洋画03年NO25
「二重スパイ」
2003(平成15)年4月24日鑑賞<試写会>
(キム・ヒョンジョン監督/ハン・ソッキュ/コ・ソヨン/チョン・ホジン/ソン・ジェホ)(配給:ギャガ・ヒューマックス/東映)
<緊張感の持続するホンモノのスパイ映画>
『シュリ』(2000年)、『JSA』(2001年)に続いて、南北朝鮮問題を、「二重スパイ」という過酷な立場の人物を通して、真正面から描く話題作。韓国では2003年1月に公開され、オープニングの2日間で『シュリ』の16万人を上回る30万人を動員したとのこと。
予告編を観た時から、「これは絶対観なければ・・・」と思っていた作品を、6月7日の公開に先立って、試写会で観ることができた。
結果は・・・大感激。
この映画には007シリーズやCIA、FBIの諜報員を扱った八リウッド製スパイ映画のような派手さはない。しかし、ひと昔前の米ソ冷戦という現実を前提とした、「寒い国から帰ってきたスパイ」(ジョン・ル・カレ著)のように、東西ベルリンの壁を描いたホンモノのスパイ映画の緊張感があり、2時間3分という上映時間の間ずっとそれが持続する傑作だ。
その理由は第1に、南北2つに引き裂かれた朝鮮半島という現実があるから。そして第2に、主役2人の存在感は当然として、脇役の俳優たちの熱演があるからだ。もっとも、ラストのつくり方には、大いに不満があるが・・・。
<オープニングは軍事パレード>
映画の冒頭シーン約5分間は北朝鮮の軍事パレードシーンの大写し。「市民」の歓喜の中、誇らし気にミサイル、戦車等の各部隊が行進していく。これを盛り上げる音楽も実に荘厳。これを満足気に見つめ、時折り手を振るのは、もちろん「首領さま」の金日成(キム・イルソン)だ。
怖いなあと思いながら見ていても、次第に高揚感をもってそのパレードに圧倒され引き込まれていきそうな自分が恐ろしい・・・。
<「脱北」劇は東ベルリンから>
ストーリーは主人公イム・ビョンホ(ハン・ソッキュ)の「脱北」シーンから始まる。舞台は東ベルリンの国境だ。不安気に出国ゲートに並びながら順番を待つビョンホ。そして自分の番が来た。パスポートを示し、係員のチェックを無事終了。いよいよゲートをくぐって「西側」に足を踏み入れようとした。すると、その背後に突如、車のブレーキ音。「あの男を捕まえろ!あの男はスパイだ!」。
しかし、東ベルリンの北朝鮮大使館に勤務していたビョンホは、銃で足を撃たれながらも無事東ベルリンを出国した。そしてこれを迎えた西側(韓国)の諜報員は、「自由世界へようこそ!」とビョンホを歓迎(?)した。この出来事は1980年6月のことだった(もちろんこれは架空の物語)。
<ホンモノの1980年ー南北朝鮮の緊張情勢>
1980年5月18日、有名な光州事件が発生した。これは前年の1979年10月26日発生した朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の暗殺事件後、急激に高まった「ソウルの春」と呼ばれる民主化運動を弾圧した事件で、1989年6月の中国における「天安門事件」と同じようなショッキングな事件だ。すなわち、急激な民主化に危機感を持ち、巻き返しを図った軍部は、非常戒厳令を全土に拡大し、金大中(キム・デジュン)ら反政府活動家を逮捕した。そして光州でおこったこれに抗議する大規模なデモに対して軍部が出動し、無差別発砲によって武力弾圧を加えたのだ。そして、その3ヶ月後の9月、全斗煥(チョン・ドゥファン)が第3代大統領に就任した。
さらに1980年代半ばには韓国全土で反政府民主化運動が勃発した。1987年の民主化宣言、1988年のソウル五輪開催に至るまで、韓国は激動の80年代を過ごしたのだった。
他方北朝鮮では、1980年10月金日成(キム・イルソン)の息子金正日(キム・ジョンイル)が政治局常務委員などの要職に就任し、金日成独裁国家の世襲体制が固まりつつあった。
1962年のキューバ危機、U2機撃墜事件等に見られた、1960年代のケネディとフルシチョフ時代の米ソ冷戦構造は、1980年代に入り新たな局面を迎えていた。すなわち1979年にソ連はアフガニスタンに侵攻し、アメリカでは1981年にレーガン政権が誕生し、「新冷戦」の流れが定まっていったのだった。
このような1980年代の南北朝鮮の激動そして米ソを軸とした東西冷戦の構造という歴史の中で発生したさまざまな歴史的事実は、1つずつきちんと勉強しておくべきことを肝に命じておきたい。
<二重スパイとスリーパー・スパイ>
「二重スパイ」イム・ビョンホを演ずるのは、主演作が必ずヒットすることから「興行の保証手形」の異名をとるハン・ソッキュ。「脱北」を決行したビョンホには、「自由国家」韓国の国家安全企画部(安企部)での厳しい取り調べと拷問が待ち受けていた。これを耐えて安企部のペク・スンチョル団長(チョン・ホジン)に身柄を預けられたビョンホは、武装スパイの軍事教官の仕事に従事し、次第に信頼を獲得していった。そして2年後、ビョンホは、遂に安企部の要員として正式に採用されることになった。「二重スパイ」の誕生だ。ビョンホは今や立派な「二重スパイ」として外面と内面を完全に分離させ、来たるべき「北」からの指令を実行すべく、日々、「南」の安企部の主任としての仕事をこなしていた。
このビョンホと連絡をとるのは、「北」の要人を父に持ちながら「南」で生まれ育ったスリーパー・スパイ(韓国内に潜伏して活動するスパイ)のユン・スミ。スミを演ずるのはコリアン・ビューティーの代表格として大活躍中のコ・ソヨン。『JSA』の李英愛(イ・ヨンエ)と同じような顔だちで、本当に美人。日本で言えば、松たか子風か・・・。
真剣な映画だから、この際、これ以上の坂和流の脱線はやめておこう・・・。
<心を打つハン・ソッキュの名演とコ・ソヨンの悲しみ>
ストーリーを面白くしているのは、ビョンホを信頼しているペク団長がビョンホに「身を固める」ことをすすめ、日曜日毎に通う教会でパイプオルガンを弾いているスミをビョンホに紹介したことだ。これによって2人は、外面上は結婚を前提として交際している男女として、しかし内面は「北」からの指令を伝える女スパイとその指令を実行すべき「二重スパイ」としてつき合っていくことになった。もちろん男も女も任務には忠実。そしてこの「つき合い」の中、恋心が生まれてくるのも自然なこと。
しかし、ここでスミの身辺に大事件がおこった。スミの父親代わりとも言うべき大物スパイ青川江(チョンチョンガン)(ソン・ジェホ)が逮捕されたのだ。この逮捕はスミのスパイとしての使命感とビョンホに対する恋心とのバランスに大きな影響を与えた。「北」からの青川江抹殺の指令をビョンホに伝えれば、自分たちも同じ運命になると知ったスミは、その指令をビョンホに伝えなかったのだ。それをビョンホになじられたスミは、遂に「一緒に逃げて!北でも南でもないところへ!」と叫んでしまう。2人がギリギリの極限状態の中でスパイ活動していることがよくわかるだけに、心を打たれるストーリー展開だ。
そしてこの緊張感を持続させるのが、ビョンホの上司ペク・スンチョルを演ずるチョン・ホジン。「南」のスパイ組織の責任者としての厳しさの反面、日曜日毎に見せる家庭内での優しさやビョンホへの信頼をうまく演じて大きな存在感を見せており、実に貴重な脇役だ。
<ラストはもう少し工夫を・・・>
物語は本線も伏線もよくできている。そして配役も上出来だし、音楽もすごくいい。しかし問題はラスト。
老スパイ、ソン・ギョンマンが逮捕されれば、彼と接触していたスミの素性がバレるのは時間の問題。しかしスミは無事脱出し、リオデジャネイロへ逃がれることができた。そしてビョンホは最後の「賭け」を実行した。これはもちろん命懸けだ・・・。
そして画面は突然2年後のリオデジャネイロに移る。ビョンホは漁港で働いていた。そしてアパートではスミがビョンホの帰りを待っていた。。「このまま無事に幸せな家庭を築きましたとさ・・・」で終わるはずはないと見ていたら・・・。
ここでは、これ以上書かないでおこう。そしてこの映画を観た皆さんの御意見をお聞きしたいと思う。ただし私としては、このラストのつくり方には大いに不満があることを強調しておきたい。
<第4作、第5作に期待>
シリアスな韓国映画は実に面白くて興味深い。これは何といっても時代背景や政治状況の緊張感のおかげだ。そして主役の「二重スパイ」のハン・ソッキュもいいが、何といっても女優がいい・・・。コ・ソヨンはいい。そして『シェリ』のキム・ユンジンも、『JSA』の李英愛(イ・ヨンエ)もいい、みんな最高!
第4作、第5作を期待したい。
2003(平成15)年4月25日記