たそがれ清兵衛
                                   2002(平成14)年11月4日鑑賞
(藤沢周平原作/山田洋次監督/真田広之/宮沢りえ/田中泯/小林稔侍)

<本格的時代劇登場!>
 山田洋次監督はじめての時代劇。しかもその素材が、藤沢周平の短編「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」を原作として自ら脚本をつくったもの。そして主役は、かつて「麻雀放浪記」(1984年)ですばらしい演技を見せた個性的な演技派俳優であるあの真田広之だ。また、そのお相手は今や本格的女優への道に足を踏みこんだ感のある宮沢りえ。これだけそろえばもう期待がふくらんでくるのは当然だ。
 山田洋次監督の「男はつらいよ」は、さすがに見飽きた感があるが、それでも時々テレビでやっていると、何となく見てしまい、何となく心が暖かくなってしまうことには変わりはない。また昔大学生の時に観た「幸福の黄色いハンカチ」では、倍賞千恵子といっぱいにはった黄色いハンカチが高倉健を迎えるところでぽろぽろと涙を流したことをよく覚えている。思えば、あの髪の長い、ケッタイな顔をした歌手武田鉄矢もその後立派になったものだ。
 それはさておき、この「たそがれ清兵衛」という作品は、期待を裏切らない堂々たる日本映画である。

<映画の舞台は?状況設定は?>
 時代は幕末。舞台は現在の山形県の庄内(現在の鶴岡市)。ここは当時「海坂藩」7万石が治める土地だった。井口清兵衛(真田広之)は、この藩から50石をもらう下級藩士。蔵の出納を管理する仕事だ。妻は、労咳で死亡したため、幼い2人の娘とボケがきている母親を養わなければならない。そのため、清兵衛は職場の仕事が終わったアフタ−ファイブに、上司や同僚から一杯飲みに行こうと誘われても一切これを断らなければならず、「たそがれ」時には必ず家路に向かっていた。そのため心ない同僚たちが彼につけたあだ名が「たそがれ清兵衛」だ。
 この短いスト−リ−が描かれた後、初めてスクリ−ンに映画のタイトルがあらわれ、キャスト、スタッフ紹介の字幕が流れてくる。しかし、この出だしを見ただけで、そのモノト−ンの画面の美しさに息をのみ、また主人公清兵衛のいかにも無愛想、しかし子供たちに対する愛情に満ちたキャラクタ−が切々と伝わってくる。さすが山田洋次、さすが真田広之といった感じだ。

<男やもめの清兵衛>
 下級武士の暮らしは楽ではない。朝から夕方までは、役人として役所(お城)に出て1日中帳面つけ等の仕事。家に帰れば、内職や子供たちの世話。休日には田んぼの仕事etc。とにかく休む時がない。従って清兵衛は自分の身の回りに気を配るゆとりはない。フロにも入れず、着物は継ぎはぎで見すぼらしい。いわゆる「1人やもめ」の見すぼらしさを存分に発揮しながら、それでも清兵衛は役所の仕事に励んでいた。

<第1の見どころ−真田広之と宮沢りえの恋愛模様>
 こんな清兵衛に華やかさをもたらしたのは、清兵衛の友人飯沼倫之丞の妹朋江(宮沢りえ)。朋江はいわば清兵衛の幼なじみの「同級生」。いったん名家に嫁いだが、夫の酒癖が悪く、やっとの思いで離婚を成立させ、実家に戻ってきたところだ。そして清兵衛の娘たちと次第に打ち解け合った。やもめ暮らしの家にはじめて明るさと華やかさがもたらされたのだ。その行きつく先は・・・。誰にでも予想がつく。しかし当然2人は「時代の制約」という絶対的なものに縛られている。唯一ラッキ−なファクタ−は、朋江の兄貴は清兵衛を尊敬しており、清兵衛の良き理解者だということだ。この清兵衛と朋江の恋愛模様を、真田広之と宮沢りえは、まさに日本版、時代劇バージョンによる「ロミオとジュリエット」ばりに見事に演じている。

<第2の見どころ−すごい殺陣>
 次にスゴイのが殺陣。見せ場は2つ。1つは、朋江の離婚した酒乱の亭主を、清兵衛が木刀の小太刀でやりこめるシ−ン。さすが芸達者、真田広之の面目躍如たるところで、カッコいい。
 そして最後のクライマックスは、藩主の死亡に端を発した「お家騒動」のあおりでめぐってきた、清兵衛と一刀流の使い手、余吾善右衛門(田中泯)との死闘。「反逆者」の余吾を清兵衛が藩命により討ち取るという状況設定だが、その藩命の受諾にも清兵衛の人間性が如実にあらわれていて面白い。その任務の遂行ぶりも同じだ。つまり、刺客として余吾の家の中に入った清兵衛は余吾といきなり切り結ぶことなく、余吾のペ−スでの話し合いとなる。この対話の内容には、さすが山田洋次監督と思わされる奥深さがある。この一時の語らいの「間」を置いた上での勝負。それは明らかに清兵衛に不利な状況となっていた。しかし・・・。

<第3の見どころ−正確な時代考証と美しい映像>
 井口清兵衛を演ずる真田広之のセリフは決して多くはない。出世の欲を持たず、日々の暮らしを役所仕事と百姓仕事で支え、娘たちの成長を見守っている侍清兵衛が、寡黙なキャラであるのは当然だ。しかし、黙々と日々の自分の任務を果たし、精一杯生きている姿を本当に真田広之は見事に演じている。そして、それを支えているのが、黒澤明監督ばりの時代考証に基づく各種セット、そして何とも言えず美しい映像だ。暗い画面ながら、下級武士の暮らしの実感が本当によく伝わってくる。

<日本映画、ここにあり!>
 特別泣けるシ−ンを作っているわけではない。しかし、死闘に臨むにあたって、朋江に思いを打ち明ける清兵衛。負傷しながら無事に帰還してきた清兵衛を迎える朋江。これらのシ−ンは、ついどうしても涙が出てしまう。他方殺陣のシ−ンでは、固唾を飲んで思わず手を握りしめてしまう。そんな久しぶりに見る日本映画の名作だ。
 「時代劇」というジャンルは、当然日本にしかないものだし、これはドラマにしやすい素材だ。年末に封切りが予定されている「壬生義士伝」は、中井貴一と佐藤浩市主演の幕末モノの時代劇だが、私はこれも大いに期待している。長い低迷が続く日本映画界だが、このようなすばらしい作品を見ると、「日本映画も捨てたモンじゃない」「日本映画ここにあり!」と思えてくる。元気な日本を取り戻すために、山田洋次監督には一作ごとに集中してこのようなすばらしい作品を作ってもらいたいと思う。こんなすばらしい作品を提供していただいたキャストやスタッフの人たちに本当に感謝したい。
                                    2002(平成14)年11月5日記