洋画04年NO53
「トロイ(TROY)」
2004(平成16)年5月28日鑑賞<梅田ブルク7>
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
アキレス/ブラッド・ピット
ヘクトル/エリック・バナ
パリス/オーランド・ブルーム
ヘレン/ダイアン・クルーガー
アガメムノン/ブライアン・コックス
オデッセウス/ショーン・ビーン
メネラオス/ブレンダン・グリーソン
プリアモス/ピーター・オトゥール
ブリセウス/ローズ・バーン
テティス/ジュリー・クリスティー
ワーナー・ブラザース映画配給・2004年・アメリカ映画・163分
<「ホメロス問題」とは?>
ホメロスは紀元前8世紀後半のギリシャの詩人。そして彼の残した二大英雄叙事詩が、『イリアス』と『オデュッセイア』。このように、私たちは中学校の歴史の教科書で習ったはず。しかし・・・?
実は、この2つともがホメロスの作品であるかどうかはわからない、という説が近時有力とのこと。そしてこれを「ホメロス問題」という。もともと、『イリアス』も『オデュッセイア』も、ホメロスが文字で書いたものではなく、「吟遊詩人」という言葉からわかるとおり、これらの物語は口述されて伝承されてきたもの。いわば、日本の琵琶法師が平家物語を「語った」のと同じようなものだ。そうであれば「ホメロス問題」がおこるのも当たり前・・・?
<「トロイ戦争」はホント?>
トロイ戦争は長い間、「伝説の物語」とされていたが、紀元前12〜13世紀に現実にあった歴史的史実であることは、シュリーマンによるトロイの遺跡の発掘によって実証された。なお、5月29日の毎日テレビで放送された『世界・ふしぎ発見!』は、「トロイの遺跡発掘の真実と嘘」を特集していたし、5月30日の毎日テレビの『世界遺産』でも「幻の都はあったか?トロイ戦争の謎に迫る」を放送したから、これらの番組と映画をあわせて観れば、大いに勉強になるはず。
とはいっても、前述のホメロス作の『イリアス』のお話と、ギリシャの神々の伝説、すなわちギリシャ神話のお話が入りまじっているため、どれが本当のお話かはよくわからないそうだ。もっとも、トロイ戦争のきっかけは、一言で言えば色恋ザタのもつれ。つまり、トロイの王子である次男のパリス(オーランド・ブルーム)が、ギリシャ(スパルタ)の王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)を「奪い取った」ことがきっかけだ。そうなると、そりゃ自分の妻を奪われたスパルタ王メネラオス(ブレンダン・グリーソン)は怒るに決まっている。ギリシャ最大のミュケナイ王のアガメムノン(ブライアン・コックス)の指揮の下に、大規模なギリシャの遠征軍がトロイに迫った。アガメムノンはメネラオスの実兄だが、ヘレン奪還を口実にして、トロイの支配を目指していた。しかし・・・。
トロイは小さな都市国家だが、難攻不落の城塞だったため、ギリシャ軍はこれを容易に攻め落とすことができず、トロイの包囲は10年間も続いた。
<フリー百科事典『ウィキペディア』によるトロイ戦争とは>
フリー百科事典『ウィキペディア』によれば、トロイ戦争は、トロイ包囲10年目のある日の、「アキレスの怒り」から始まり、トロイの英雄ヘクトルの葬儀で終わる物語。そして、その中では、@アキレスの怒り、A総攻撃の開始、Bパリスとメネラオスの一騎打ち、Cアキレスの従兄弟の青年パトロクロスの出陣とその死、Dヘクトルとアキレスの一騎打ち、Eヘクトルの遺体引き渡しと葬儀、が語られる。意外なのは、あの有名な「トロイの木馬」の物語は、この『イリアス』の中には存在しないこと。つまり、トロイの木馬のお話は、ギリシャ神話のお話に登場するストーリーらしい・・・?
<松平千秋訳『イリアス(上・下)』(岩波文庫)によるトロイ戦争とは>
ホメロスの『イリアス』を日本語に翻訳したものが、松平千秋訳『イリアス(上・下)』(岩波文庫)。さっそくこれを購入した。文庫本ながら、上巻約450頁、下巻約500頁の大作で、とても全部は読めないが、大著だけに、タンタロス家とトロイア王家の家系図があり、また人名・地名索引があるので便利。
また、この本の売り文句は、「トロイア戦争の末期、物語はギリシア軍第一の勇将アキレウスと王アガメムノンの、火を吐くような舌戦に始まる。激情家で心優しいアキレウス、その親友パトロクロス、トロイア軍の大将ヘクトルら、勇士たちの騎士道的な戦いと死を描く大英雄叙事詩。(全2冊)」というもの。
家系図のトップはゼウス(の神)だが、彼(?)は最高神。また、前述のフリー百科事典『ウィキペディア』のあらすじはそれなりにわかりやすいが、本書(上・下)によれば、第1歌から第12歌(上巻)、第13歌から第24歌(下巻)までに分けられ、そのそれぞれにタイトルがつけられており、物語はもっともっと複雑なものであることがわかる。ちなみに、ヘレネとメネラオスとの間にはヘルミオネという子供もいる。面白いのは人や物の名を列挙する、いわゆる「カタロゴス」というもので、第2歌の後半に、ギリシャ軍勢の長大な「軍船表」と、トロイ勢の短い「軍勢表」が語られている。
<『イリアス』の映画化は?>
『オデュッセイア』は、過去そのまま映画化されたり、それをベースにした、カーク・ダグラス主演の『ユリシーズ』(55年)やテオ・アンゲロプロス主演の『ユリシーズの瞳』(95年)、ジョージ・クルーニー主演の『オー・ブラザー!』(02年)などが作られている。
しかし、あまりにも壮大な物語である『イリアス』の映画化は難しいのか、1955年にロッサナ・ポデスタがヘレンに扮した『ヘレン・オブ・トロイ』(公開題名は『トロイのヘレン』)があるだけ。これは、『サウンド・オブ・ミュージック』のロバート・ワイズ監督と、『風と共に去りぬ』の音楽監督マックス・スタイナーの二大巨匠が参加した歴史スペクタクルの傑作で、今回の『トロイ』公開に応じてDVDが発売された。さっそく観なければ・・・。
この映画『トロイ』は2時間43分の大作だが、どの原作に依ったわけではなく、言ってみれば、「いいトコ取りの寄せ集め版」。このように表現すると、マイナスイメージになるかもしれないが、決してそうではない。大軍同士のものすごい迫力の戦い、個々の英雄(戦士)たちのプライドを賭けた戦い、国の命運を左右するほど燃えあがる男女の恋などのストーリーを軸としながら、トロイの木馬や不死身の英雄アキレスのエピソードを交えて、その「充足度」は満点のモノ。
<アキレスVSパリス、ヘクトル>
この映画『トロイ』の主役は、不死身と恐れられるギリシャの戦士アキレス役のブラッド・ピット。日本ではこの「ブラピ様」だけに目がいきがちだが、おっとどっこい、トロイ側の男優陣もこれに負けず豪華。まず、スパルタ王メネラオスの妻ヘレンを奪い取るという、ちょっと無茶なトロイの王子パリス(次男)を演ずるのは、あの『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01年、02年、03年)のレゴラス役で一躍有名になったオーランド・ブルーム。しかし私の診断(?)では、このパリスは軟弱・・・?つまり「女には強いが、決闘には弱い」ようで、ヘレンの亭主メネラオスとの決闘を観ていると、何とも情けない・・・?さらに、最後も1人だけ逃げのびる役割のくせに、アキレスの唯一の弱点であるアキレス腱を弓で射るという役はどうも・・・?
次に、パリスの兄で、トロイ軍の総指揮官となるヘクトルを演ずるのはアン・リー監督の『ハルク』(03年)で、優秀な科学者でありながら、「緑色の怪物」「ハルク」に変身する主人公の苦悩を見事に演じたエリック・バナ。私の診断(?)では、これはホントの英雄(戦士)。人間離れした不死身の戦士アキレスには、所詮かなわないとわかっていても、そこは王家のプライドを賭けて戦わざるをえない。トロイ軍を指揮する若き総大将としての器と、戦士としてのプライド、そして妻と子供を愛し、トロイの国を愛する1人の男としての気持を率直に表現した、いいオトコ。ヘクトルの方がアキレスよりずっと男らしく魅力的だと思うのは、きっと私だけではないだろう・・・?
トロイ戦争がトロイの滅亡で終わるのは歴史的に明らかなことだが、果たしてこのギリシャVSトロイの戦いは、どちらに正義があったのか、また誰がヒーローで誰がアンチヒーローなのかは、よくわからないもの。しかしその中でもこの3人は、立場、役柄は異なるものの、基本的には「善玉」(?)として描かれている。
<悪役(?)はメネラオスとアガメムノン>
これに対して、ヘレンの夫でありスパルタ王であるメネラオスはちょっと損な役回り。奪われた妻を取り返すためトロイへの戦いを決断する夫といえば、善玉であってもいいはずだが、年齢、そしてブラッド・ピット、エリック・バナ、オーランド・ブルームの3人の美形(?)と対比した風貌からして損・・・?さらに、トロイ遠征軍の大将となるアガメムノン王のブライアン・コックスはもっと損な悪役。もっともアガメムノンは、自分の命令に従順に従わず、個人プレーに走り、名声を一人占めにするイヤな奴、アキレスに嫉妬している。そのためトロイの戦利品でありながら、アキレスが恋人としたヘクトルの従兄弟にあたるブリセウス(ローズ・バーン)を奪い取るという悪事も現実に働いているのだから、悪役も仕方ないが・・・。
<絶世の美女ヘレン比べ>
ハリウッドの有名女優たちがこぞって志願する中で、この映画『トロイ』のヘレン役を射止めたのは、ドイツ出身のダイアン・クルーガー。1976年生まれだから28歳。女性としてもっともいい時期(?)か・・・?そして、たしかに美しい。しかしこの映画では、女優陣はいわば「刺身のツマ」で、そのウエイトは非常に小さいもの。だから、十分その美しさを楽しむことができないのは残念。もっとも、ヘレンがとった行動はちょっと無茶だし、軽率のそしりは免れない。さらに、(旧)夫との決闘で無様な姿をさらしたパリスに対して、その愛情はいつまで続くのだろうか・・・?大きなお世話かもしれないが・・・?
これに対し『ヘレン・オブ・トロイ』(55年)は、ヘレンが主役のようだから、扱い方は全然違うはず・・・。
<なつかしいピーター・オトゥールとジュリー・クリスティー>
この映画には、なつかしい名優2人が登場する。その1人は、トロイのヘクトル、パリス兄弟の父親プリアモスを演ずるピーター・オトゥール。彼はいうまでもなく『アラビアのロレンス』(62年)で一躍トップ俳優となり、『ラストエンペラー』(87年)等でも大ベテランの貫祿を示している俳優。この映画で彼は、トロイの命運を決める決定を下さなければならない国王としての苦悩と、2人の息子を愛する父親としての優しさをうまく演じている。
もう1人はアキレスの悲劇を予見しつつ、2つの道のどちらかを選ぶように迫る、アキレスの母テティスを演ずるジュリー・クリスティー。もっともその出番は、ほんの少しだけ。彼女は、『ドクトル・ジバゴ』(65年)のヒロインのララの役に抜擢されて一躍有名になり、『華氏451』(66年)等にも出演した女優。
私が中学、高校時代に胸を踊らせながら観たこれら『アラビアのロレンス』や『ドクトル・ジバゴ』の主役が、今でもこのような超大作で大切な役柄を演じていることは、うれしい限り。
<男性版ミニスカートの流行か・・・?>
キネマ旬報6月上旬号の表表紙を飾るのは、『トロイ』のブラッド・ピット。そして15頁を割いた巻頭特集も『トロイ』。その巻頭特集でのブラッド・ピットのインタビューが面白い。「優しさと荒々しさ、ふたつの性質を併せ持つ」アキレスを、40歳を迎えたブラッド・ピットが演じるわけだが、ブラピは「年齢とともに賢明になるなら、年を取ることは大歓迎だよ」と述べている。また露出の多いチュニックを着用してギリシャの勇者アキレス役を演じたことについては、「スカートといったところかな。慣れるのに時間がかかったけどね。スタッフはずっと裾上げしたがってたよ(笑)」と述べている。
ギリシャ戦士が身につける衣装を「チュニック」というが、これはいわば脚を大きく露出したミニスカートともいうべきもの。ヘレンをはじめとする美人女優の出番に比べて、圧倒的に出番が多いアキレス、ヘクトル、パリスの3人の美形男優がそろって、長時間このチュニック姿をスクリーン上で見せるのだから、今年はひょっとして男性のミニスカートが流行することになるかも・・・?
2004(平成16)年5月29日記