洋画04年NO60
「紅いコーリャン(紅高粱/Red Sorghum)」
2004(平成16)年6月19日鑑賞<シネ・ヌーヴォ・中国映画の全貌2004>
監督:張藝謀(チャン・イーモウ)
九児/鞏俐(コン・リー)
余占鰲/姜文(チアン・ウエン)
羅漢/滕汝駿(トル・ルーチュン)
パンドラ/ポニーキャニオン配給・1987年・中国映画・91分
<張藝謀の第1回監督作品>
1982年に北京電影学院を卒業した張藝謀(チャン・イーモウ)は、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『黄色い大地』(84年)で撮影を担当し、『古井戸』(87年)では主演男優をつとめた。そして、1987年に監督としてデビューしたのが、この『紅いコーリャン』。1920年代の中国を舞台に、ロバ一頭と引き換えに病気もち(ちなみにこの病気はハンセン氏病)の造り酒屋を営む老人のもとに嫁がされた花嫁、九児(鞏俐/コン・リー)が主人公。この九児の人生を軸として、強引にこの九児と結婚する余占鰲(姜文/チアン・ウエン)のちょっと荒っぽいが力強い生き方、そして絶望的な状況下での日本軍との死闘が圧倒的な迫力と説得力の下で描かれる。
<第38回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞>
この『紅いコーリャン』は、第38回ベルリン国際映画祭のグランプリ、金熊賞を受賞した。この時張藝謀監督は37歳。これについて『中国映画の明星ー男優篇』(石子順著・2003年・平凡社)は、「張藝謀は授賞式で、小さな金熊像をかざしながら、『私は人民のために授賞式に立ったのです。私たちは全世界で一番多い映画観客を持っています−』と10秒ほどの受賞の言葉を述べた。張藝謀はヨーロッパの伝統的な映画祭で大賞を受賞した最初の中国人となったのである」と書いている(188〜189頁)。張藝謀監督の生き方とその活躍ぶりはこの本に詳しく書かれているので是非参照してもらいたい。
<映像の美しさは圧巻!>
この映画の映像の美しさは圧巻!まず映画冒頭の、花嫁の真っ赤な衣装、真っ赤な神輿、そして上半身裸で花嫁のこの神輿を担ぐ男たちとの対比が面白い。そして緑のコーリャン畑でのあっと驚く「出来事」。セリフがほとんどないこの冒頭シーンだけでも大きく圧倒されること請け合いだ。花嫁の衣装の他、真っ赤な夕陽とコーリャン酒の赤色が印象的。そしてこれと対比されるコーリャン畑の緑、夜の太陽の青、そして大地の黄色も美しく、その映像美の迫力はすごいのひとこと。
<鞏俐のデビュー作>
『紅いコーリャン』は、以降、張藝謀監督作品の主役として再三登場する鞏俐のデビュー作となったもの。これは「中国の山口百恵」と呼ばれる鞏俐が中央戯劇学院2年生在学中の大抜擢だ。張藝謀が探し求めていた女優にめぐり合い、以降「公私共に」パートナーとなった鞏俐との出会いのストーリーは、『中国映画の明星ー女優篇』(石子順著・2003年・平凡社)に詳しく書かれているので是非これを参照してもらいたい。
<印象的なコーリャン畑とコーリャン酒>
タイトルどおり、この映画では、コーリャン畑そのものが1つの主役。花嫁を乗せた神輿が担がれていくコーリャン畑での強盗の出現は意外だが、その強盗から九児を救った余占鰲と九児が情熱的に結ばれるのはそのコーリャン畑の中。コーリャンの穂を切り取った褥の中で、赤い服を着て横たわる鞏俐の存在感は抜群。今風のベッドシーンではないが、2人の求め合う気持がスクリーン上で十分に伝わった後でのこのシーンだから、その暗示力も強烈だ。そして後半の日本軍から村民たちが受ける迫害は、村人たちを総動員させてのコーリャン畑の刈り取り。さらに、最後に絶望的な抵抗を試み、九児などが日本軍の銃弾に倒れ、血で真っ赤に染められるのもコーリャン畑をはさんだ道の上。
他方、コーリャンからつくられる赤い色のコーリャン酒は、最後は日本軍のトラックを爆破するための道具として使われるという悲劇的な状況となるが、映画の中盤では幸せの象徴的な存在だ。無理矢理九児の家に入り込んで、九児との結婚を迫る余占鰲が、いたずらで小便を混ぜたところ、予想外の名酒ができあがったというエピソードもすごく面白い。
<姜文も1980年代のナンバーワン男優>
『紅いコーリャン』で鞏俐と共演した姜文は、既に『芙蓉鎮』(87年)で劉暁慶(リウ・シアオチン)と共演して有名となり、続いて『春桃』(88年)でも再度劉暁慶と共演して、連続して百花賞最優秀主演男優賞を受賞した俳優。そんな実績のある姜文は、この『紅いコーリャン』でも強烈な印象を観客に与えている。彼はその後もずっと多くの中国映画の主役をつとめ、近時は監督業にも熱心。『鬼が来た!』(00年)では、監督兼主役として登場し、2000年のカンヌ国際映画祭ではグランプリを受賞している。さらに最近は『ミッシング・ガン』(01年)や『天地英雄』(03年)等にも出演し、今や押しも押されぬ中国の大スターとなっている。この姜文についても、『中国映画の明星ー男優篇』を是非参照してほしい。
<何とも非道な日本軍!>
冒頭の九児の嫁入りシーンから始まった映画の前半は、造り酒屋の「おかみ」さんとなった九児とこれと強引に「結婚した」余占鰲との結びつきをテーマとしてダイナミックに物語が進行する。そして中盤では、結婚して子供も生まれ、家業も順調に推移している九児と余占鰲の幸せな姿が楽しげに描かれる。しかしそれも束の間、1930年代に入ると状況は一変し、突然スクリーン上には緊張感が・・・。日本軍の中国国内への侵攻だ。九児、余占鰲らを含む村人たちは徴集され、日本兵の銃剣に追い立てられながら足踏みによるコーリャン畑刈りを強要された。そして、見せしめのための処刑場となったその刈りとられたコーリャン畑の中で、抗日運動家と目された造り酒屋の番頭であった羅漢(滕汝駿/トル・ルーチュン)には、生きたまま頭皮を剥がされるという残忍な処罰が・・・。これをじっと見ているしかない九児、余占鰲らを含む村民たち・・・。しかし、その日の夜、九児、余占鰲は日本軍への反撃を決意。しかしその結果は・・・?
国際的に高い評価を受けた張藝謀監督の第1回監督作品において、日本軍の何とも残忍な行為が1つのテーマとして描かれているのは少し残念だが、この日本軍の残忍な行為は、これに抵抗する九児、余占鰲らの行動をより鮮明に印象づけているという効用もあることはたしか。まあ、仕方ないだろうが・・・?
<張藝謀監督への今後の期待>
張藝謀監督は、1999年の『あの子を探して』、2000年の『初恋のきた道』、2002年の『至福のとき』という、いわゆる「しあわせ三部作」を経て、近時は『HERO(英雄)』(02年)で、ハリウッドへの本格的進出を果たし、国際的に有名な大監督となっている。その張藝謀監督の最新作として予定されているのは、8月末に公開される『LOVERS(十面埋伏)』。予告編によれば、これは『初恋のきた道』で一躍大スターとなった章子恰(チャン・ツィイー)が盲目の踊り子として登場する、血湧き肉踊る作品のようだが、これも『HERO(英雄)』と同じく、CG(コンピューター・グラフィック)とワイヤーロープをふんだんに使った活劇映画という感じ。しかし1987年のデビュー作の『紅いコーリャン』や、しあわせ三部作を観れば、張藝謀監督の持ち味は、こんなCGやワイヤーロープを使ったハリウッド向け映画ではないはず、と思うのはきっと私だけではないだろう。ハリウッドへの進出やハリウッドでの名声の維持も大切かもしれないが、張藝謀監督にはやはり原点に戻って、中国人監督にしか描けない、本当に中国らしい映画をつくってもらいたいと思うのだが・・・。
2004(平成16)年6月21日記