「山の郵便配達」       
                                 2001(平成13)年9月2日鑑賞
  (フォ・ジェンチイ監督/トン・ルゥジュン/リィウ・イェ/ジャオ・シィウリ)

<まだ残る中国の素朴さ>
 これは中国映画。1980年代初め、中国湖南省の山間部で、集落から集落へ手紙を届け
る郵便配達員の物語である。

 当時の郵便配達員は、郵便物をいっぱい入れた重たいリュックを背負って、険しい山の道を歩いて配っていくものだった。長年、このつらい仕事を続けてきた父親は、足が悪くなり、遂に、この仕事を息子に譲ろうと決心する。そして、最後の2泊3日の配達を、息子と、これも長年一緒だった「次男坊」という名前の愛犬とともに出発する。息子は大人になるまで、留守がちの父親と接することは少なく、距離を感じ、恐がってさえいたが、3日間この父と一緒に山道を歩き、また各集落で温かく迎えられる父親の姿を客観的に見る中で、しだいに父への尊敬の念を強めていく。息子は寡黙な父親を支えながら自分を育ててくれた、母親の姿を、ある集落で出会った美しい娘に見いだす。また、父親の背丈を超えた息子が、父親を背中におぶって、橋のない川を渡って歩く中、父親は大きくなった息子のことを身体に感じ、ついに涙ぐむことも・ ・ ・ ・ 。

 何百回と繰り返された2泊3日の郵便配達は、父親にとっては今日が最後だが、息子にとってはこれがスタ−トである。その1回の旅で、息子は、父親の人間としての大きさや立派さを確認するとともに、その父親が長年やってきた、つらい山の郵便配達という仕事への誇りを、自分のものとして引き継ぐことを決心する。
 そして1日休んだ翌日、息子は、今度は一人で「次男坊」を連れて、再び山の郵便配達へ出かけて行く。

<日本人が失ったもの・・・>
 1時間33分の短い作品だが、山の郵便配達という仕事を軸として、父親と息子、父親と母親、母親と息子の気持ちの動きを追う中で、貧しい山のまちの中で、ひっそりと、黙々と生きる中国人たちの素朴さ、そして、自然の美しさと厳しさに、ただ、ただ率直に感動することうけあいである。
 唯一の華やかなシ−ンは、ある村での婚礼の日の美しい少数民族の娘との出会いだ。キラキラした目で見つめ、大きな声で笑い転げるその娘の魅力は、今の日本では絶対お目にかかることのできないものだと思う。また、ゆっくりと回るカメラに写る、中国湖南省の山々の景色の美しさもそうだ。

 改革・開放政策が進む中、中国でもこの映画に描かれたような、素朴な美しい人間関係や景色は、次第に失われていくだろう。だからこそ、心の中に、永遠に残しておきたいと思う、美しい作品である。
                                         2001(平成13)年9月記