洋07-304

「アメリカン・ギャングスター」
                  

          2007(平成19)年11月29日鑑賞<試写会・リサイタルホール>

監督・製作:リドリー・スコット
フランク・ルーカス(ハーレムの麻薬王、暗黒街のボス)/デンゼル・ワシントン
リッチー・ロバーツ刑事(エセックス郡麻薬捜査班の責任者)/ラッセル・クロウ
トルーポ刑事(ニューヨーク市特捜班の悪徳刑事)/ジョシュ・ブローリン
ニッキー・バーンズ(フランクのライバル)/キューバ・グッディングJr
ヒューイ・ルーカス(フランクの弟)/キウェテル・イジョフォー
ルー・トバック地方検事/テッド・レヴィン
ドミニク・カッターノ(マフィアのドン)/アーマンド・アサンテ
ジェイ・リヴェラ(リッチーの相棒)/ジョン・オーティス
フレディ・スピアマン(麻薬捜査チームの一員)/ジョン・ホークス
モーゼス・ジョーンズ(麻薬捜査チームの一員)/RZA(別名ロバート・ディッグス)
ママ・ルーカス(フランクの母親)/ルビー・ディー
ターナー・ルーカス(フランクの弟)/コモン
ネイト(フランクの従兄弟、ヘロインの販路を紹介、元米兵)
                             /ロジャー・グエンビュー・スミス
エヴァ(フランクの妻)/ライマリ・ナダル
2007年・アメリカ映画・157分
配給/東宝東和 宣伝/東宝東和

<面白さその1は、「2大スターの対決」>
 この映画の面白さは、何よりもクール(冷静+知的)で家族思いという魅力的なキャラとハーレムの麻薬王、暗黒街のボスという極悪人のキャラを兼ね備えた主人公フランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)と、警察官としての挫折、家庭生活での挫折を経ながら、エセックス郡麻薬捜査班の責任者として巨大な麻薬販売ルートの解明とそのボスの逮捕に執念を燃やす刑事リッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)との男の対決にある。
 単純なワルと単純な正義漢が理念どおりの悪と正義をぶつけて対決するストーリーはもはや時代遅れ。今やスクリーン上に登場する主人公たちの人物像には、人間らしいふくらみがなければ魅力的な映画に仕上げることは不可能。その点、この映画の2人の主人公は実に魅力的。したがって、この映画の面白さその1は、そんな「2大スターの対決」にあることは明らか。

<面白さその2は、「2大スターの対決」だけではないところ>
 それと矛盾するようだが、この映画の面白さその2は、「2大スターの対決」だけではないところにある。すなわち、フランクもリッチーも自分の内面に相矛盾する性格をもっているわけだが、「追う側」と「追われる側」も単純ではなく、その内部に二面性をもっていること。ちなみに、11月23日に観た『青島アパートの夏』(92年)は、改革開放政策に乗って、のしあがってくるヤクザまがいの経営者と旧体制維持に汲々とする共産党幹部との対決を面白く描いていたが、そこで皮肉っぽく登場していたセリフが、「敵対的矛盾」と「人民内部の矛盾」。
 この言葉をこの映画にあてはめて考えてみると、フランクとリッチーの対決はまさに敵対的矛盾だが、人民(?)内部の矛盾は、同じ追われる側にいるフランクとマフィアのボス、ニッキー・バーンズ(キューバ・グッディングJr)との矛盾であり、同じ追う側でありながら、真っ当な刑事リッチーと悪徳刑事トルーポ(ジョシュ・ブローリン)との矛盾であるわけだ。

<「実話に基づく物語」に興味津々・・・>
 冒頭に「実話に基づく物語」という字幕が流れるように、フランクもリッチーも実在の人物。そして、映画のラストには、その後のフランクとリッチーの生きザマが明示されるから、それにも注目!もっとも、映画化にあたっては、フランクもリッチーもそのキャラの特徴点が徹底され、デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウという2大俳優が要求されたとおりのキャラを実現させたのは当然。
 物語は1968年のニューヨークで、「ハーレムのロビンフッド」の呼び名で慕われていた黒人ギャングのボス、バンピー・ジョンソンが心臓発作で急死したところからスタートする。フランクは15年以上忠実な運転手としてバンピーに仕えてきた人物だが、ヘロイン販売を核とする暗黒街の支配権は一体誰の手に・・・?
 そんな切り口から始まるこの映画は、ニクソン大統領によるベトナム戦争の時代と重なっているところがミソ。さあ、実話にもとづいた興味深い暗黒街の支配とヘロインの販路を暴こうとする刑事の物語はどのように展開していくのだろうか・・・?

<フランクの新戦略は・・・?>
 どんな世界でもトップに登りつめていくためには先代の模倣や前例踏襲ではダメで、自分なりの新機軸と新戦略を打ち出していく必要がある。フランクがバンピーの後継者になれたのは、アメリカの家電量販店が日本製の安価で良質なテレビを直接メーカーから仕入れている姿に学んだフランクが、自己の事業にもそれと同じ新機軸を打ち出して実行したため。それはつまり、メーカー(製造者、生産者)との直接・大量の現金取引だ。
 フランクが、タイのバンコクに住んでいる従兄弟のネイト(ロジャー・グエンビュー・スミス)と連絡を取って直接乗り込んでいったのは、「国民党が支配するジャングルの奥深く」。販売店(?)からの直接のセールスにビックリしたのが、生産者(とはいっても、実質は生産者を支配している将軍)だが、やはりトップセールスは効果があるもの。輸送手段まできっちり確保したというフランクの話に将軍は納得し、一気に商談が成立することに。やはり何ゴトにもトップはこうでなくっちゃ・・・。

<ブルー・マジックの総元締めは・・・?>
 将軍からの直接・大量買いつけに成功したフランクだが、問題は100キロのヘロインの輸送手段。そこでのフランクの工夫は、軍人を買収し、軍用機で運ぶという何とも大胆なもの。とはいってもこれは、現在徐々に明らかになっている山田洋行のヤリ口をみても、また中国で蔓延している党や政府幹部の腐敗ぶりをみても、ある意味、人間なら誰でも思いつく当然のこと・・・?
 フランクが利口だったのは、そんな大胆なルートで、品質は2倍、値段は半額のヘロイン、「ブルー・マジック」をハーレムの麻薬市場に流通させて一大センセーションを巻き起こしながら、その元締めが誰だということを徹底的に隠したこと。仕事には誠実さが何よりも大切だという信念を貫き通す彼のビジネス哲学は、傾聴に値するもの。
 おっと、ヘロインで暴利をむさぼっているこんなマフィアの帝王を讃美するのはヤバイから、くれぐれもそうならないように・・・。

<やっぱり閉鎖会社の弱みが・・・>
 会社には定款が必要で公序良俗に反する定款は認められないから、ヤクザがヤクザ稼業を目的とした会社をつくることはありえない。もっとも、隠れ蓑としての会社はたくさんつくっているが・・・。それはフランクも同じ。
 イタリアのマフィアや中国人マフィアそして黒人たちのギャング組織は、日本のヤクザよりはるかに家族の絆を大切にするのが特徴・・・?すなわち、フランクは母親のママ・ルーカス(ルビー・ディー)にお城のような豪邸をプレゼントしたうえ、たくさんの弟たちをそこに呼び集めそれぞれに任務を与えたから、ここに強固なルーカス・ファミリーという閉鎖会社が誕生することに。
 しかし、長男が優秀でも弟や甥たちが同じように優秀とは限らず、大成功に目がくらみ、ド派手な服装をするバカな弟も続出。やはりこんな閉鎖会社では先が思いやられると思っていると、案の定、いろいろなところからボロが・・・。

<アメリカの警察には、こんなケッタイな話が・・・>
 いい世の中かどうかを単純に判断するものさしは、「正直者が報われる社会はいい社会、逆に正直者がバカをみる社会はダメな社会」ということ。その意味で、アメリカの警察はダメな社会の典型。
 今リッチーとその相棒のジェイ・リヴェラ(ジョン・オーティス)が警察内部でほされ、白眼視されているのは、ある事件の張り込み中、容疑者の車のトランク内に100万ドルもの金を発見した2人が、警察の「慣習」に従ってそれを着服することをせず、正式に申告してしまったため。そんな状況に耐えかねてジェイは麻薬に逃避していくまでになったから、まさにアメリカの警察はムチャクチャ。
 これに対して、リッチーがそんな状況から抜け出すために考えたのが、司法試験の勉強。つまり、司法試験に合格して検事になれば、こんな腐った警察を辞めることができるというわけだが、さて試験勉強の結果は・・・?

<アメリカの警察には、こんなひどい奴も!>
 中国は今、「和諧社会」の建設に向けて汚職にまみれた党や政府の幹部を次々と摘発しているが、アメリカの警察にもヤクザ以上という悪徳警察官がいるようだ。それが、ニューヨーク市特捜班のトルーポ刑事(ジョシュ・ブローリン)。トルーポ刑事が警察の権力と警察手帳を最大限悪用して、どんな悪事を働いているか、それはこの映画の中でじっくりと確認してもらいたい。そんな姿をみていると、防衛省の守屋武昌前次官と山田洋行の宮崎元伸専務によるゴルフや飲食接待などは、チョロイもの・・・?

<新たに麻薬捜査班を編成!>
 1960年代後半から70年代にかけた時代のアメリカにおける犯罪捜査システムは私にはよくわからない。そして、検察官のルー・トバック(テッド・レヴィン)指揮のもとに、新たな麻薬捜査のためにエセックス郡麻薬捜査班が設立されると聞くと、なおさらよくわからなくなってしまう。ルー検事が言うには、このチームは賄賂を一切受けとらない警察官だけで編成するというからそれも変な話・・・。
 すると、その責任者に就任したリッチーが最初にやらなければならない仕事は、一切賄賂を受けとらないという基準に適合し、かつ巨大な麻薬ルートの元締め摘発に意欲を燃やす警察官の募集だが、それって、一体どれくらい集まるの・・・?

<やはり、目立つのはダメ!>
 男の三大満足は、金と権力と美女だ(?)が、今やその3つとも手に入れ、ニューヨークの暗黒街でひっそりと(?)君臨しているのがフランク。美女とは、元ミス・プエルトリコのエヴァ(ライマリ・ナダル)で、フランクの家族の祝福を受けて豪邸の中で生活しているエヴァは今や完璧にルーカス・ファミリーの一員。
 そんなエヴァからプレゼントされたハデな毛皮のコートを着て、1971年3月8日に開催されたジョー・フレージャー対モハメッド・アリの世界ヘビー級タイトル・マッチのリングサイドに恋人同伴で臨んだのが、フランクの一大チョンボ。なぜなら、有名芸能人や裏社会のお偉方が集まるこの会場に、カメラ持参でチェックにやってきたリッチーの目に、はじめてフランクの姿が映り、「こいつこそ本命!」と覚らせることになったのだから。やはり、目立つのはダメ!

<ベトナム戦争が終われば・・・?>
 ベトナム戦争が始まったのは1959年だが、1960年代後半ベトナム戦争反対の世論の高まりと南ベトナムの劣勢から敗北への方向性が鮮明になるにつれて、フランクの輸送手段は次第に怪しくなってきた。つまり、ベトナム戦争が終わり米軍が撤退すれば、軍用機によるヘロインの空輸が不可能になってしまうわけだ。これにはさすがのフランクも焦ったよう。そこで、彼は自らタイへ乗り込み、2000キロのヘロイン輸送の指揮を直接とることに。
 しかし、既にこの頃にはリッチーへの捜査の手は迫ってきており、捜査班はヘロインを隠匿して輸送してくる軍用機を特定していたから大変。さあ、最後の軍用機のどこに大量のヘロインが隠匿されているのだろうか・・・?手に汗握るこの攻防戦は、2時間37分の長編映画のハイライト!

<栄光の日々は・・・?>
 この映画は、デンゼル・ワシントン扮する麻薬王フランクがあまりにカッコ良すぎるため、思わずこの映画を観た人に悪影響を及ぼすのではないかと心配してしまうほど。それほどフランクは知的で家族思いそして禁欲的。しかしよく考えてみれば、所詮フランクはワルの総元締めであり、フランクがわが世の春を謳歌するほど、ハーレムの下層階級の人々はヘロインの被害を受けていることになる。したがって、そんなルーカス・ファミリーの栄光の日々がいつまでも続いていいはずはない。
 ちなみに、私が愛媛大学法文学部の「都市法政策」の講義で紹介した面白い本が、村上龍の『あの金で何が買えたか』(1999年、小学館)。これは土地バブルの崩壊→金融機関やゼネコンの危機→公的資金の投入が相次ぐ中、何千億円、何兆円、何十兆円という金額の価値と意味を国民にわかりやすく示そうとした面白い本。それによると、「タイ、ラオス、ミャンマー国境に広がる黄金の三角地帯は世界のヘロインの70%にあたるとも言われるケシの大産地」だが、この黄金の三角地帯のヘロイン1年分を破棄する費用がわずか2000億円とのこと。つまり、末野興産の負債総額6000億円は、①朝日新聞全面広告10年分1095億円、②オリンピックを個人で開催2028億円、③黄金の三角地帯麻薬2000億円でも、まだおつりが877億円くるというわけだ。
 フランクが直接・大量に現金で買いつける金額がいくらかわからないが、それによってアメリカにヘロイン中毒という重大な問題が発生する以上、日本政府が2000億円投入して先にヘロインを全部買いとってしまえばいい、と私は思うのだが・・・。
 リドリー・スコット監督はさすがにそこらのツボをきっちり押さえたうえで、この長編映画の結末をつけている。しかし、それでもやはりデンゼル・ワシントン扮するフランクのカッコ良さは際立っているのでは・・・?

<アカデミー賞レースは・・・?>
 監督がリドリー・スコット、そしてデンゼル・ワシントンとラッセル・クロウの共演というだけで、この映画がアカデミー賞レースに名乗りを挙げるのではと多くの人が予測するのは当然。マスコミ各紙はこぞってそのような評価をしている。しかして、私の予想は・・・?
 ズバリ、オスカーノミネートの可能性は高い!とみた。とくに作品賞、監督賞、主演男優賞のノミネートは固いのでは・・・。
                               2007(平成19)年12月12日記