日05−112

「蝉しぐれ」
           

                2005(平成17)年7月12日鑑賞<東宝試写室>

監督・脚本:黒土三男
原作:藤沢周平
牧文四郎/市川染五郎
牧文四郎(子役)/石田卓也
ふく/木村佳乃
ふく(子役)/佐津川愛美
牧助左衛門/緒形拳
登世/原田美枝子
島崎与之助/今田耕司
小和田逸平/ふかわりょう
磯貝主計/柄本明
犬飼兵馬/緒形幹太
里村左内/加藤武
青木孫蔵/大地康雄
東宝配給・2005年・日本映画・131分

<藤沢時代劇3作比較>
 藤沢周平原作、山田洋次監督による『たそがれ清兵衛』(02年)が日本アカデミー賞13部門を受賞したことに気をよくして(?)、あえて2匹目の「柳の下のどじょう」を狙ったのが『隠し剣 鬼の爪』(04年)だったが、この両者を比較すれば明らかに『たそがれ清兵衛』の方が上(『シネマルーム6』188頁参照)。今回の『蝉しぐれ』も藤沢周平の原作を黒土三男監督が映画化したものだが、原作の比較はともかく、映画のドラマ性やトータルとしての出来は明らかに『隠し剣 鬼の爪』よりも下。もちろんこれはあくまで私の独断と偏見にもとづく評価だが、さてあなたはどう思う・・・?

<この映画の最大の特徴は美しい風景>  
 『蝉しぐれ』というタイトルにふさわしい夏の風景はもとより、スクリーンで展開される冬景色も美しく、静かに流れる音楽と調和した映像の美しさは見事なもの。また、1億円の費用をかけてつくったといわれるオープンセットも、いかにも「海坂藩」のあの時代の家屋敷を再現したものでお見事という他ない。この点では決して『たそがれ清兵衛』や『隠し剣 鬼の爪』に見劣りしないが・・・?

<3人の友情物語は出色!>
 この映画が2時間11分と長くなったのは、主人公の牧文四郎(市川染五郎)とその親友の小和田逸平(ふかわりょう)と島崎与之助(今田耕司)の青春時代を詳しく描いたため。当然のように剣道に励む3人だったが、島崎与之助だけは剣の道に向いていない様子・・・。映画の前半では、青春時代の3人のそんな友情模様が、文四郎の隣に住む娘ふく(木村佳乃)を絡めながら、淡々と描かれていく。しかし、島崎与之助は学問で身を立てるべく1人江戸へ旅立ち、おふくも殿様の屋敷の奥をつとめるため、江戸に・・・。さて、みんなが再会できるのはいつ・・・?

<よくわからない藩内抗争の実態>
 15歳の文四郎を突如襲った悲劇は、尊敬していた父の助左衛門(緒形拳)が突然おとがめを受けたうえ、切腹を命ぜられたこと。その理由は、殿のお世継ぎをめぐる藩内抗争に助左衛門が巻き込まれたためだが、映画ではどうもこの藩内抗争の実態がよくわからない。去る7月5日にわずか5票差で可決された郵政民営化法案は、8月13日の国会会期末に向けて参議院での審議が大注目。参議院で否決されれば、解散・総選挙必至と言われており、自民党内の党内抗争は既に政局となっている感がある。そんな権力闘争は外から見ていれば結構面白いものだが、この海坂藩でのお世継ぎをめぐる藩内抗争の実態とそのポイントは・・・?               

<なぜ文四郎は名誉回復を?>
 ある日突然筆頭家老の里村左内(加藤武)から呼び出された文四郎は、何事かと心配しながら出頭した。次席家老だった里村は、当時の筆頭家老横山又助との派閥抗争に勝利し、父の助左衛門に対して切腹を言い渡した張本人だったから、文四郎が心配したのも当然。ところが意外にも里村が告げたのは、牧家に対する名誉回復と禄を元に戻し、「村回り」の役目を申しつけるというもの。もちろん、文四郎に不満があるはずはなく、その言い渡しをありがたく受け止めたが、実はこれも将来の布石のための、エサ・・・?
 しかし、この御沙汰のおかげで、文四郎は青木孫蔵(大地康雄)のもとで「村回り」の仕事に専念・・・。そんな中、江戸に留学していた与之助も戻り、立派な役職に・・・。親友「3人組」はこんな再会を喜び、しばらくは平和な時代を楽しんでいたが・・・・・・。

<おふくもお世継ぎ騒動に・・・?>
 1回目のお世継ぎ騒動は、その実態がよくわからないまま里村派が勝利し、今は里村派の天下。ところが殿様の「お手がついた」おふくが、1人目の子は流産したものの、2人目は男の子を生んだため、さらにややこしいことに・・・。
 今、おふくは磯貝主計(柄本明)が守る「欅御殿」に隠れていたが、里村が文四郎に命じたのは、その「欅御殿」に入って「お子」をさらってこいという無茶なもの。策略家の里村は「誰のおかげで名誉回復できたのか、わかっていような・・・」と嫌みなプレッシャーをかけたから、文四郎はこの命令を断ることができないまま・・・。そんな文四郎を応援したのは、親友の逸平と与之助。もっとも与之助は武力ではからっきし役に立たないので、途中までで・・・。

<文四郎はなぜそんなに強い・・・?>
 おふくが隠れている「欅御殿」を訪れ、磯貝主計立会いの下に、再会を果たした文四郎と逸平だったが、「欅御殿」には里村が命じた数十名の暗殺部隊が・・・。私にはどうも、ここらのからくりもよくわからない。どうせ「欅御殿」を襲って皆殺しにする計画なら、わざわざ文四郎に「お子をさらってこい」と命令する必要などないのでは・・・?
 それはともかく、こんな仕打ちを見た文四郎はおふくの味方となって、逸平と2人で暗殺部隊と対決することに・・・。文四郎は「ありったけの刀を貸してくれ」と頼み、畳の上に十数本の刀を刺し、それを順次使って暗殺部隊と決死の闘いを・・・。いくら剣道に励み免許皆伝の腕前とはいえ、真剣で人を斬ったことなどあるはずがない文四郎だが、次々と暗殺部隊の侍と斬り合う姿はそれなりにリアルで絵になるもの・・・。しかし、よく考えてみればこれってすごく不自然では・・・?。だってあんな狭い家屋敷の中で、たった2人で10名以上の敵とわたり合い、次々と斬り倒していくなんてことは到底不可能なはず。暗殺部隊のチームワークが悪いといえばそれまでだが、暗殺部隊の面々はあまりにも工夫がなさすぎる。さらに、文四郎も逸平も適当に(?)斬られているのだが、それはなぜかごく軽傷・・・?これでは殺陣の魅力も、『たそがれ清兵衛』や『隠し剣 鬼の爪』に遠く及ばないと言われても仕方なし・・・?

<文四郎VS犬飼兵馬の対決は?>
 父親が切腹を命ぜられ、「謀反人の息子」という汚名をきせられた文四郎だったが、剣の道にかけてはメキメキと頭角を表していった。そんな文四郎のライバルとして登場したのが、狂気の剣の犬飼兵馬(緒形幹太)。晴れの御前試合で対決した2人だったが、あくまで正攻法で攻める文四郎は妖術的な剣をあやつる犬飼の前に不覚の敗退。試合終了後、文四郎は師匠から「相手の動きに惑わされるな。心の目で見よ!」との教えを受けたが・・・。
 この2人の第2部のラウンドは「欅御殿」内。十数名の暗殺部隊が1人ずつ文四郎と逸平に斬られていき誰もいなくなったところに、この犬飼が登場した。こんなエース級が暗殺部隊のメンバーに入っているのなら、最初から登場すれば、きっと文四郎と逸平は斬られていたはずだが、どうも暗殺部隊のやることはチグハグ・・・。既に手傷を負い、疲れ果てている文四郎と、1度文四郎に勝っている犬飼との1対1の対決だから、文四郎は決定的に不利なはずだったが・・・?

<静かすぎてちょっと退屈・・・?>
 パンフレットには、この『蝉しぐれ』を観た企業人たちの称賛の言葉がたくさん載せられているが、そのほとんどは日本の原風景や四季の美しさ、そして父と子の絆や男の友情などを称えるもので、ドラマの内容そのものをほめるものはあまりない。これを見てもわかるように、ドラマ性という点ではこの映画はイマイチ。したがって、美しい風景も静かな音楽もいいのだが、静かすぎてちょっと退屈・・・?
                                   2005(平成17)年7月13日記