洋画03年NO65

「インファナル・アフェア」

                  2003(平成15)年8月20日鑑賞 <ヘラルド試写室>
(アンドリュー・ラウ(劉偉強)&アラン・マック(麥兆輝)監督/アンディ・ラウ(劉徳華)/トニー・レオン(梁朝偉)/アンソニー・ウオン(黄秋生)/エリック・ツァン(曾志偉)/ケリー・チャン(陳慧琳)/サミー・チェン(鄭秀文))(配給:コムストック)

<香港の2大俳優の「対決」>
 主人公のヤン(トニー・レオン)とラウ(アンディ・ラウ)は共に18才。警察学校で学ぶ身だ。2人とも優秀。しかしなぜかヤンは退学処分に。こんなヤンを見送るラウは、本当は「俺も退学処分になりたい」と考えていた。
 そのわけは・・・?

 「警察学校の規律を破ったから」というヤンの退学理由は、世間へのカムフラージュ。ヤンはその優秀な能力を上司のウォン警視(アンソニー・ウオン)に見込まれて、マフィアへの「潜入者」になる指名を受けたのだ。
 他方ラウは、警察の情報を取り込むため、既にマフィアのボスサム・ホン(エリック・ツァン)の命令で警察学校に入学し、日々訓練を受けていたのだった。

<それから10年>
 それから10年。上司であるウォンやボスであるサムの命令は絶対、という立場には変わりないものの、今や2人の立場の「優劣」は大きく変化していた。すなわち、
 ヤンは既に昔の恋人メイ(エルヴァ・シャオ)と別れてしまったうえ、10年にもわたるマフィアへの潜入に疲れ果てていた。そして上司のウォンに早く元の警察官の立場に戻して欲しいと懇願するが、マフィアの一斉摘発を狙うウォンは、まだそれを許してくれなかった。今のヤンの唯一の心の安らぎは、精神カウンセリングを受けている女性ドクターのリー(ケリー・チャン)だけ。

 他方ラウは、人気女流作家のメリー(サミー・チェン)と「いい関係」を保っているうえ、警察官として順調に出世を重ね、安定した生活を手に入れていた。
 こんな対照的な2人の男の姿を、香港の2大スターであるトニー・レオンとアンディ・ラウが見事に演じている。

<上層部の思惑は・・・?>
 ウォン警視の狙いは、マフィアによる覚醒剤の取引現場を押さえ、一斉に検挙すること。その情報収集のために、優秀な警察官を危険にさらしながらマフィアに潜入させているのだ。
 そして今日はそのチャンス。一斉検挙に向けての手はずはすべて完璧(なはず)だった。しかし・・・。
 これはマフィアのボス、サムも同じ。最も信頼するラウを警察組織に潜入させているのは、「手入れ」に関する警察情報をリアルタイムで入手するためだ。そして今日はそのチャンス。大きな取引の成功に向けて準備は万端(のはず)だった。
 しかし・・・。
 お互いの思惑は今日、見事にはずれてしまった。なぜだ・・・?内通者がいる・・・!結構スリリングな導入部。そしてここからのストーリー展開も面白い。

<「潜入者」と「忍びの者」>
 警察官が犯罪組織に「潜入」するという物語は、香港生まれのジョン・ウーが監督し、あのジョン・トラボルタが顔の整形手術という危険を犯して挑んだ「フェイス・オフ」(1997年)などいくつもある。
 また考えてみれば,日本でも、昔の「忍者」(忍びの者)は、情報の収集・提供という任務のため、自分の立場を隠して陰の存在に徹していた人たちだ。だから、その陰の存在である「潜入者」との連絡は極秘であり、「忍びの者」の場合は、一生涯を陰の存在として生きたという話もあるくらいだ。
 これは『忍びの者』からの学習によるもの。村山知義原作の小説『忍びの者』を山本薩夫監督、市川雷蔵主演で映画化した『忍びの者』第1作(1962年)は、それまでマンガのように描かれていた「忍者」という存在に、リアリズムを持ち込んだ画期的な映画。「忍びの者」の社会的役割や忍者社会における上忍・下忍の階級性の厳しさなどがよく描かれていて、面白かった。以降、全8作のシリーズ化の基礎になった作品だ。

<大活躍するケイタイだが・・・>
このように本来、「潜入者」とこれを送り込んだ側の組織のトップとの「ホットライン」はそうそう頻繁に使えるものではないはず。なぜなら、そんなことをやっていれば、すぐにバレてしまうから。しかし、この香港映画は、この大切な前提をかなり無視していると言わざるを得ない。
 つまり、ヤンもラウもお互いの上司やボスに対して、何回もケイタイで直接連絡を取っているし、結構頻繁に会って情報交換をしているのだ。「潜入者がこんな自由な行動をとれるはずないやんか!」と思わず叫びたくなったが、それはこの際おいておこう・・・。
 その「不満」さえ封印すれば、この映画のストーリーはスリリングで、実によくできていると思うから。

<はっきり分かれる明と暗>
 こんなスリリングな映画についてのストーリーの解説はヤボというもの。それは映画を観てのお楽しみだ。しかし最後の結末において、明と暗がはっきり分かれるのは、興味深い。
 マフィアのボスのサムは、冒頭のシーンで「自分の人生は自分が決める」と部下たちに訓示していた。そしてその言葉通り、自分で人生を選択したのはラウ。他方ヤンは、あくまで優秀なエリート警察官だったのかもしれない。こんな2人の人生の選択について、観客はきっと、「ヤン派」と「ラウ派」に分かれると思う。そして、これは、ヤンとラウの生き方の選択についての好みだけではなく、俳優としてのトニー・レオン(梁朝偉)とアンディ・ラウ(劉徳華)のどちらにより大きな魅力を感じるかも含めて、はっきり分かれるだろう。
 実は、私は○○の方が好きだが、果たしてあなたは・・・?

<10月公開で大ヒットか?>
 この原作の映画化権をめぐっては、ハリウッドのメジャー各社が争奪戦を繰り広げ、ハリウッド史上最高の金額でワーナー・ブラザースが獲得したとのこと。そして2002年の香港上映では、数々の記録でNo1となったうえ、第22回香港フィルム・アワードでは、最優秀作品賞、最優秀監督賞など7部門を受賞している。
 日本での公開は2003年10月の予定だが、果たして大ヒットするだろうか・・・?
 ちなみにヤンを演ずるトニー・レオンは、2003年8月16日に公開され、大ヒットしているチャン・イーモウ(張藝謀)監督の『HERO(英雄)』で、趙国の刺客、残剣(ツァンジェン)を見事に演じている役者だから、この『HERO』の大ヒットを受けて、『インファナル・アフェア』も大ヒットする可能性は十分だ。
                                 2003(平成15)年8月20日記