洋画03年NO86

「法王の銀行家〜ロベルト・カルヴィ暗殺事件〜」


                               2003(平成15)年11月9日観賞
(ジュゼッペ・フェッラーラ監督/ロベルト・カルヴィ:オメロ・アントヌッティ/クララ・カルヴィ:パメラ・ヴィッロレ−ジ/カルボーニ:ジャンカルロ・ジャンニーニ/マルチンクス大司教:ルドガ−・ハウアー)(配給:アルシネテラン)

<ヴァチカンを揺るがした金融スキャンダル>
 この映画は2002年のイタリア映画。そしてこの物語はイタリアで1982年に発生したアンブロジアーノ銀行の頭取であるロベルト・カルヴィの死亡事件(暗殺事件)という、イタリアはもちろん欧米諸国全体を震撼させた一大金融スキャンダルを題材としたものだ。アンブロジアーノ銀行は、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の意を受けてマルチンクス大司教を総裁とするヴァチカン銀行(IOR)の庇護のもとに、全世界の「反共産主義」の活動組織に資金を提供していた。つまり、アンブロジアーノ銀行の頭取カルヴィは、「法王の銀行家」として、巨額の裏金を調達するヤミの顔を持っていたのだ。
 こんなカルヴィが1982年6月18日、ロンドンのテームズ川の橋の下で、首を吊られて死んでいるのが発見された。さあこれは自殺か他殺か・・・?
 調査は二転、三転したが、結局、1989年1月26日、イタリアの法廷は殺人の評決を下したが、犯人はもちろん挙がっていない。カルヴィの死亡はヴァチカンの秘密を暴こうとしたことへの警告か、それとも世界的な秘密結社フリーメーソンの掟を破った者への復讐なのか、それとも資金洗浄を拒まれたマフィアの復讐なのか・・・。今日に至るもその原因は解明されていない。この事件は、これほどすごい全世界を震撼させた、今世紀最大のスキャンダルなのだ。

<時代は1980年代>
 映画の冒頭、ワレサ議長が指導するポーランドの「連帯」へのアンブロジアーノ銀行からの資金援助のストーリーがあり、これは私の知識の範囲内で、ある程度理解できる。しかしこの資金援助はローマ法王のヨハネ・パウロ2世がポーランド出身だからだと言われると、「ヘエー」と思ってしまうのみ。また、ローマ法王の意向を受けて、ヴァチカン銀行(IOR)は、アンブロジアーノ銀行を通じて、ニカラグア、チリ、アルゼンチンなど中南米の独裁政権への資金援助もしていたとのこと。そして驚くべきことに、この独裁政権への資金援助はアメリカ大統領もやっていたとのこと。その理由は、ただ1つ。共産主義の浸透を防ぐためだ。こう考えると、ポーランドの「連帯」への資金援助も、ポーランドが共産主義国家であるソ連の支配下に入ることを防ぎ、ポーランドの「民主化」に協力するためだった、ということがよく理解できる。このようにヴァチカンの意を受けて、多額の裏金を全世界の「組織」に提供していたのがアンブロジアーノ銀行であり、その頭取がロベルト・カルヴィだったわけだ。

<一大金融疑獄事件のスタート>
 カルヴィのバックにはヴァチカン銀行(IOR)の総裁、マルチンクス大司教の他、もう一人重要な人物がいた。それはフリーメーソン系の秘密結社P2(ピ・ドゥーエ。Propaganda2の略称)の首領リチオ・ジェッリだった。日本人にはなじみが薄いが、世界的な「フリーメーソン」とは全世界的な網を張りめぐらせた巨大な組織でイギリスがその本家本元だ。
 カルヴィの悲劇は、財務警察の手によって、このフリーメーソン系の首領ジェッリの事務所からP2の会員名簿が押収されたことからスタートした。カルヴィはP2の財務責任者となっており、押収された会員名簿には962名の政府高官をはじめ、判事や企業家が名を連ねていたのだった。
 その結果カルヴィは不法な資金輸出の罪で逮捕。政府、財界、宗教界を巻きこんだ一大金融疑獄事件の捜査が始まったのだ。

<カルヴィの取るべき途は?>
 カルヴィが取るべき途は2つ。その1つはすべてを正直にしゃべること。これは最も楽な途。自分がすべて仕組んでやったことではない。ヴァチカン銀行からの指示やP2からの指示の下に、自分は実務的な処理をしただけだ、と供述すればいい。しかし、もしそんなことをベラベラとしゃべればどうなるか・・・?妻子はもちろん、場合によれば刑務所の中までカルヴィの「口封じ」のための手がのびてくることは必至。日本の○○疑獄事件、△△疑獄事件でも、「突然の秘書の死亡」などが報道されている例は多い。最近では北朝鮮の「首領」、金正日の妻で次期後継者金正雲の母親として一時期まつりあげられていた高英姫が突如、交通事故に遭ったという話がその典型的なもの。そうそう偶然に交通事故が発生するはずはなく、何らかの秘密組織の手が加わっていることは間違いない。さまざまな小説やドラマに描かれているこのような「ウラ話し」は決して誇張ではなく、現実に起こっているはずの話なのだ。
 他方、カルヴィが選ぶもう1つの途は、「完全黙秘」を通すこと。そうすれば自分の銀行頭取としての地位は終わっても、生命だけは保証されるだろう。また、その途を選べばヴァチカンやP2からの援助も期待できるというものだ。

<日本の金融スキャンダルや疑獄事件は?>
 土地バブルに踊った私たち日本人もさまざまな金融スキャンダルを経験した。その典型として描かれた映画が『金融腐食列島・呪縛』(99年)だが、これすらも日本人には理解することが難しい社会的テーマだ。
 今現在も進められている不良債権の処理。そのシステムは難しく、竹中平蔵経済財政担当大臣、金融大臣が提唱した、いわゆる「竹中プラン」を日本国民のどれ程が本当に理解できているかと考えれば、それは大いに疑問。また近時立ち上げられた「産業再生機構」が期待されたほどの役割を果たしていないなど、金融問題の処理は極めて難しい。
 期しくも今日、2003年11月9日(日曜日)は、衆議院議員総選挙の投票日。私はその結果がどうなるかに大きな興味をもちながら、今この原稿を書いているが、長期経済不況からの脱出、デフレの克服の方向性をどの政党が本当に示しうるのか、大いに興味をもって見守っているところだ。

<あまりにも難解なヴァチカンの金融スキャンダル>
 日本の金融スキャンダルですら理解が難しいのだから、宗教界をも巻き込んだ世界的な金融スキャンダルともなると、その理解はとてつもなく困難だ。その上、フリーメーソンやマフィアが絡み、ポーランドの「連帯」や中南米の独裁国家などの国際関係が絡み、そしてイタリア国内のキリスト教民主党のみならず、社会党や共産党とのつながりまで関係してくるとあっては、私達日本人には到底その意味づけを理解することは困難だ。
 映画には当然ながらさまざまな人物が登場し、ストーリーはスピーディな展開を見せる。そしてカルヴィも協力したり、抵抗したり、逃亡したりと精力的な活動を見せる。そしてこれを支えるのが妻のクララと愛娘。男たちの前では決して弱みを見せないカルヴィも、ベッドの中で妻だけには涙を流し、「人間カルヴィ」の素顔を見せる。
 物語は次々と進んでいくが、観ている私には一体どんな結末になるのか、全く予想もつかない。そして結末は・・・?

<勉強の素材に最適>
 1982年にヴァチカンを揺るがした、こんな一大金融疑獄事件があったことを私はこの映画を観てはじめて知った。そして『法王の銀行家』というタイトルの意味も、この映画を観て、そしてパンフレットを熟読してはじめてよくわかった。日本人の多くは、私と同様、こんな事件があったことなど知らないはず。日本の金融問題を理解するためにも、そしてまた、狭い日本だけの視野で物事を見ないためにも、是非こういう難解な映画にもチャレンジしてもらいたいものだ。
                                  2003(平成15)年11月10日記