日07−22

「口裂け女」
                      

            2007(平成19)年2月1日鑑賞<角川ヘラルド試写室>

監督:白石晃士
山下京子(小学校教師)/佐藤江梨子
松崎昇(京子の同僚の教師)/加藤晴彦
松崎タエコ(口裂け女、松崎昇の母親)/水野美紀
佐々木美佳(京子の担任している生徒)/桑名里瑛
佐々木真弓(美佳の母親)/川合千春
田村夏樹(美佳の親友)/桑江咲菜
田村秀雄(夏樹の父親)/松澤一之
田村早織(夏樹の母親)/坂上香織
吉田和子/滝沢涼子
久保刑事/柳ユーレイ
トルネード・フィルム配給・2006年・日本映画・90分

<27年前の「都市伝説」が今・・・>
 プレスシートによれば、「口裂け女」の伝説がはじめて新聞報道されたのは、「1979年1月26日付の岐阜日日新聞」とのこと。そしてそれが発端となり、「早くも3月には『週刊朝日』が取り上げるまでに噂が広がり、6月頃には日本中を席巻する『社会現象』までになった」とのこと。さらに、「週刊朝日の記事によると、最初に口裂け女が目撃されたのは78年12月初旬。場所は岐阜県加茂郡八百津町の農家で、老婆が母屋から離れた便所に行くと、物陰に立っていた女が振り向いた。その女は口が耳元まで裂けていたという」とのこと。
 1979年1月26日といえば、私のちょうど30歳の誕生日。そして1979年は私が独立して事務所を持った年だから、当時の私はそんな噂にかまけている暇などあるはずがない。したがって、そんなつまらない噂があることは知っていても全く興味を持たなかったが、それから27年後の2006年、まさかそれが映画になろうとは・・・?
 ちなみにプレスシートによると、「口裂け女」を映画化しようとする企画は過去何度も持ち上がったが、どれも直前で「ある事情」により中断していたらしい・・・。その「ある事情」とは一体ナニ・・・?そんな禁断の封印を破ったのは一体なぜ・・・?そして「口裂け女」とは一体何者・・・?またそんな女が「ワタシ、キレイ?」とささやきかけるのは一体なぜ・・・?

<まさに驚きのキャスティング・・・?>
 ホラー映画嫌いの私は、最近試写室の日程が立て込んでいることもあって、『口裂け女』に行くつもりはなかったのだが、やはり観てみようという動機づけになったのは、何といっても佐藤江梨子と水野美紀という2人の美女が出演していること。もう1人の主演者、加藤晴彦も実力派俳優との触れ込みだが、悪いが彼には全然興味なし・・・。
 プレスシートによれば、水野美紀から「『口裂け女の役であれば出演したい』と逆オファーがあった」とのことで、「そこから急遽、更に台本に修正が加えられてゆき、現代版の口裂け女伝説を誕生させ」たとのこと。今や造形の技術はどんどん精密になっているから、「女がマスクを取ると、その口は耳まで大きく裂けている」という顔は、どのようにでも造り出すことができるのだろうが、興味はまさに水野美紀の口裂け女ぶり。さて、スクリーン上に登場するその姿は・・・?

<よく工夫された脚本に感心・・・>
 「口裂け女」伝説を映画化しようと思っても、ストーリーの固まった昔の寓話のように定説があるわけではないから、脚本づくりが大変な苦労になるはず。そんな困難な作業をしたのが、ホラー映画期待の新鋭白石晃士監督と、2001年より白石晃士監督のスタッフとして参加している脚本家の横田直幸で、1年間何度も練り上げてやっと完成させたとのこと。まず、舞台はどことは特定されていないが、「かつて口裂け女の噂が発生した郊外のベッドタウン静川町」という設定。したがって、そのイメージは多分岐阜県加茂郡八百津町・・・?
 2006年の今、その静川町になぜか、再び口裂け女の噂が広まっていた。1979年の都市伝説が再び甦ってきたとすれば、その間27年間の年月が流れたことになるが、脚本づくりにおいてはその空白をどう繋ぐのかが第1のポイントになる。そして、この映画の成否のカギを握るのは、水野美紀が逆オファーしてきたという口裂け女の口裂けぶりとファッションそして手に持ったハサミなどの視覚効果が、観客にどの程度のインパクトを与えるのかということ。その点、この映画の脚本の工夫は立派なもの・・・。

<ホントにさらわれた!>
 今では北朝鮮による日本人拉致問題は大問題となり、国をあげて取り組むべきテーマとなっている。しかしひと昔前は、現実に行方不明者・失踪者が出ているにもかかわらず、「拉致被害者はいない」と明言していた某政党があり、某政治家がいたほど・・・。
 そう考えると、1979年の口裂け女伝説も噂にすぎなかったのかどうかは謎(?)だが、今回は違う!なぜなら、小学生の男の子3人が、口裂け女を見るために(?)公園で見張っていたところ、ホントに口裂け女が登場し、1人の男の子がさらわれるという被害が発生したのだから。小学生とはいえ、はっきり目撃した証人が2人もいるのだから、口裂け女によるものか、それとも口裂け女に変装した人物によるものかは別として、刑法第224条の未成年者略取・誘拐罪に該当する犯罪と判断し、久保刑事(柳ユーレイ)担当として、警察が捜査を始めたのは当然。
 残された2人の友人が見た誘拐犯人は、トレンチコートを着た長身で長髪の女、そして口には白い大きなマスクをつけ、右手には長いハサミを持っていたというから、まさに口裂け女風・・・。こりゃ、静川小学校の子供たちは用心しなければ・・・。

<三人三様の児童虐待が脚本づくりのミソ・・・?>
 物語を現代風にするためのベストチョイスは、テーマを児童虐待に設定すること。なぜなら、親殺し、子殺し、兄弟殺しという物騒なご時世の中、今や児童虐待が日常茶飯事となっているわがニッポン国では、それに結びつけて口裂け女を登場させるのが最も自然だから・・・?
 そんなわけで、ネタばらしになることを覚悟のうえであえて評論すれば、この映画は三人三様の児童虐待がミソ・・・。第1は、映画の冒頭に登場する山下京子先生(佐藤江梨子)が担任している生徒、佐々木美佳(桑名里瑛)に対する母親佐々木真弓(川合千春)による児童虐待。第2は、意外なことにこの山下先生自身がバツイチの女性で、実は自分になつかない娘を虐待した経験があり、それが原因で夫と離婚したらしい・・・。そして第3は、山下先生の同僚の松崎昇先生(加藤晴彦)が小さい時、兄や姉と共にその母親タエコ(水野美紀)から手ひどい児童虐待を受けていたということ。こう書けば、ミステリー性をつくり出すについて最大のポイントになるのは、約30年前の昇に対する児童虐待だということは容易に想像がつくはず。さて、その昇に対する児童虐待の実態は・・・?

<集団の登下校だけでは・・・?>
 小学校の近くで何か物騒な事件が起こると、必ず校長が訓示を垂れ、集団の登下校が実施されるが、果たしてそんな小手先の対応でいいのか、私はいつも疑問に思っているところ・・・。この映画でも、静川小学校の対応はそれ。
 今日は、山下先生が引率した集団下校が無事終了したと思ったのに、美佳がお母さんの元に帰りたがらないため、山下先生は2人でしばらく話をすることに。そこで、山下先生は美佳から唇、腕、首筋のキズを見せられたことによって美佳への児童虐待の実態を知ったのだが、「お母さんなんか嫌い」という言葉を聞き、思わず大声で美佳を叱ったため、美佳は逃げ出してしまうことに・・・。そして、美佳を追いかける中、突然美佳を捕まえたのが何とあの噂の口裂け女!腰を抜かしてしまった山下先生を尻目に、口裂け女は美佳をさらって行ってしまったから大変。
 なぜ、山下先生は「お母さんなんか嫌い」という言葉に反応して、美佳をきつく叱ってしまったのか。それは自らの体験に重ね合わせたためだが、私に言わせれば、こんなことでは、いくらキレイでスタイルが良くても、教師としては失格・・・?

<キーパーソンは松崎先生>
 三人三様の児童虐待の実態は前述のとおりだが、児童虐待の幼児体験を持つ松崎先生の耳には時々不気味な女の声が聞こえていた。また松崎には、今現実に被害が発生している口裂け女の正体について、思い当たるものがあった・・・。そして、松崎が1枚の古びた写真を山下先生に見せると、山下先生はあの美佳をさらっていった犯人の顔にそっくりだと証言した。この写真に写るのは一体ダレ・・・?それは松崎の母親のタエコの写真だった。
 このように、今出没している口裂け女が実は約30年前の松崎先生の母親タエコと同じ姿だということは、一体何を意味するの・・・?ここから話は急にホラー風に展開していくことに・・・。

<被害は次々と・・・>
 この映画には2人の美女の他、最近『紅蜘蛛女』(05年)と『紅薔薇夫人』(06年)でエロティックな肢体をさらし、急激なイメチェンを図った坂上香織も出演している。もっとも、彼女は美佳の親友である田村夏樹(桑江咲菜)の母親田村早織役だから、残念ながら今回はその妖艶さは封印・・・?
 いったん、静川町に現れた口裂け女による被害は、松崎先生の耳に不気味な声が聞こえるたびに次々と拡大していった。夏樹もその被害者の1人。ところが、何と夏樹を襲った口裂け女は、その母親早織の姿になったからビックリ・・・。さらに、口を裂かれた夏樹の姿を見せつけられたのは、その父親田村秀雄(松澤一之)だったから、その驚きと悲しみは・・・?
 この夏樹の被害の前にも、スクリーン上にはある場所で、松崎と山下の教師チーム(?)による口裂け女との壮絶な闘いが展開されるから、それにも注目。ハサミで襲われた松崎先生を助け、逆に果物ナイフで口裂け女の背中を何回も刺したのは、あの美人の山下先生。バッタリと倒れ込み息絶えた口裂け女だったが、数十秒後、その姿は何と全く別の女性に・・・。そう、口裂け女は、今を生きている女性にとり憑いて、次々と被害を拡大させていたのだった・・・。

<赤い屋根の秘密基地はどこに・・・?>
 単なるうわさ話とバカにしてはいけない。稀には、その中に重大な真実が含まれていることがあるのだ。「口裂け女は赤い屋根の秘密基地にさらった子供を隠している」という噂がまさにそれ・・・。松崎にはそのうわさ話に心当たりがあった。すなわち、かつて幼い頃、兄や姉と共に母親のタエコから児童虐待を受けていた子迎山の麓にあった家が、赤い屋根の家だったのだ。そんな松崎の頭の中に、今甦る30年前の忌まわしい記憶とは・・・?
 タエコの子供たちに対する児童虐待は常軌を逸するひどいもので、それによって既に兄や姉は死亡。そしてタエコも、幼い松崎が無我夢中で振りまわした包丁によって死亡し、納戸の中に入れられたのだった。その際、タエコの裂けた口にマスクをかけ、身体にコートをかけたのも幼い松崎だった・・・。ここまでネタばらしをしたついでに書いてしまえば、今やすっかり廃屋となったその家の納戸の中には、タエコの死体は既になくなっていた。すると、その死体は・・・?そして、30年後の今、さかんに出没する口裂け女の正体とは・・・?

<ラストシーンの賛否は・・・?>
 これ以上物語の顛末は書かないので、後はあなたの目でそのホラーぶりを確認してもらいたいもの。「私の首を切れ」というのが口裂け女の遺言だった(?)から、今度こそ、口裂け女の首を切ってしまえば一件落着となるはずだが・・・?
 ここで面白いのが、少し違和感のあるラストシーン・・・。最初に書いたように、あのやさしい山下京子先生も実は自分の娘をいじめた体験を持つバツイチの女性。したがって、娘は今父親が引き取っているが、口裂け女騒動がやっと解決した(?)後、京子はナニを思ったか、別れた夫に無理を言って、1度だけでいいので娘と2人だけで話をさせてほしいと申し出た。そんな申し出を承諾した元夫だったが、2人だけになってやさしく娘を抱きしめ、「ごめんネ」と言っていた京子は一体娘に何を語り、何をしようとしたのだろうか・・・?そんな京子がひょっとして突然口裂け女に変身したとしたら・・・?
 そんなあんなの想像力をかきたてながら、さてスクリーン上にはどんなラストシーンが展開されるか、大いに注目してもらいたいもの。そして、それについてのあなたの賛否のご意見は・・・?
                               2007(平成19)年2月6日記