、富み栄える豊かな大国」早川は、長江を擁する豊かな呉の国とそっくり。つぎに、「内陸にある小国」秋月は、長く苦しい戦いの末にやっと劉備玄徳が打ち立てた小国蜀の国。そして、「山間にある風土共々気質の荒い国。自国の資源を吸い尽くし、大国・早川攻略のためにまず、豊かな金鉱を持つ小国・秋月を滅ぼす」山名は、曹操率いる国威揚々たる魏の国といったところだろう。
 もっとも、『隠し砦の三悪人』はあくまで冒険活劇モノだから、それ以上の歴史には立ち入らず、まずは、山名が秋月を滅ぼしたところから物語はスタート。

<ワイルドで知的な長澤まさみに拍手!>
 この映画に『THE LAST PRINCESS』というサブタイトルがついていることに、私は当初違和感を覚えていた。しかし鑑賞後は、雪姫(武蔵にとっては単なる雪)を演ずる長澤まさみの存在感が光っていたから、それに納得。
 いくらキレイで魅力的な女優でも、時代劇のお姫サマ役で登場すると魅力が半減してしまうケースが多い。これに対して、キレイな女優さんがあえてワイルドな衣装で顔を汚し、ヘアスタイルもいろいろ変化させると、その魅力が一層発揮されることが多い。『隠し砦の三悪人』で「プリンセス雪」を演じた長澤がまさにそれ。汚れた衣装ながら、ヘアスタイルやメイクとバッチリかみ合わせた長澤のワイルドな魅力が満開だ。
 さらに、単なるお飾りとしてのお姫サマではなく、秋月の血をひく自分が生きて早川に脱出することの意義をはっきり理解し、状況に応じて明確に自分の意思を示していく姿も立派。これは秋月家の知恵袋と言われた城代家老長倉和泉(國村隼)の教育よろしきを得たためだろうが、苦難が続く中その教えを実践しているのは立派なもの。
 ①強いばかりの六郎太に対して柳としての自分の役割を諭してみたり、②サムライは民を騙してばかりだという武蔵の意見に耳を傾けたり、③頭ごなしに命令するのではなく、率直に協力を要請したり、19歳にしてこんなリーダーシップを発揮している雪姫なら、きっと女性初の大統領になれるのでは・・・?そんなワイルドで知的な長澤まさみに拍手!

<登場人物のキャラが命!>
 黒澤+三船版『隠し砦の三悪人』が50年ぶりにリメイクされたのは、ストーリーの面白さはもちろんだが、『椿三十郎』と同じく登場人物のキャラが際立っているため。つまり、登場人物のキャラが命!というわけだ。
 まず武将対決は、阿部寛扮する秋月のサムライ大将真壁六郎太と椎名桔平扮する山名のサムライ大将鷹山刑部だが、そのユニークな衣装を含めたキャラ対決は・・・?次に、中島かずき脚色で生み出された面白いキャラが、山名の民である武蔵とひょんなことで武蔵と行動を共にすることになった新八(宮川大輔)。2人とも時代や権力に対して不満をもつ若者だが、新八は酒・金・女に目がなく、欲がらみだけで生きようとする現実主義者であるのに対し、感受性の強い武蔵はすべての問題に真正面からぶつかっていくタイプ。そのためトラブルも多いが、雪(姫)との恋の芽生え(?)をはじめとして、やることなすことすべてに大きな意味が生まれそう・・・?また、魅力的な雪姫の教育に大きく寄与した長倉和泉の忠義心は映画前半にいかんなく発揮されるから注目。
 これらの主役クラスだけではなく、脇役陣もキャラが豊か。損な役割を引き受ける(?)のは、山名と秋月間の関所を守るサムライ本庄久之進(高嶋政宏)。簡単に六郎太の策略にはまっているところをみると、こいつは頭が悪そうな上、ゲイ好みのため大失敗を・・・?また、NHK大河ドラマ『功名が辻』で主役を張った上川隆也が、宿場襲撃隊隊長として死んでいくだけの斬られ役を。その他脇役として登場する人物たちも、きっちりその個性を見せ、しっかりその役割を果たしているからお見逃しなく。

<キーワードは「裏切り御免」!>
 中国の「三国志」の時代と同様、日本でも戦国時代には権謀術策が渦巻いていたのは当然。ちなみに、支持率が極端に下落してしまった現在の福田政権下における、政治家たちのそれも同じ・・・?したがって、この映画が騙し合いに始まり、騙し合いに終わると言ってもいいほど、騙し合いのオンパレードになっているのは当然。
 山名軍の過酷な労役からうまく逃げ出した武蔵と新八が秋月の隠し金を発見したのは全くの偶然。それを咎めたのが雪姫と六郎太だったが、彼らは秋月城から脱出した長倉和泉を中心とした秋月の残党だ。彼らは雪姫を大量の隠し軍資金と共に何とか早く早川に脱出させたいと考えていたが、そこで長倉は武蔵が発案した、山名領地内をあえて「敵中突破」するという案を採用することに。もちろん、これは秋月残党軍の最高機密だから、武蔵と新八には伏せられたまま。任務が成功すれば金の分け前が半分だという説明だけで武蔵と新八はその任務に就くことに。雪姫は野伏せりの六郎太の弟という説明だから、騙しもいいところ・・・。
 近時はコンプライアンスや説明責任という言葉が大はやりだが、残念ながら実態は伴わず、かけ声ばかり・・・?したがって、戦国時代の「どことはつかぬこの地」で説明責任が果たされていなかったのは当然だが、一般的な言葉では、それは説明不足ではなく「騙し」というのでは・・・?
 そんな騙しのオンパレードの中、キーワードとなるのが「裏切り御免」。映画の中でこのセリフが使われるのは2度だけだから、しっかり注目を!そしてすべての物語が終了した後、The THREE(布袋寅泰×KREVA×亀田誠治)が歌う『裏切り御免』の主題歌をしっかり味わおう!

<巨大セットにも注目!>
 現代的なエンターテインメント作品とするためには、今やCGやVFXの活用が不可欠。しかし、それだけでは不十分で、やはり巨大セットをつくる必要性に迫られることが多い。東宝スタジオにつくられたという「山名の砦」のダイナミックなスケール感はすばらしく、この点は50年前の「黒澤+三船」版とは大違い!
 去る4月5日に死亡したチャールトン・ヘストンの出世作はセシル・B・デミル監督の1956年の大作『十戒』。ここでモーゼ役を演じたことにより、以降彼のスター・イメージを決定づけることになった。『十戒』では、聖書にある「脱エジプト記」のシーンで海が割れる特殊撮影が大きな話題を呼んだが、映画前半の、エジプトの王子であったモーゼが王のために巨大都市づくりに従事していた際の巨大土木事業のスケール感もすばらしいものだった。
 山名の砦のスケール感はそれには及ばないものの、武蔵や雪姫そして六郎太らが暴れ回るには十分なもの。「秋月の隠し砦」のシーンや「関所」のシーンなどロケーション撮影も見事だが、やはりセットを構えての大活劇はエンターテインメントの華。そのあたりも、しっかりとあなたの目で!

<次は誰がどの黒澤作品を・・・?>
 近時リメイクされた黒澤作品は、森田芳光監督の『椿三十郎』と樋口真嗣監督の『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』の2本。しかし、テレビでは既に「黒澤明ドラマスペシャル第一夜」として07年9月8日に『天国と地獄』がリメイクされた。黒澤作品にはすばらしいものがたくさんあるから、多くの人たちが次々とリメイクにチャレンジすればいいと思うが、さて次は誰がどの作品に・・・?
 ちなみに私としては、安倍内閣が唱えていた「教育再生」がポシャッてしまった(?)今、再度問題提起をするため、京大・滝川事件をモチーフに描かれた青春群像劇である、黒澤明監督の戦後最初の作品『わが青春に悔なし』(46年)を、「何を今さら!」と言わずに、誰かが新しい切り口でリメイクしてほしいものだが・・・。
                               2008(平成20)年4月17日記